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第11話:「父と娘、渡辺家の沈黙」
《配信前日・郊外のアパート》
夜のしじまの中、渡辺陸は、部屋の隅で小さな紙片を握りしめていた。
その紙には、短く一文――
「あなたの“あの夜”の話、聞きたい人がいます。」
差出人は不明。
だが、内容は明白だった。
このメッセージが届いた瞬間から、彼の心は揺れていた。
(まさか、凛が関係しているとは思っていなかった)
娘・渡辺凛は今、都内で一人暮らしをしている大学生。
ときおり顔を見せる彼女は、もうかつての「パパっ子」ではなかった。
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《回想:5年前》
かつて陸は、中堅の広告代理店に勤める会社員だった。
凛を溺愛する一方で、家庭は破綻寸前。
理由は、妻の不倫――
そして何より、「自分の不甲斐なさ」だった。
妻が家を出たあと、男手一つで育てた娘。
けれど、凛が高校生になる頃には、もう心は遠ざかっていた。
「パパって、何かあると黙るよね。
聞きたいこと、たくさんあるのに」
「でも、答えてくれたこと、一度もなかった」
あの言葉が、今でも胸に刺さっている。
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《配信開始・渡辺陸 登壇》
視聴者数:13万人
コメント欄がざわつく。
【地味なおっさん登場w】
【渡辺って、あの凛ちゃんの親父?】
【前回、花音の話に“凛”って出てたよな】
【地味な人が一番怖いって相場決まってる】
マイクを握った陸は、深く息を吸い――語り始めた。
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《渡辺陸の暴露》
「……僕は、ひとつ“隠してきた事実”があります。
それは、5年前のある事件。
そして、その中に“娘がいた”ことです」
「当時、僕は必死で働いていました。
凛のために、将来のために。
でも、あの子が悩んでいたこと、僕はまったく気づけなかった」
「学校で“ある男子生徒”から脅され、
写真を撮られ、口止めされていた。
その相手の名前は――小林悠斗です」
会場が騒然とする。
【あの女たらし野郎じゃん】
【蒼の元親友!?】
【ここで出てくるか……】
【マジかよ、やべえ話きた】
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《あの夜の真実》
「凛は、自分を守るために言えなかった。
そして、ある夜――僕に言いかけたんです。
“パパ、助けて……”と」
「僕は、その言葉を、聞こえないふりをしました。
怖かったんです。“父親”として立ち向かう覚悟がなかった」
「数日後、彼女はマンションの屋上にいました。
飛び降りるつもりだったのかは、分からない。
でも僕が間に合った。……奇跡的に、間に合った」
「その後、僕は決めたんです。
金がいるなら、どんな仕事でもやる。
暴力団の“下請け”仕事も含めて――
娘の人生に再び関われるなら、“穢れ”てもいいと」
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《告白の終わり》
「娘は今、僕のことを嫌っている。
“普通の父親”になってほしかったんでしょう。
でも、僕は普通じゃいられなかった。
……それが、僕の#真相です」
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《コメント欄・投げ銭》
【泣いた】
【親の気持ちってこういうもんか】
【凛ちゃんと和解してほしい】
【地味だけど……一番刺さった】
【親父、かっこよかったよ】
静かに積み上がる投げ銭。
それを見ていた凛は――別室で、スマホを見つめながら、
声にならないほど、嗚咽していた。
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《中村颯太の独白》
中村(ナレーション)
「真実とは、暴かれるためにあるんじゃない。
……“受け取られるため”にあるんだよ」
彼の手元には、次のスピーカーの名前が表示されていた。
『斎藤海翔』