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吉牛の駐車場に転移してきた俺とシロは、近くの路地に隠れ光学迷彩を解除。
そのまま何食わぬ顔で吉牛の入口へと進み、店前のステンレスの手すりにシロのリードを縛った。
「シロ、持ち帰りの牛丼を頼んでくるから、ちょっとここで待っててな」
シロは尻尾を振りながらコクコクと頷いている。――可愛い。
店内に入った俺は【お持ち帰り】のプラボードが下がっているカウンターの奥へと進んだ。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞー」
「持ち帰りで並を10コ。その内5つはつゆだくで」
「ご注文お受けしましたぁ。先にお会計よろしいですかー」
ポケットから無造作に1万円札を出して会計を済ます。
(お札入れの財布も買わないといけないな)
待っている間は店内に貼ってある広告などをながめていた。
お持ち帰りのクーポンなんかもあるのかぁ。スマホで予約なんかも便利そうだ。
――スマホか。
こちらに長く居るなら必要になってくるけど……。
「お待たせしました。こちら牛丼弁当、並10個になります!」
牛丼を受け取り店の外に出る。
やったー! 牛丼10個ゲットだぜ!
これで、おいしい牛丼がいつでもどこでも食べられるな。
よ~し、この調子でどんどんため込んでいくぞー!
牛丼をインベントリーにしまった俺は、そのままジョギングを開始。今度はスキ家へと向かった。
そして同じように、10個の牛丼弁当を確保した。
袋を両手に吊るし、ホクホク顔で店から出てきた俺にシロがまとわりついてくる。
俺の顔を何度も下から覗きこみ『食べないの~?』と言ってるようだ。
ていうか、念話で伝えてきている。
だよねー。この匂いはたまんないよね。
……仕方ない、一つ食べていくか!
俺たちは適当な路地に入ると光学迷彩を発動。そのままスキ家の駐車場に戻ってきて、牛丼弁当を一つずつ食べていくことにした。
俺のはつゆだくね。
うんま~~~。これは旨すぎるやろ!
10年ぶりに食べた牛丼は懐かしさも加わり格別でした。
「ク――ン!」
シロがこのように高い声で鳴くときは喜んでいるのだ。
フェンリルになって良かったな。玉ねぎいっぱいの牛丼なんか犬のままでは食べられないもんなぁ。
ついつい、もう一つといきそうになったけど必死で我慢しましたよ。
道なりに進めば、次はヤーマダ電機だな。
油山観光道路をシロを連れてゆっくり歩いていく。
リードをつけたシロは、必ず俺の左側を寄り添うように歩く。
俺がそう躾けたからな。
もう何十年だ? かなり昔のことなのにシロはちゃんと覚えているんだよなぁ……。
つい嬉しくなって、シロの頭をわしわしと撫でてしまった。
………………
俺たちは大型家電量販店・ヤーマダ電機に到着した。
シロは認識阻害の結界を張ってもらって、出入口横で待機させる。
店に入ると、ずらりと並んだ ”ガチャガチャコーナ” が目にはいる。
うっ、いかん!
気を抜いたら、そちらに足が向いてしまうぅぅ。
ダ○ソン並の引力に逆らいながらも、俺はエスカレーターを使い2階の家電コーナーへと向かった。
しかし、今のところ必要なものはそれほど多くないのだ。
こちらの世界にいつまで居るかも分からないし。
それでも見てたら欲しくなってくるんだよな。
ドイツ製シェーバーに小型マグライト、単3アルカリ電池もダースで購入しておく。
そうそう、ホットプレートも必要だよな。
家 (神社) には無いとのことだったので、大きめの物を買っていくか。
これで焼肉やお好み焼きなんかも手軽にできるよな。
スマホもいろいろと並んでる。
すぐに契約は無理だけど、そのうち何とかしたいな。
あと、ガンプラやSwitch (ゲーム機) にも触手が……。
うぅぅっ、今日のところは止めておこう。家から動かなくなってしまいそうだし。
そして隣のパソコン館へ移動。
『神社 (うち) にはWi-Fiルーターがあるからパソコンを使うならどうぞ!』
紗月 (さつき) が言っていたのでノートパソコンを1台買うことにする。
どのみちネットで情報を拾うだけなので、ワード・エクセルが付いた79,800円のやつにした。
お次は近くのユ○クロへ寄る。
下着・靴下・Tシャツを数点ずつ、あとはスエット上下・ジーンズ・たくさんポケットが付いたメッシュベスト・デイパックを購入した。
今から夏場だし、こんなところで良いだろう。
買ったばかりのデイパックに購入した物を詰めていく。背中に背負ったと同時にインベントリーに収納していく。
ホントに多いよね防犯カメラ。これではプライバシーなんかあったものじゃない。
さて、そろそろ昼になるけど……。
周りを見まわすとイヲンの前に【モフバーガー】を発見。
てりやきバーガー・チリドッグ・フライドポテト・チキンナゲット・バニラシェークを2つずつテイクアウトにしてもらった。
またまた、シロと駐車場にてパクリ。
うんま~~~! モフバーガーといえば、このレタスたっぷりのてりやきバーガーだよな。
それにピリ辛ソースとぷちぷちオニオンのハーモニー、チリドッグも最高!
………………
さて、お腹も膨れたし、目の前のイヲンに寄ってから帰りますか。
正面玄関口でシロに待ってるように伝え店内に入る。
店内をまわっていると時計店を発見。
スマホを持ってない俺は、外に出ると時間がわからない。
あちら (デレクの町) のように、一刻 (2時間) 置きに鐘も鳴らないしね。
このペアで並んでいるS○IKOの腕時計を見せてもらう。
ふんふん、10気圧防水の上にソーラー電池により10年以上も稼働するのか……。
うん、コレにしよう。
S○IKOのステンレス製ペアウォッチを1セット、同じ時計のレディースサイズを2つ購入した。
支払いにとポケットから万札の束を取り出していると、店員のおねえさんにギョッとされてしまった。
あっ、いけね! 財布 財布。
忘れるところだった。持ち慣れてないとやっぱりダメだね。
時計屋を離れ、並びの雑貨店で適当な長財布を買った俺は、1階のフロアーをうろちょろ。
本屋にも立ち寄ってみる。
たくさんのマンガやラノベが並んでいるところを見て、やっぱりここは俺が生きていた世界なんだと、何だかほっとしてしまった。
ついつい、マンガを手に取りそうになったが今日は時間がなかった。シロも外で待たせているしな。
地下1階の食品売り場に下りてきた俺は、カートを転がして食料品を入れていく。
特に調味料のコーナーは念入りにチェックしていく。
エバラさん・ガーリックパウダー・練りわさびシリーズ・正油・酢・中濃ソース・味噌・マヨネーズ…………、ヤバい止まらん。
調味料だけで上のカゴがいっぱいになってしまった。
あとは後日にしようか……。
レジに並んでいるのだが、その間もコーラやガーナチョコなどをカゴに入れてしまった。
だって、レジのそばに置いてあるんだもん。
イヲンの購買戦略に引っかかりつつ、有人レジにて精算を終わらせる。
人が居ない時を見計らって一人でエレベーターに乗りこむ。
駐車場のある3階のボタンを押した。
3階フロアに降り立った俺は、そのまま駐車場を横切り反対側の出入口へと進む。
フフフッ♪ 手には何も持っていない状態だ。
まったく防犯カメラというのは厄介なものだよね。
途中で認識阻害や光学迷彩といったものを使ったから、おそらくはバレないと思う。
念入りに一つ一つ調べれば違和感に気づく可能性もあるけど、何か事件が起こらないかぎりはそこまで調べることもないからね。
今度はエスカレーターに乗り、再び地下1階まで下りてきた。
なぜ俺がここまで戻ってきたのか?
それは、とある能力の検証を行なうためである。
向かった先はイヲンの地下1階エレベーターホール。
その奥にひっそりと存在している【宝くじ売り場】だ。
まあ、宝くじ売り場ならどこでも良かったのだが……。
近くにいって目的の物 (ブツ) があるかを確認した。
すると、
只今発売!
にゃんにゃんスクラッチ ラッキー3
1等50万円×20本 1枚200円。
――よし、これだ!
あくまでも検証の為なんだ。
でも、ちょっぴりドキドキしている。
買うのは30枚。これなら選ばせてくれと頼みやすいだろう。
速やかに窓口へ進んだ俺は、さっき買った財布から現金6,000円を出した。
「にゃんにゃんスクラッチを30枚。自分で選んでもいいですか?」
なるべく明るくにこやかに言ってみる。
「はいよぉ、へ~外人さんかい。当たると良いね~。今あるのはこれだけ!」
お金を受け取ると、売り場のおばちゃんはスクラッチ10枚入りの束をトランプのように両手で広げてくれた。
フフフッ♪ ついに来たなこの時が……。
――鑑定!
はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・1,000円・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・はずれ・はずれ・100円・はずれ・はずれ・・・・・・・・
わぁ――――お!
これはいけない!
俺は鑑定を使いながら邪魔な ”はずれ“ 表示をオフにした。
…………あった!
1等ではなかったが、2等が混じっている。
俺は悩んでいるフリをしながら3つの束をゲットした。
すると、おばちゃんは選んだ3つの束を重ねると、手前に置いてある派手派手招き猫に擦りあて、
「当たりますように!」
呟くように祈願してくれた。
『おばちゃんありがとう。おかげで2等が当たったよ!』
そう言ってあげられないのが残念ではある。まだ削ってもいないので。
まあ、その場で削ってもよかったのだが、売り場で交換できるのは5万円までだから。
それに、あまり目立ちたくもないからね。
スクラッチくじが入った小さなビニール袋を笑顔で受けとり、今回の検証は無事終了した。
俺は階段を使って1階に上がると、裏側にあたる西の玄関口からイヲンの外に出た。
『シロ、こっちにまわっておいで』
シロに念話を送りつつ、玄関口横にあるスロープから目の前の横断歩道を眺めていた。
「…………」
あぁ、ここか。俺の人生が終わった場所は……。