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そんな事に私、観察者が改めて思いを馳せていると、適度に満腹だったシンディが素っ頓狂な声を発する。
「キャッ! も、モンスター!」
「っ! ギレスラっ!」
『ん、心配要らん』
モンスターという言葉に瞬時に反応したレイブはシンディの近くで寝転がっていたギレスラに対して素早く注意を促したが、対するギレスラは首だけをそちらに向けた後、落ち着いた声を返した。
『こいつはモンスター、魔物ではなくて只の獣、野獣だな…… クズリか…… 襲われでもしたのだろうよ、怪我をして死にかけている様だ、可哀想だがもう幾らも持たないだろうな』
「クズリ、そ、そうか…… ほっ」
念の為、そんな感じでシンディの近くに歩み寄ったレイブの目にも、野生動物だろうクズリの白黒の毛皮が映った。
ギレスラの見立てた通り、下半身にモンスターか大型の獣にでも襲われたと見られる致命傷っぽい怪我を負っていて、無事な前肢をばたつかせながら全身を大きく痙攣させていた。
目を血走らせて荒い息を繰り返しているクズリを見ながらレイブは言う。
「皆ついてるな! お代わりのお肉が自分からやって来てくれたみたいだぞ! どれ、今すぐ捌(さば)いてあげるからね、ちょっと待って――――」
「レイブ師匠! この子を助けてあげてくださいっ、お願いします!」
「へ?」
捌く気満々だったレイブであったが、目に一杯涙を溜めたシンディの懇願を前にしては、それ以上バラそうだとか、死ぬ前のほうが苦しんで動き回るから血抜きが楽だとか、ましてやクズリは美味いだとか言う事は憚(はばか)られてしまった。
とは言え、言うべき事は言って置かなければならない、そう断じて静かに少女、シンディに言って聞かせる事とする。
「助けてって言っても、これだけ下半身がズタボロの状態じゃあ里人の治療(キュア)じゃあ間に合わないし、ペトラの回復(ヒール)だって効くかどうかぁ、多分治らないよ、これ? それよりも生きている内だったら血抜きが――――」
『ごほんっ! 『回復(ヒール)』』
言ってはいけない、聞かせてはいけないと判断したのだろう。
空気を読めないレイブの発言をぶった切ったペトラが回復を発動させ、血だらけの裂傷塗(まみ)れだったクズリの下半身は見る見る間に元通りに戻って行ったのである、ナイスサポートだ。
欠損した部位まで綺麗に再生したクズリの肉体を確認したラマスは再びペトラに求める。
「ペトラ叔母様、『回復』では傷だけしか治っていません! 元気にするには『高回復(ハイヒール)』か『全回復(フルヒール)』でないと駄目ですよ! お願いします! 助けてあげてください、叔母様!」
ラマスと同じ様にクズリを見続けていたペトラは悲しげな表情を浮かべて無言のまま、首を左右に数度振るのみであった。
もはや…… そう言う意味だと捉えたラマスは自身のスリーマンセルの年長者であり、当然全回復(フルヒール)を使う事が出来るトナカイの獣奴、エバンガを振り返って叫ぶ。
「エヴァ! 貴女で良いわ! フルヒールで治してあげてっ! お願いっ!」
言われたエバンガは困惑した表情を隠す事無く、チラリと向けた視線の先でペトラを捉えた後、申し訳無さそうに顔を歪めた。
この間、シンディの腕の中では傷の癒えたクズリが今にも途切れそうな弱々しい呼吸を繰り返し、痙攣する体の脈動を抑えられずに、端から見れば『死』を待つのみ、そんな姿を曝し続けていたのである。
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