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いやもう、二宮くんの「大方、同情」からの「……と、微かな興味」、ここがたまらなかったです😭 口では「無理」って言いながら、教科書を真ん中に置いてくれる優しさ。彼の辛辣さの裏にある誠実さがすごく沁みました。冴木さんの「もう誰も好きにならない」という諦めも切なくて、でも二宮くんの存在が少しずつその壁を揺らしている感じがする…。続きがすごく気になります!
「ふんッ‼」
変な気合の声を出しては、ノックではなく、ドアを蹴り上げてしまった。
「えッ⁉」
その音に驚いた二宮弟が隣の部屋から飛び出してきた。
「二宮弟‼ 二宮くんの部屋のドア、一緒に押さえて‼ 殺される‼」
その二宮弟を巻き込んで、二宮くんが部屋から出て来れないように、2人で二宮くんの部屋のドアに付加を掛けた。
「何やってんの、冴木‼ お礼を言うんじゃなかったのかよ」 二宮弟が、肩で私をど突いた。
「だって、やっぱりあんな目に遭わされたことがムカつくんだもん‼」
「物分りいい女演じといて、結局かよ」
二宮弟、半笑い。もう、苦笑いを返すしかない。
「で、どうする? 俺が押さえてる間に帰る?」
二宮弟は、私を甘やかす優しい提案をしてくれたけれど 、
「イヤ。私、二宮くんに言いたいことがある」
私には、二宮くんに言わなければいけないことがある。
「二宮くん、ドアを蹴り上げてごめんなさい」
ドアを蹴ったお詫びと、
「あと、制服。お洗濯してもらった上にアイロンまで……。ありがとう」
制服のお礼。それと、
「……私はビッチだけど、誰でも良くないんだよ‼ お家に呼ばれて来たのは、二宮くんだからだよ‼ 私の間違いを指摘してくれて、正しい答えを教えてくれる、二宮くんだからだよ‼ 私、二宮くんのこと、一方的に信用してるから。二宮くんだから、そうなっても構わないって思ったんだよ‼ 私を元カノと一緒にしてくれるなよ‼ 私はそこまで腐ってないんだよ‼」
文句を叫ぶ様に怒鳴りつけた。
一気に言いたいことを全部吐き出し、興奮冷めやらぬ為、肩で息をしていると、
「もう1発くらい蹴っとけば?」
二宮弟が私の背中を擦りながら、唆した。 ドアの向こうからは何の音もしない。
無反応な二宮くんに苛立って、
「ふんッ‼」
足を振り上げもう1発、渾身の一撃を。
「逃げろ‼ 冴木‼ ココは俺に任せろ‼」
二宮弟が、何故か少しだけ笑って私を逃がす。
「頼んだぞ‼」
二宮弟の笑顔の意味は分からなかったけれど、いよいよ本気でヤバイだろうと思い、一目散に二宮家を立ち去った。
————-翌日、行きたくない気持ちを押し殺して学校へ向かう。
どうせ学校へ行ったって、授業は受けられない。 それなら学校へは行かずに、どこかで時間を潰せば良いではないかと思うけど、そんなことをしてしまったら学校へ行くきっかけを見失ってしまいそうで。
ひたすら足元に視線を落としながらとぼとぼ歩き、そのまま校門を抜ける。
「冴木」
後ろから私を呼ぶ声がした。
嫌われ者の私に声を掛けてくれる人間は、二宮くんしかいない。
昨日のことがあるので、足は止めても振り向く勇気が出ない。 怒って……ないわけないよなぁ。
逃げ帰った後、二宮弟、上手く取り繕ってくれて……ないだろうな。
もう、腰90度に折り曲げて謝ろう。覚悟を決めて振り向こうとした時、
「昨日、ゴメン」
自転車から降り、それを引きながら二宮くんが私の横に立った。 二宮くんが頭を下げて私に謝罪をしている。
確かに昨日の二宮くんは酷かった。でも、
「私も、ゴメン。つい頭に血が上っちゃって、他人様の家のドアに当たってしまいまして……」
私も私で酷かった。先に二宮くんが謝ってくれたお陰で、だいぶ謝り易い。
二宮くん、怒るどころか反省してくれたんだ。二宮くんの優しさが、嬉しかった。
「ホント、短気な女」
と言いながら、頭を上げた二宮くんと目が合って、思わず2人で笑い合う。
そんな私たちの横を、手を繋いだ川田くんと里奈が通り過ぎた。
どうしたって目が2人を追ってしまう。そんな私の様子に二宮くんが気付く。
「……なんであの2人は別れないんだろう。俺だったら即刻別れるけどな」
二宮くんが眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
「私が里奈だったら、絶対に別れない。川田くんのことは許せないと思う。だけど、別れて川田くんが浮気相手と付き合ったりしたら、それこそ赦せない。それに里奈は、赦せなくても川田くんのことが今でも好きなんだと思う」
そう言いながらも、2人から目が離せないでいる私に、
「……冴木は本当に川田のことが好きだったんだな」
二宮くんがポツリと零した。
「……じゃなきゃ、友達の彼氏に手なんか出さないよ」
好きだった。好きになりすぎてしまった。だから……。
「まぁ、遊びでされちゃ敵わないわ」
二宮くんが苦々しく笑った。
そうだ。二宮くんは彼女の遊びで傷つけられてしまったんだ。 しかも、その相手が自分の弟で。大事な人2人に裏切られた二宮くんは、どれだけ辛かっただろう。
だから、私のしたことが赦せなかったんだ。 それで、間違いを正してくれたんだ。
「次はフリーのヤツを好きになれればいいな、冴木」
二宮くんが私の頭をポンポンと撫でた。
「……え?」
頭を撫でられたことに妙にドキっとして二宮くんを見上げると、
「だって、冴木がしたことって、相手がフリーだった場合、何の問題もなかったじゃん。運が悪かったんだなーと思ってさ」
二宮くんが、その『え?』じゃねーよと突っ込みを入れたくなる様な返事をした。
二宮くんに他意はないらしい。 二宮くんとの距離が縮まったわけではない様だ。
ひとりでドキドキしてた自分が恥ずかしい。
「……私は、もう誰も好きにならないよ。私、先生からも親からも『人を好きになるのは素晴らしいこと』って教わってきたのに、そうでもないからさ。もう、いいや」
だって、今こうしてドキドキしたことだって、こんなにも虚しいから。
「そうやってまた責任転嫁するし。他人の男を好きになるのは悪いことって分かってたから、こそこそ付き合ってたんだろ? 自分を正当化しようとするのはやめなさい」
別に責任転嫁したかったわけでも、自分を正当化したかったわけでもないが、またも二宮くんに叱られてしまった。
当然だ。二宮くんからしたら、私のやったことは嫌悪しか感じないだろうから。
「うん。だからもう、私は誰も好きにならない方が良いんだよ」
「…………」
二宮くんは、無言でまた私の頭をポンポンと撫でると、
「チャリ置いてくるわ」
と駐輪場へ行った。 この頭ポンポンは何なのだろう。『どんまい』とか? うん、そんなんで立ち直れないわ、二宮くん。
二宮くんと別れ、ひとり学校へ入る。 どうせ教科書はない。また準備室にでも行こうか。
教室には行かず、準備室へ向かう。準備室はいつも通り誰も居なくて、落ち着く。
悪口もない。悪意の視線もない。何もない。今日はどうやって時間を潰そうか。
適当な椅子に座り、机に頬杖をついていると、
「やっぱりココにいた。学校に来てても授業に出なかったら単位落とすぞ。留年するぞ」
準備室の扉が開いたかと思えば、二宮くんが入って来た。
こんな私を気に掛けてくれるのは、やっぱり二宮くんだけだった。
「……それはそうなんだけど、如何せん教科書がないもので」
隣の席の人に見せてもらおうにも、隣は昨日のお昼に私を突き飛ばした女子なワケで。
方杖をついたまま、机に視線を落とす。
「如何せんて。人生で聞いたの2回目くらいだわ」
そう言って二宮くんは笑うけど、私にとっては笑い事ではない。
だってこのままでは本当に留年してしまう。教科書、まじでどうしよう。
部活に入っているわけじゃないから、教科書を譲ってくれるような仲の良い先輩もいないし。ネットとかで安く売ってくれる人とかいないかな。
とりあえず、スカートのポケットからスマホを取り出し、オークションサイトに繋げてみようかと試みると、
「授業サボってスマホいじってんじゃねーよ。走れば1時間目間に合うから」
手に持っていたスマホをスルっと二宮くんに抜き取られ、手首を掴まれると、半ば強引に立ち上がらされ、引っ張られながら準備室から出された。
そして、グイグイ引きずられながら教室へ。
「痛い‼ 痛い‼」
教室の扉の前で、手を振り解こうと暴れてみる。 「暴れんな。お前、もう高校生だろうが」
男子の力に勝てるはずもなく、呆れ顔の二宮くんにアッサリ取り押さえられた。
「痛い‼ 離して‼ 行きたくない‼」
「ハイ、出た。本心。お前、教科書がないから授業受けたくないんじゃないだろ。みんなの視線が怖いだけだろ」
二宮くんが私に白い目を向けた。
「……教科書がないことだって理由の1つだもん」
図星を射されても尚、言い返すと、
「その理由、解消されたからサボんな」
二宮くんが、ごねる私を無理矢理教室に引っ張り入れた。
クラスメイトの視線が突き刺さる。悪口が飛び交う。
山頂でも何でもないのに、息が苦しくなる。
自分が蒔いた種だけあって、悲劇のヒロインにもなれない。だから来たくなかったのに。
ほとぼりが冷めてから……ほとぼりっていつ冷めるのだろう。いつ私は許してもらえるのだろう。どうすれば許してもらえるのだろう。
良い案なんか浮かぶわけもなく、自分の席に座り、ただじっと耐えていると、
「冴木、机寄せろ」
何故か二宮くんが隣の席に座っていて、私の方に机をずらしてきた。
「……なんで?」
「だってお前、教科書ないじゃん。誰からも見せてもらえないじゃん。お前、まじで相当嫌われてんのな。『この席と俺の席、代えて』って言ったら喜んで代わられたぞ」
二宮くんは、何で本当のことをそのまま伝えるんだろう。
『冴木の為に席交換してもらった』とでも言ってくれればいいのに。……言うわけないじゃん。 私を喜ばせたところで、何の得もない。 得をするどころか、
「二宮ー。何ビッチ冴木と机くっつけちゃってるんだよ。あ、お前もしかして、ビッチ冴木に喰われたとか? どうだった? ビッチだけあってスゴかった?」
よく一緒にいる仲間の男子に冷やかされてしまっている二宮くん。
「何で俺が冴木に喰われなきゃいけねぇんだよ。ほぼほぼ同情だわ」
まぁ、二宮くんが黙って冷やかされているわけもなく、しっかり言い返したけれど。
『ほぼほぼ同情』。分かっているけれど、念押しの様に宣言されると辛い。イヤ、同情してもらえるだけ有難いことだ。同情でも何でもいい。
だって、今私の傍にいてくれるのは、二宮くんだけなのだから。
授業が始まるベルが鳴り、冷やかしていた男子が自分の席に戻って行った。
二宮くんが、私と自分の机の真ん中に英語の教科書を置いた。
1時間目は、二宮くんが嫌いだという英語だ。自ら開くのもどうかと思い、二宮くんが教科書を開くのを待っていると、
「大方、同情」
二宮くんが、再度念をダメ押ししてきた。
「……うん」
小さく頷く。分かってるよ。そんなに言わなくたって。
「……と、微かな興味」
二宮くんがボソっと小声を出した。
「……え?」
二宮くんの顔を見ると、
「だってお前、俺と友達になりたかったんだろ?」 二宮くんもこっちを見ていて、目が合って、なんか恥ずかしい。
『もっと二宮くんと仲良くなっていれば良かった』と、確かに言った。 二宮くん、覚えていてくれたんだ。
「……私と、友達になってくれるの?」
「無理」
……何ソレ。 私を完全拒否した二宮くんが、ようやく英語の教科書を開いた。
開かれたページに目が留まる。
「……英語嫌いって、嘘じゃん」
二宮くんの教科書には、綺麗な字で書き込みがされていて、むしろ英語は好きで得意なんだろうと感じた。
「……まぁ、お前よりは出来るだろうな」
これ以上突っ込まれたくない様子の二宮くんは、丁度先生が来たことをいいことに、
「授業始まるから静かにしとけ」
と私を黙らせた。よくよく考えてみれば、曲がったことが嫌いな二宮くんが授業をサボるわけがない。
友達でもない。好きでもない。むしろ嫌い寄りの私を放っておけなくて、窓側の後ろから2番目の席から、廊下側の前から3列目の私の隣に移動してくれた二宮くんは、口だけが辛辣なとても優しい人間だ。