私がまだ小学2年生だった時の夏の日、クラスメイトのえりなちゃんが死んだ。
「まだ幼かったのに。可愛そうねぇ」
そう、友達の親たちが話しているのを私はその人たちと同じ顔で聞いていた。
大人と調子を上手く合わせるには、子供らしくいるか、大人たちと同じ顔をすればいい事を、この時既に私は気がついていた。
私たちのクラスはえりなちゃんのお葬式に行くことになった。初めての黒い服を着て。
多くの子は状況を理解していなかったが、えりなちゃんがいなくなってしまって、もう会えなくなってしまったということだけは理解していた。
だから、えりなちゃんと仲が良かった子達は、泣きあとを目に浮かべていた。
会場に着くと先生が前に立ち、
「ここでは静かにね」
とだけ言って、微笑んだ。
私は、お葬式に行くのは初めてではなかった。
母方の祖母がこの少し前に亡くなっていたからだ。
広い廊下を進み、ひとつの部屋に入ると、私は顔をしかめた。
やっぱり黒い服ばっかり。皆同じ顔をしている。
つまらなくて、キョロキョロしている子も多く見えた。
斜め前には、えりなちゃんのお母さんがいた。
「ねぇ、えりなは学校でどんな感じだったかしら。」
えりなちゃんのお母さんは私にそう話しかけた。
えりなちゃんと仲がいい子に聞けばいいのに。
私はそう思ってその子たちを指さしたが、えりなちゃんのお母さんは
「貴女がいいの」
と言って腰を屈めた。
仕方なく私は口を開いた。
「えっとね、えりなちゃんは、明るくて、面白くて、皆からの人気者で、、数学が得意だった。誰も解けなかった問題をえりなちゃんはすぐに解いちゃったんだよ。それに笑顔が可愛かった。」
最後の方は声が小さくなってしまった。
周りの人が何人か泣いていることに気がついたからだ。
しまった。私も同じ顔をしなくちゃ。
でも、えりなちゃんのお母さんはえりなちゃんの杖を握りしめて、私の頭を撫でた。
えりなちゃんは、明るくて、面白くて、皆からの人気者で、数学が得意な、足が悪い子だった。
杖があれば、移動教室はゆっくりなら大丈夫。
でも、いつも体育は見学。
えりなちゃんはいつだってつまらなさそうに体育の授業を見ていた。
コメント
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