テラーノベル
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絃さんはいちばん前の右の席の男の子の絵を手に取りこちらに向けて見せた。
「これは勿論ゾウだね。何も見てないのに細かいところまでよく描けているよ。ゾウは好きなのかな?」
「先週の日曜日に動物園行ったんだ〜ずっと観察していてそれで覚えてました!」
(え、めちゃめちゃ上手だ。先週の日曜なら1週間前だよね。そもそもゾウは知っているにしてもよく細部まで覚えているな…。私なんてキーホルダー毎日見ているのに情けない…。)
情けないのと同時に小学生の絵がこんなに上手いなんてますます出しづらい。
もう覚悟を決めて絵を堂々と出すことにしよう。
そう私は描ける上での画伯の方になりすましだ。
まあ次の子が上手いかどうかもわからないし。
「では、次はお隣にいこうかな。」
次は左に座っている男の子だ。
「わ、ライオンか。これもかなり上手いね。立て髪の細かい毛の感じなんかもいいし、迫力あるね!」
「僕も一緒に先週の日曜日に動物園に行ったんだー。僕はライオンがカッコよくてずっと見てたんです。」
まただ。描き慣れた軽いタッチで大人がサラッと描く絵よりも数段上手い。
なんで皆んなよく覚えていてしかも上手いのかな…。
まあ成長期で現役真っ只中の子達の記憶力と 私の年齢ならまあ仕方ないかといきなり老け込んだ思考に方向転換だ。
先週動物園に行ったのだからなんとか鮮明に覚えていただけだろう。
はい次の子次の子。
私はわけのわからないライバル心が芽生え次の絵に’違う意味で’期待する。
「では次の列の右の人から見ようかな。」
「先生、私ちょっと前足の位置間違えて変な感じになっちゃって…。」
「どれどれ、お、キリンさんだな。ダイナミックでいいよ。のびのび描けているね。」
(お、確かにこの子はまあ歳相応というか絵はまだ習いたてなのかも知れない。 よし。いいぞ、いいぞ。)
なんだ私。年下の子供の失敗をいいぞいいぞと喜んでいる。しかも20才以上も下の。
さっきから小学生の教室でズルを強行しようとしたり失敗した子の絵に胸を撫で下ろしたりして いいぞいいぞとか。
これって最低という2文字が当てはまるやつだ。
なんだか1人で気持ちが浮いたり沈んだり訳がわからないぞ。
まぁ最低な事を思っているのは間違いなかったが…。
また毎度の自身のしょーもない思考に振り回されながらテンパリを悟られないように精一杯大人の余裕を出しながら見ているフリをした。
コメント
1件
ああ、読んだ読んだ。もうね、主人公の内心の動きがめちゃくちゃリアルで笑っちゃったよ。「年下の子の失敗にいいぞいいぞって喜ぶ自分、最低だ…」ってとこ、めっちゃわかる。わかるんだけど、その自覚がある時点で君はまだ大丈夫だよ(笑)。小学生の記憶力と描写力に圧倒される気持ち、すごく共感した。続き、どうなるんだろうね。