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中途半端な気温の日、俺がわざわざスーツを着てこのきらびやかな場所に来た理由は、そう。今日は成人式なのだ。俺が高校を卒業した日からはやいもので、もう大人だ。これからはきちんとしなければいけないのだ。もうあの日のような学校の帰り道に腐れ縁のやつとコンビニに寄り道をして犯罪ギリギリの場所で菓子パをしたり、休みの日にゲームセンターをはしごしたり、夏休みに補習を受けたりする日々は戻ってこないと思うと目から汗が出てくる。これは決して涙ではない。決して。
「えー!久しぶり〜!」
「それな!!高校以来だよな〜!」
「あれからみんななにしてるの?」
「俺就職した〜」
「「意外!!」」
「なんでお前らそこだけ声合わせんだよ… 」
青い春を抜け出し目の前の現実に耳を傾けるといろいろな声、心情、思い出が聞こえてきた。ふとスーツを着ている自分に笑えてくる。
「はぁーーー!!これから大人かよ〜だるいなーーー!もっと遊びたーーーい!」
って、誰に言ってんだか。
「あれ?え、久しぶりーー!覚えてる?隣のクラスだった私のこと!」
あぁ。思い出した。俺がまだ現実を見たくなかったのはこの人に恋していた期間が長いものになると気が付きたくなかったんだ。忘れるわけない。あの日から今日までずっと恋していたんだ。叶わない恋だとしても。
『なに?急に話って?らしくなくな〜い?』
『ちょっとね』
『真剣な話?』
『うん そうだよ』
『俺と付き合って―』
『待ってごめん彼氏から電話きた』
『もしもし?』
『ほんとにごめん!真剣な話の時に!彼氏空気読めなくて!ほんとに!後で殴っとくわ!!』
『え……彼氏…いるの?』
『あれ言ってなかったけ?』
『最近できたんだよね〜 それで話って?』
『ごめん…やっぱなんでもないわ…』
そうやって逃げたあの日からずっと言えずにいた。「この子には彼氏がいる」とかくだらない理由で。彼氏がいても自分の気持ちをぶつければいいだろ。付き合えなくても。バカか俺。
「どうかした?やっぱり私の事覚えてない?」
「いや!全然覚えてるよ!久しぶり!」
止まれ心臓。この時だけは言うこと聞いてくれ。
「でさー!私の親がまじでいらつくんだよね!!」
「そうなんだ」
久しぶりに話した君はあの頃からなにも変わってなかった。いや、顔とか背格好は大人になっているのだが。やっぱり俺の好きな人はこういう人だというのを改めて実感させられた。
「そういえば彼氏とは最近どうなの?」
気になった。ただそれだけの事。嫉妬とか略奪愛とかそういうのはこんだけ片思いしてたら頭にはなかった。
「あ〜別れたよ」
・・・え?
「え?」
「あれ私言ってなかったっけ?」
「なんか合わなくてさ〜別れた!」
君はいつもそうだ。俺にとって大事なことを言わないんだ。君にとって悲しいニュースも明るい笑顔ではっきり言う君も大好きだ。俺は君の全部が好きなんだ。
・・・チャンスはあるかもしれない。
「へ〜そうなんだ」
俺はもう逃げない。言うんだ。俺の思いを。
「あのさ、急でほんとにごめんなんだけど」
「俺と付き合って―」
その瞬間目が開いた。俺の部屋の天井だ。なぜか横になっている体を動かすと目覚まし時計と目が合った。
あ、これ夢か。