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ひでお
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シャインは投獄されたその日のうちにサンディ国に移送、強制的に帰国させられる事になった。
降りしきる雨の中、拘束したシャインを乗せた馬車がアメリア国の王城を出発する。
そうして馬車がサンディ国の王城へと到着すると、シャインは城門の前で降ろされて解放された。
今の時刻は昼頃。大雨のアメリア国からは一転して、隣国のサンディ国は晴れ男の帰国に相応しい晴天だった。
城門を通って中に入ると、エントランスの真ん中に堂々と腕を組んで立つ双子の弟・ヘリオスが不敵な笑みで出迎えた。
「よぉ、兄貴。オレがサンディ国の王になったぜ」
ヘリオスにとっては勝利宣言のつもりだった。やっと兄を見返す日が来たのだ。ヘリオスは何よりもシャインの悔しがる顔が見たい。
シャインは少しも表情を変えずに腕を組んだ。それは何かを思案する腕組みで、人を見下す態度のヘリオスとは意味が違う。
「ふむ、なるほど。それでオレがアメリア国から追い出された訳だな。納得だ」
シャインは何も事情を知らされないまま強制送還させられたので初耳だった。それなのに驚きもしないシャインの落ち着きを見て逆にヘリオスが驚いてしまう。
「おい、なんで納得すんだよ! 国民がオレを王だと認めたんだぞ、ローサが王妃になるんだぞ! 悔しくないのか!?」
「それは喜ばしい事だ。僅か10日ほどで見事な出世だなヘリオスよ。では国はお前に任せた」
「……へ?」
シャインは元から地位と権力に興味はない。ヘリオスは見返すどころか兄に相手にされていなかった。
こうなったら別方向から攻めるしかないと、ヘリオスは別の話題を切り出す。もはや意地とプライドだ。
「ふん、レイニルちゃんを追いかけたくせに一人で帰ってきやがって。どうせ嫌われたんだろ、情けねぇ」
「レイニル……」
シャインはレイニルの名にだけは反応した。ヴェルクがシャインだけをサンディ国に帰らせた理由に薄々気付いてきてはいる。
(どうにかしてレイニルを取り返さんとな)
シャインが取り返そうとしているのは王権ではなくレイニル。雨女や王妃などの肩書きなんて問題ではない。
燃え上がる太陽のような金の瞳が見据える先は目の前の双子の弟ではなく、遥か遠くのアメリア国だった。
考えながら歩き出したシャインは、全く相手にされずに呆気に取られているヘリオスの横を通り過ぎる。
「兄貴! お前、これからどうすんだよ!?」
「オレはレイニルを取り返す。あぁ、だが安心しろ。ちゃんとオレも国のために働くぞ」
王となったヘリオスの一声でレイニルを取り戻す事は可能かもしれない。だがシャインは権力という名の弟の手など借りない。
王位という枷が外れたシャインは自由という武器を得て、むしろ生きやすくなったとさえ感じる。
結果的にヘリオスは王位を手に入れた代わりに、王としての仕事をシャインに押し付けられただけの形になった。
快晴の昼下がり、城の外にある広場ではサンディ国軍の兵士が集まり軍事訓練が行われている。
「まだまだだ。出直して来い! 次の対戦者、前へ!」
剣術の模擬試合で兵士を指導する女性は、ショートヘアの赤髪にオレンジの瞳という灼熱の色を纏う隊長・ヒナタ。
実力主義の軍隊では女性が隊長であっても不思議ではない。模擬試合でも圧勝したヒナタは20歳にして隊長まで上り詰めた。
次に対戦者として前に出てきた男を見たヒナタは、木刀を構えながらも怪訝な顔をする。
「お前、誰だ?」
相手の男はラフな黒いシャツとパンツという軽装なのに、頭にだけ甲冑の兜をかぶっている。見た目も奇妙だし立ち姿のバランスも悪い。
何よりも頭全体が隠れているので正体不明で不気味に見える。ただ、長身と体格の良さから鍛えられた男性だという事は見て分かる。
「名乗るほどの者ではない。相手をしてくれ」
男は隊長のヒナタに対して口調が軽い。上から目線の圧さえ感じさせる男は、木刀を両手で握って対戦の構えになる。
ヒナタは無礼な男に対して問い詰めるなんて野暮な事はしない。口先よりも実力主義の軍人らしく、相手が誰だろうと試合に勝って兜を剥がしてしまえばいいだけ。
「いいだろう。では、行くぞ!」
ヒナタの試合開始の声と同時に二人は動いた。双方の速さに観戦している兵たちは息を呑む。瞬きをしたら見逃してしまう、そんな二人の剣さばきに。
男はヒナタの剣を受け止めて流したかと思うと、次には力押しの一刀でヒナタの木刀を弾き飛ばした。
(この動き、速さ、強さは、もしかして……!?)
その重い衝撃でヒナタ自身も体を弾かれて地面に尻餅をついて倒れた。追い詰めた男は木刀の先をヒナタの喉元に突きつける。
「ふっ、オレの勝ちだな」
兜の下では微笑んでいるであろうその男は息を切らしていない。その男の圧倒的な強さに、ヒナタは恐れよりも驚きの意味で衝撃を受ける。
今まで試合でヒナタに勝つ軍人などいなかった。重い兜を装備して戦うのは視界も動きも制限されて相当なハンデにもなったはず。
「お前は……いや、あなた様は……?」
ヒナタの問いかけに答える代わりに、男は木刀を地面に落とすと両手で自らの兜を持ち上げて外す。
晴天の空の下に曝された男の素顔は、紅蓮のオレンジの髪と黄金の太陽の瞳を持つ元国王。晴れ男の名に相応しい殿下、その名は誰もが知っている。
「改めて名乗ろう。オレはサンディ国の王……の兄、シャインだ」
今は陛下ではなくてもシャインの顔の名も知らない軍人なんていない。予想外の乱入にその場は騒然となり、ヒナタも動揺は隠せない。
「やはりシャイン様だったのですか!? なぜ、こんな……」
「隊長ヒナタよ。お前に勝ったオレが最強。これからはオレが隊長だ」
シャインは実力でヒナタから隊長の座を奪い取ってしまった。