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(――結局、一睡も出来なかった……!)
青木は登校し席に座ると、一昨日に委員会決めをしたままになっている黒板を睨んだ。
さすがに今日はモーニングコールをする気にはなれなかった。
(だってあっちも嫌だろうし……)
茶原の席を見る。
彼もまだ来ていない。
『別に俺は、気持ち悪くなんてなかったし』
そう言った白鳥の温度のない顔を思い出す。
(あれって絶対、俺のことを軽蔑したって目だよな……)
ため息をつく。
(だってそうだろ。好きでもない奴にキスされたら、しかもそいつが男だったら、さらに幼馴染だったら――)
「おええッ!」
自分の腐れ縁の幼馴染の男を思い出し、青木は思わず机でえずいた。
「何お前。今度は具合悪いの?」
「……!?」
慌ててふりかえると、机に通学鞄を置いた赤羽がこちらを見下ろしていた。
「怪我したり、顔色悪かったり、軟弱な奴だな」
赤羽は呆れたように睨みながら、ドカッと自分の席に座った。
「――ま。限界が来たら言えよ。また保健室に連れてってやるから」
ぶっきらぼうに言うと、だるそうにスマートフォンを弄り始めた。
「…………」
青木はその横顔を盗み見た。
(さんざん疑ってたけど、こいつってきっと死刑囚じゃないんだよな?だって俺に普通に話しかけてくるし、白鳥に興味なさそうだし)
「なあ。赤羽……で名前あってる?」
話しかけると、
「あ?……ああ」
赤羽は視線をスマートフォンに固定させたまま、片眉だけ上げた。
「赤羽さ。俺が今、お前にキスしたら、どう思う?」
「…………」
色素の薄い切れ長の目がじろりとこちらを睨む。
「――ぶち殺す」
「ですよね!」
青木は机に突っ伏した。
(ほらな、これが健全な男子の反応だって白鳥!)
ということは。
ということはだ。
「!!」
青木は顔を上げた。
(白鳥ってもしかして、元からゲイなんじゃね?)
懐っこい性格。
近い距離。
男の部屋に行きたがる理由。
キスされても気持ち悪がらない神経。
そして――。
男同士を蔑視した青木への軽蔑。
(これ、もう絶対アウトじゃん……!!)
青木は再び机に突っ伏すと、呻きながら肩を震わせた。
「……おい?悩みがあるなら聞くぞ?」
赤羽が戸惑いながらも声をかけてくれる。
「……あがばね゛……!!」
青木は涙と鼻水が入り乱れる顔を上げ、赤羽に手を伸ばした。
「お……おでには……いもうどがいるんだ……」
「はあ?」
赤羽の片眉がまた上がる。
「その妹が、幸せにくらしてるかどうか、虐められたり蔑まされたりしてないかどうか、1年に1回でいいから、見でぎでぐれないか……?」
「なんで俺が。自分で行け」
呆れたように首を傾げる赤羽に、
「おではもう死ぬがら~!!」
赤羽の腕に縋りついたところで、
「お前ら、何やってんの?」
振り返るとそこには、眉を顰めた茶原と、俯く白鳥が並んで立っていた。
「あ、いや、これは別に……!」
青木は袖で涙と鼻水を拭くと、2人を見上げた。
「一緒に登校とは仲良しだな!」
テンパって要らんことを口走る。
「ま、まあな!」
茶原がふんぞり返るが、白鳥は青木とは目も合わせずに目を逸らした。
「じゃ、茶原。放課後な?」
「ああ、わかった!」
茶原が握りこぶしを突き出すと、白鳥はふっと笑って笑顔でグータッチをした。
(――これは……どっちだ?)
青木は顔を顰めた。
(もう付き合ってんのか?それとも今日の放課後2人で話し合うのか?)
どちらにしてももう自分の付け入る隙はない。
(あーもう終わった!!)
「――赤羽~!!」
青木は振り返ると、赤羽の腕にまた顔を擦りつけた。
「頼む!妹を頼むよぉ!!」
「……あああああ!鬱陶しい!」
赤羽のため息が耳元で聞こえた。
ヤケクソな感情の中で、いっそのこと赤羽くらい身体ががっしりしていて、声も低く男らしい奴の方が、自分はアリかもなんて、青木は人生で一番馬鹿らしくて意味のないことを思った。