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午後の検査も終わり、病室でウトウトしていると軽いノック音と美優の声が聞こえた。
「夏希、悪い寝てた?」
心配そうに私を見る将嗣とご機嫌な美優が入ってきた。
「美優がご機嫌さんだね」
「そう、いい子だよなぁ」
と二人で親バカ状態で美優をホメ合う。
「さっき、将嗣のお母さんが来て、事故の事謝ってくれて、美優のお世話をお願いしたら引き受けてくれたよ」
「ごめんな。うるさかっただろ。落ち着いたら連れて来てやるって言ったのに勝手なことして……」
「なんだか張り切っていたよ。お父さんの介助もあるのにパワフルだね」
「ムダに元気だよな。その元気、親父に分けてやれって思うよ」
ハハッと、力なく笑った様子が少し気掛かりだった。
「お父さん早く元気になるといいね」
「うん、そうだな」
将嗣が悲しそうに笑い、その事が病気の重さを物語った。
お家に伺った時もお加減は良くなさそう様子で、将嗣はお父さんと二人で長く話をしていた。
静かに命の炎を灯している。家族としてその炎がだんだんと小さくなって行くのを見つめるのは辛いだろうな。
「美優がいると将嗣のお父さんとお母さん疲れちゃうね」
「そうそう、” 孫は来て良し、返って良し ”って、言うだろ?」
「何それ、初めて聞いた!」
将嗣の説明だと、孫が来るのは楽しいが、来ている期間はとっても大変で帰るとホッとする。祖父母の話だと言う。
将嗣のことわざ創作疑惑は拭えないが、説得力があるのでウンウンと頷いておいた。
看護師さんが、検査の結果を話たいのでと声を掛けられた。
私の代わりに将嗣が行ってくれる。委任状を出しておけば代理で話が出来るのは便利だけど、夫婦でもない将嗣が代理なのは、どうなのかな?と思いつつサインをした事を思い出した。
病室に将嗣が戻って来て、担当医師との話し合いの結果、地元の病院への転院が5日後に決まったと教えてくれた。
「なあ、当日、車で戻ろうと思っているんだけど、医療用の車を手配して運転手頼むか、個人手配で帰るかになるんだけど。個人手配の場合は、ワゴン車を借りて運転手か子守担当か、とにかく人を手配しないといけないんだ」
「それは、どっちでもいいよ。病院移るまでの事だから任せる」
私の言葉を聞いて、将嗣はホッとした表情を見せた。
「後は、地元の病院に行ってからか……。俺の休みも今週いっぱいだしな」
「土曜日に移動で、日曜は休み、問題は月曜日からだね。それも残り3週間、私の退院後も子供を抱いて歩ける状態じゃないかもだし……」
私はそう言って、将嗣をチラリと見る。
朝倉先生が ” 美優のお世話を任せてくれないか ”という提案をどう考えているのだろうか。
あの時は、少し考えさせてと言っていたけど、意地を通すなら預け先を探さないといけない。
将嗣は、美優を見つめながら、” はぁ~ ” と大きなため息を吐いた。
「仕事をしながら子育てって大変だよな。夏希は、具合が悪い時でも美優を見ながら仕事をしてきたんだろ」
眉尻を下げ情けない顔をした。
「私が、具合悪い時は……朝倉先生が助けてくれた」
「えっ?」
将嗣にこんな話をするのは、どうかな?っと思った。けれど、私が美優を育てていて、困った時にはいつも朝倉先生が助けてくれた。
街中で陣痛が来て動けなくなった見ず知らずの私を病院まで付き添って、出産に立ち会う羽目に落ち負った事。美優の夜泣きが酷くて気持ちが折れそうになった時に助けてくれた事。熱が高くて大変な時、乳腺炎だと気が付いて助産師さんに連れて行ってくれた事を将嗣に話した。
将嗣は、黙って話を聞いてくれたけど下唇をキュッと噛みしめていた。
そして、話が終わると、もう一度 ” はぁ~ ” と大きなため息を吐いて
「なんだよ。それ……」っと、上を向く。
それは、涙が零れるのをこらえているようにも見えたけど、気が付かないフリをした。
「父親が必要なタイミングにアイツがいつもいて、夏希を手助けしていたって事だろ。そんなんで、後からホントの父親です。って、ノコノコ出て行ってもなぁ。もっと、早く行動していればなぁ。ヤバイ、ため息しかでない。話を戻そう。なっ」
将嗣の赤くなって潤んだ瞳に 気が付かないフリをして、作り笑いを浮かべた。
「美優の事を考えたらアイツの手を借りる事にした。公立の一時保育だと時間が短く、民間の所だと時間長いが、通える範囲に無認可しかなかった。ぶっちゃけ、美優を安心して預けられる環境が無かった」
将嗣にしてみたら不本意な選択だっただろうけど、美優の事を思って選んでくれた事が嬉しかった。
「内容はアイツと話合って詰めるという事でいいか?」
将嗣と朝倉先生が話合うなんて、私にしてみたらとんでもないことだけど、ココは美優のため、みんなが譲りあって良い方法を考えるしかないんだ。
仕方がないのでお願いする事にした。
「よろしくお願いします。また、後で来るそうです」
クッ、イタタマレナイ……。カンバル。
美優の子守が、だいぶ板に付いてきた将嗣を揶揄いながら朝倉先生が来るのを待っていると程なくして、朝倉先生がドアを開けた。