テラーノベル
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だが、亜矢はすぐに我を取り戻した。
そして、魔王を鋭く睨む。
「まさか、あなたが!? あなた、一体……!?」
すると、魔王は満足そうに笑った。
「へえ、察しがいいな? 気に入ったぜ」
察しがいいも何も、今までにもこういう体験をした事がある亜矢にとって、だいたいの予測がつくようになってきた。
それに魔王という男は、どこかグリアに似ていたから。
「あなたの目的は何? 今は時間がないの。急いでいるのよ」
こんな場所に立たされながらも、亜矢は気丈に振る舞う。
はやく、コランを助けてあげたい。今はその一心で。
「オレ様の名はオラン。魔界一の悪魔だぜ」
「悪魔!?」
亜矢は思わず身構える。
だが同じ悪魔でも、このオランとコランでは全く別の存在に思える。
悪魔本来の凶悪、邪悪さというのが全身から感じ取れる。
ここにいてはマズイ、と身体が無意識に危険信号を発しているようだ。
これも、死神から与えられた心臓のチカラなのだろうか。
「オレの目的はなぁ?」
そう言いながら、オランは亜矢にじりじりと近寄る。
亜矢はオランを強く見据えながらも、押されるようにして後ろに下がる。
だが、何も存在しない空間なのに、背中に何か見えない壁のようなものが当たり、亜矢はそれ以上身を引く事が出来なくなってしまった。
まるで、亜矢の反応を楽しむように。そして、じらすように。
オランは亜矢のすぐ目の前に迫ると、顔を近付ける。
亜矢はその時、目の前に映るオランの顔が、誰かに似ていると思った。
赤の瞳。どこか、吸い込まれそうな——綺麗な色だと思った。
「や……めてっ!!」
オランが必要以上に顔を接近させてきたので、亜矢は顔を背けて拒絶してみせる。
全身が思ったように動かない。何かの力が働いているのだろうか?
「オレと契約しな、亜矢」
「!!」
亜矢の頭の中が一瞬、真白になった。まるでこの空間と同化するように。
悪魔との契約、それは『口付け』によって成立する。
何が目的で、この悪魔は亜矢に契約を求めるのだろうか?
「もちろん、契約すればあんたの願いは叶えてやるぜ。悪くねえだろ?」
誘うかのようにオランは言うが、そんな言葉では亜矢の心は動かせない。
亜矢は思い出した。
『オレ以外の悪魔と契約しちゃダメだぜ!』
と言った、コランの言葉を。そして、その意味を。
亜矢が他の悪魔と契約すれば、コランとの契約は自然と解除されてしまう。
そうなったら、コランは魔界に連れ戻されてしまう。
「……いや! あなたとは契約出来ないわっ!!」
亜矢は首を振るが、オランの大きな手が亜矢の顎を掴み、固定された。
どうやら、亜矢の意志は関係ないらしい。有無を言わせず、契約を結ぶ気なのだ。
亜矢は泣き出しそうな瞳に力をこめて、オランを睨む。
本当に、死神といい、この悪魔といい……人の唇を何だと思ってるの!?
亜矢の脳裏に浮かんだのは、何故かそんな事に対しての不満と怒り。
口移しの手段だとか、契約の証だとか。
キスっていうのは、もっとこう……大切なもので。
大切な人にだけしてもらいたくて。そういうものでしょう!?
(嫌…………!!)
亜矢はギュっと目を閉じる。目の前に迫るものから逃げようとして。
(助けて!)
誰に助けを叫んでいるのか、自分自身でも分からないが。
その後に、亜矢の心に浮かんで来た人の顔と、名前。
亜矢は薄く目を開ける。
自分に近付くオランの顔が、あの人の顔と重なって見える。
いつも『口移し』と称して、唇を重ねてくるアイツの顔に。
(死神……!!)
亜矢がそう、心の中で強く叫んだのと同時に。
パァアアン!!
何かが砕けるような、大きな音が響いた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第30話、読ませてもらいました。 亜矢がオランに迫られるシーン、すごく緊迫感があってドキドキしました…。「キスは大切なもの」って思う亜矢の気持ち、すごくわかるな。それでいて最後に死神の顔が浮かぶところ、二人の関係がちょっとずつ変わってきてる感じがして、胸がぎゅっとなりました。 助けを叫んだ瞬間に砕ける音!続きがすごく気になります…!
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