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江戸川コナンが消えた。
真っ先に疑うのは黒の組織による誘拐だった。
降谷零はバーボンとして、黒の組織のボスから受けた命令を思い出していた。
「江戸川コナンを調べろ」
逆らえるはずもなく、バーボンはボスに江戸川コナンの情報を伝えた。その矢先だった。あの少年が消えたのは自分のせいだと思わずにはいられなかった。しかし、情報の提示からあんなに早く行動を起こされるなど思っていなかった。
降谷は自分が見つけ出さなければという責任を背負い、2年半前からバーボンとして過ごす時間を大幅に増やしていた。しかし2年半だ。当然、心が持つわけもない。当然、降谷のみならず、FBIのあの男もCIAのあの女もICPOに知り合いがいるという工藤の父親も。
諦める気なんてない。しかし誰しもが人間ならば疲れる。終わりの見えないマラソンを走る中、その瞬間は不意に訪れた。
暗い角の先、2人の人間がいた。一方はバーボンの知らない女性。そしてもう一方は、あの、何度も見てきた小さな体だった。
バーボンの心拍数が急激に上がる。2年半ずっと探し続けていたあの子が、数メートル先にいる。ここはまだバーボンが来たことのない組織のアジトだ。怪しまれないように不定期に複数のアジトを転々とし、探していた。もしかしたらここにいるのではと思って、落胆して、を繰り返したせいか、本人を前にしても表に感情が出ることはなかった。
やがてバーボンの気配に気付いたふたりが、遅くも早くもないスピードで振り返った。
「……」
上がり切った心拍数が止まったような気がした。そこにいるのは江戸川コナンその人だった。間違えるはずもない。しかし、違うのだ。
あのいつ何時も輝きを失うことはなかった正義の塊のような瞳。どこかに落としてしまったのだろうか。今のコナンの瞳には光どころかバーボンも降谷も映ってはいないように見える。一緒にいる若いスーツの女と同じ、架空を覗くような瞳孔を剥き出しにして、簡単に折れてしまいそうな細い足でその場に立っていた。
何も出来ずに見つめることしかしないバーボンは、声の出し方を忘れたように口を開いては閉じた。
「何かご用でしょうか。…バーボン様」
言ったのは若い女の方だった。声につられてそちらの方を見ると、改めてはっきりと顔を認識できた。20代後半に見える彼女は、組織の色である黒に染まったスーツがよく映える黒髪黒眼の持ち主だった。振り向いてから一ミリも動かないコナンの手を引っ張って、一刻も早く安全な場所へ走り出したい気持ちを自覚しながら。探り屋である自分を思い出し、情報を手に入れようとバーボンとして接する。
「初めまして…ですよね?なぜ僕のことを?」
「ラム様から聞いておりました。あの方は有能な人材を自慢するように話されることがありますので」
いきなりNo2の名前が飛び出してきたことにより緊張が高まった。つまりこの女性はラムと会話ができるほどの立場にいるということだ。確実に自分と同等、もしくは上の立場だ。しかし、そんな人物を今の今まで知らなかったことに違和感を覚える。探り屋としての腕はある。ジンやベルモット、さらにボス直々に命を受けたこともあるというのに。
「そうでしたか。…失礼ですがあなたは?」
「シィです。組織ではそう呼ばれています」
「しい?…それは」
「お酒の名前でもコードネームでもありません。女だからShe、それだけです」
そんな人物は聞いたことがない。コードネームもない人間がラムと話せるほどの立場にいるなんて。ましてやずっと探していた彼と一瞬にいるなんて。絶対に何かしらの理由がある。なによりここまで潜入調査してきたのに未知数の人物に会うこと自体想定外だった。
探らなければ。情報は何より武器になる。
知らなければ。なぜ、コナンがこうなったのか。