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ー刺された。そう気づいて間も無く、赤く染った傷口を抑え、顔を歪め笑うニンゲンから離れようと身体を動かす。
…当たり前だ。
どんなに強い敵でも繰り返せばいつかは”クリア”出来る。殺される。
そんなのとっくにわかってた。
それなのに、苦しくて堪らない。
本当、どこまで往生際が悪いんだか…
そう自分に呆れていると酷く見覚えのある影がオレの視界に映りこんだ。
…パピルス?
パピルスは微かに震える目で涙を堪えながらも、オレに向かって蔓延の笑みで両腕を広げた。
…あぁ、お前はそういう奴だったよな。
オレみたいな救いようの無いクズにすらお前は…
なあ、パピルス、パピルス。
オレ、頑張ったけど無理だ。オレはお前みたいなヒーローにはなれないよ。
身体から力が抜ける。
そうだ、飯、食わないと、
「パピルス、おまえもはらへってるか」
そう口にして間も無く、パピルスの返答が来る前にオレの意識は闇へと沈んだ。
…!?
リセット、されたか。
慌てて辺りを見渡す。
…
ここは、どこだ。
元居た部屋の面影はあるがこんな部屋、見覚えがない。
寝心地がいい布団だ、カーテンからは日差しが差し込んでおり、辺りを眩しく照らす。
…地上?
そんな事を考えていた途端、ドアが開いた。
誰だ?
身体を起き上がらせ戦闘態勢に入る。
いつも通り魔法は使えそうだ、問題はここが何処か。
そう思考を張り巡らせて居るとドアから人型の形をした何かが顔を出した。
「サンズくん…?」
「…博士?」
…笑えない。なんでアンタが居るんだ。
アンタはもうずっと前にオレを置いてったはずじゃ…
ーそう混乱するオレを他所に博士…ガスターは歪な笑顔でこちらへ近づきオレに問いかけてきた。
「…君、ここはどこだか分かるかい?」
「それがわからないんだ。…で?アンタは」
「なんでここに居る、と言いたいんだね?」
ーああ、やっぱり気色悪い。
言葉を横切り確信を持った音色で問い返す博士にオレは目を細める。
そんなオレに気づいたのか気づいてないのか、博士は俺の返事を待たずにペラペラと喋りだした。
「それが私にもあまり分からないんだ、前のタイムライン…君があの殺人鬼に殺されたと思ったらこの世界へ飛ばされてね。」
君もそうだろう?
そう優しく、それでいて不穏な雰囲気を漂わせながらそう言葉にする博士に寒気がする。
恐怖と嫌悪から来る冷や汗と方の震えには無視をしてオレは続けた。
「あー…まあそんな所だ。」
「…それにしてもアンタが知らない世界なんてあったんだな」
「私も驚いたよ…世界は広いね」
「…そうか」
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沈黙が流れる。
それを少しも気にしていない様子でボーッと窓を見つめるサンズにガスターは顔を近づけ不気味に口角が上がった口を開いた。
「…君が起きるまで少しこの世界に調べたんだが」
そう話を続けようとしたガスターの会話を横切りサンズは少し驚きの混じった音色で声を上げた。
「なあ、オレ、いつまで寝てた」
「今は午前5時だよ。私が目を覚ましたのは1時だ。」
そこまで寝ていなかったらしい。
彼は安堵したようにそうか、と告げた。
「で?成果は?アンタなら分かるだろ」
無意識なのか否か、問い詰めるように言葉を投げ掛けるサンズにガスターは更に笑みを深くし口を開いた。
「ふふ、綺麗な青だろう?まだ早朝なのに…いつぶりだろうね?」
そう話し始めるガスターにサンズは大きく溜息をつきより一層呆れの表情を見せた。
「いいよ、そういうの。アンタに建前とか求めてない。」
もっと言えるだろ?、と続けるサンズにガスターは一言告げた。
「この世界にモンスターはいない。」
ーーー長い沈黙が流れた。
それでもまだ理解出来ていないような表情でサンズは呟く。
「…は?滅んだ、のか?じゃあパピルスは…」
ガスターは取り乱すサンズを優しく見つめた後、更に言葉を続けた。
「大丈夫、滅んではいないよ。現に君の弟もちゃんと居るからね」
更に意味不明な事を言い出すガスターにサンズは考える事も忘れポカンと口を開けた。
無理も無い。ガスターの口から出るそれは情報量の多さと比べて説明があまりにも少なかった。
更に長い沈黙。
まだ事を理解出来ていない様子のサンズだが落ち着きは取り戻したようだ。
彼の無言は変わらず、だが更に情報が欲しい、と懇願するようにサンズはガスターに視線を向けた。
サンズの様子にガスターはより一層笑みを深くし話を続けた。
「覚えてるかな?この世界は私達が居た世界とは大きく異なると。」
まるで子供を相手にする様な問いかけの仕方に一瞬サンズは顔を顰めたが、素直に頷く。
「流石だ。」
それを心底気持ち悪い、とでも言う様にポーカーフェイスを崩す彼は突き放すように声を上げた。
「…そういうのいらないって言っただろ?上っ面だけの称賛はよしてくれよ。」
「ちゃんと思ってるよ」
その言葉に返事が返って来ないことを見越した上で優しく宥めるように話すガスターを無視して視線を逸らすサンズ。
それを少しだけ愛おしそうに見つめ、ガスターは話を続けた。
「この世界にはそもそも”モンスター”という存在が無い。君も弟も、そして私も全員”ニンゲン”だ。」
その言葉に驚きを隠せない様子のサンズが口を開いた。
「は?」
「はは、心配しなくても大丈夫さ。現に私達の身体はそのまま、魔力も使えるだろう?」
赤子をあやす様な声色で話しながらパッと魔法を使うガスターに、少し安堵しながらも普段の彼とは想像出来ない程不機嫌な表情でサンズは声を上げた。
「…ニンゲンは魔法を使えないしこんな見た目じゃないと思うんだが」
「言っただろう?この世界は前の世界とは全く異なる。モンスターが魔法を使えるように、ニンゲンも”個性”と言う名の特殊能力を使えるんだよ。」
「…個性?」
個性?思わず問返した。
そんなサンズの様子を予想通り、とでも言うように目を細めるガスターに気分を悪くしたのかサンズは少し溜め息を吐く。
「うん。この世界の人類の8割は”個性”を持っている。能力は様々だ。水を操る、巨大化する…」
「…そして、他者から個性を奪い、与える。」
「…能力を…奪い…与える?」
唖然とするサンズにガスターはその不気味な笑みを絶やさず、しかし真剣な表情で告げた。
「そうだ。その名はオール・フォー・ワン。」
「オール・フォー・ワン…皆は一人の為に、ってか。ご立派だな」
今度はヘラりと皮肉るように笑うサンズ。
だがそれもつかの間、すぐに先程の気難しい表情に戻り彼は続けた。
「…で?これ以上オレに何して欲しいんだよ」
そんな彼にガスターは先程の真剣な表情の代わりに不気味な笑みをより一層深めた。
「察しが良くて助かるよ」
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博士が言うにはこの世界は前の世界とは全くの別物で時間軸も大幅に異なるらしい。
今のオレ達の目的は前の世界と時間軸に戻りニンゲンの世界崩壊を阻止すること。
そしてこの世界から戻るには研究と多くのデータが必要になる。
その必要なデータはオレたちで言う魔法…”個性”に関してだった。
“個性”のデータを集める為に一番手っ取り早いのは前の世界で言うロイヤルガードのような世界を守る”プロヒーロー”を多く輩出する雄英高校と関係を築くこと。
「…で、それは今中学三年生として高校受験が控えているオレにしかできない、と。合ってるな?」
「うん、そういう事なんだ。…サンズくん、約束できるかな?」
あぁ、本当に嫌いだ。
それで俺がどれだけ苦労したのか見てたくせに。
それでも、アンタは誰よりもあの世界を大事に思ってて、それこそオレを置いて命を投げ出すくらいには…
「ヘッ」
「サンズくん…」
「…今更投げ出せるかよ」
約束なんてクソ喰らえだ。
でも、それでも…アンタに頼まれたら、オレは断れない。
「いいぜ。アンタとの約束、引き受けてやる」
「…ありがとう、君はヒーローだ。」
自ら自身の発明品に落ち、二度とオレの前に現れることのなかった不気味な笑顔。何度も何度もこの瞳に焼き付かれた赤いスカーフ。
…消された時間軸の中に眠る最悪な悪夢をオレのケツイでどうにか出来るなら、そんな時間軸が存在するのなら…オレはオレが持ってるもん全部くれてやるよ。
…そう思ったらオレのタマシイはケツイで満たされた。