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王立魔法学院。
王都から少し離れた場所にそびえ立つその学び舎は、
長い年月をかけて築かれた威厳と、若き魔法使いたちの未来を同時に抱えていた。
その正門前に、今年の新入生たちが集められている。
「……本当に来たんだな、学院」
ユリウス・ノクティスは、目の前に広がる光景を見上げて小さく息を吐いた。
石造りの高い門。
規則正しく整えられた庭園。
空気に溶け込む、わずかな魔力の流れ。
隣では、レオンハルト・アウレリウスが目を輝かせている。
「すごいね……。大きい」
「落ち着け。レオンハルト」
「楽しみなんだから仕方ないでしょ」
その後ろには、
エリオス、セレス、カイ、ノア。
それぞれが学院を前に、緊張と期待を胸に抱いていた。
「新入生、かなり多いな」
「貴族も平民も混ざってる」
「これが本当に同じスタートラインか」
そんな会話をしていると――
「――新入生諸君」
低く、よく通る声が場を引き締めた。
一斉に視線が向く。
そこに立っていたのは、騎士団の正装に身を包んだ壮年の男。
背筋は真っ直ぐ、視線は鋭いが、威圧感はない。
「私はアルベルト・グランツ。
本年度より、王立魔法学院の警備および秩序管理を任されている」
簡潔で、無駄のない口調。
「これより入学式を行う。
指定されたクラスごとに整列し、案内に従って講堂へ移動しなさい」
騒ぎ立てることも、脅すこともない。
ただ、秩序と安心を与える声だった。
「不明点があれば、近くの教員に尋ねるように」
そう告げると、アルベルトは一歩下がった。
「では――良い学院生活を」
その一言で、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「思ったより、ちゃんとした人だね」
「騎士団長って聞いてたけど、怖くなかった」
小声でそんな感想が交わされる中、
ユリウスは静かに前を向いた。
(……ルクシア)
今頃、何をしているだろう。
――――――――――
同じ頃。
王都、ノクティス公爵家。
私は、窓辺に立って空を見上げていた。
「……行っちゃった」
学院へ向かう馬車が見えなくなってから、もうだいぶ経つ。
それでも、胸の奥が少しだけ、すうっと冷える感じが残っていた。
ユリウスお兄様。
レオンハルト王子。
エリオス、セレス、カイ、ノア。
みんな、今日から学院生。
(……遠いな)
私は今、十二歳。
まだ学院には入れない年齢だ。
でも――
鏡に映る自分は、昔の幼い姿とは違っていた。
伸びた銀白の髪。
年齢以上に整った顔立ち。
そして、抑えても抑えても溢れそうになる魔力。
「……また、強くなってる」
光も、闇も。
どちらも、確実に。
「ルクシア様」
扉をノックして、侍女が顔を覗かせる。
「お加減はいかがですか?」
「だいじょうぶ」
即答すると、侍女は少し困ったように微笑んだ。
「本日は魔力制御の訓練はお休みです。医師の指示ですから」
「……わかってる」
(過保護ルール、まだ健在)
私は小さくため息をついた。
でも、分かっている。
これは全部、私を守るためだ。
父も、母も。
兄も、王子も。
みんなが話し合って決めたこと。
(だから、私も……)
無意識に胸元へ手を当てる。
そこには、静かに脈打つ魔力がある。
(……ちゃんと、待つ)
私が学院へ行く日まで。
追いつくその日まで。
――――――――――
一方、学院の講堂。
厳かな音楽が流れ、新入生たちが整列していた。
「これより、王立魔法学院入学式を執り行う」
学院長の声が、広い講堂に響く。
ユリウスは背筋を伸ばし、前を見据えた。
(ここで学ぶ)
強くなるために。
守るために。
レオンハルトも、同じ方向を見ている。
(ルクシアが安心して笑えるように)
距離は離れても、
想いは、確かにつながっていた。
王都と学院。
それぞれの場所で。
未来へ続く時間が、
静かに、確かに、動き出していた。