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三ツ塚 鈴 職業 フリーのイラストレーター
イラストレーターなんて言えば、聞こえはいいかもしれないけれど、実際は雑誌の隅っことかにちょこっとイラストのカットを入れるぐらいでしかなくて、
胸を張ってイラストレーターなんて名乗れるほどの仕事量も、職業に見合うだけの給料も、まるで足りていないのが実情だった……。
「……このままじゃ、いけないよね」
ひとり呟いて、歩道脇の石造りのベンチへ、「ハァー」と肩を落として座り込む。
大した仕事もないままでは、この先食べてもいけなくなりそうで、今日だって出版社に思い切って営業をかけたのに、
すげなく断られた挙句に、言われたセリフが……
『上手《うま》すぎて、味がない』
って……それって、褒めてるのか貶《けな》してるのかどっちなのよと……。
……あぁ〜もう、そろそろイラストレーターの仕事も、諦めないといけないのかな……。
いつかは大成をなんて思っている内に、いつの間にかいい歳にもなっちゃったし……。
夢を追いかけるには、そろそろ限界なのかもと思ったら、ふぅーっとため息がひとつこぼれた──。
せめて少しでも沈んだ気持ちを切り替えられたらと、背負っていたリュックを下ろすと、中からいつも持ち歩いているスケッチブックを引っ張り出した。
気分転換に道行く人でも描いてみようかなと、絵になりそうな人の姿を探していると──
前方から歩いて来たスーツをスマートに着こなした一人の男性に、目が吸い寄せられた──。
「……すごくかっこいい、あの人……」
駅前にあるファッションビルから出てきた、タイトな黒のスリーピースに身を包んだその男性は、
かっちりとした三つ揃いのスーツが高長身に映えて、綺麗にセットされたヘアスタイルと相まって、思わず見惚れてしまうほどの美男だった。
歩き去ってしまわない内にと、急いでスケッチブックにペンを走らせる。
ついつい夢中になって描いていたら、
「……それは、私かな?」
と、不意に上からスケッチブックを覗き込まれた。
ハッとして顔を上げると、
今まさに描いているその男性が、目の前に立っていて、自分が描いているイラストを見下ろしていた。
「あああ、あの、すいません! 勝手に描いたりして!」
当の本人に見られてしまったことに途端に気恥ずかしさが襲い、慌ててスケッチブックを閉じようとすると、
「……その絵、もう少しちゃんと見せてくれないかな?」
と、声がかけられた──。