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第10話:「パパ活少女、加藤花音の涙」
《配信1時間前・都内某所》
カフェの片隅で、加藤花音は静かにスマホを見つめていた。
通知欄に一つのメッセージが浮かぶ。
【スピーカー登壇、あなたに決定しました】
From: #真相をお話します
その文字を見た瞬間、彼女の指が震える。
喉が渇き、呼吸が浅くなる。
(……来たんだ、とうとう)
バッグの中には、今もまだ使い古された財布。
キャッシュカード、交通系IC、そして一枚の写真――
“彼”との、最後のツーショット。
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《回想:高校時代》
加藤花音がまだ高校生だったころ。
家は貧しく、母は長期入院、父は失踪。
バイト三昧の日々の中、彼女に声をかけてきたのが――翔だった。
「金、困ってんだろ? 俺んとこ来いよ」
翔は軽いノリで笑っていた。
最初は彼女も、ただの「先輩」でしかなかった。
けれどある日、彼は真顔で言った。
「お前、頭いいし性格もいい。けど、金がないってだけで何も選べない。
だったら“選ばれる側”になれ。港区で生きてる女たちを見てみろよ。
“与えられる女”になれよ、花音」
その日から、花音は変わった。
制服を脱ぎ、“港区女子の仮面”をかぶった。
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《配信開始》
舞台は静まり返る。
観客は、これまでとは違う緊張感に包まれていた。
彼女が登壇する直前、翔が観客席に現れる。
目が合った。
逃げられない。
でも、逃げたくない。
加藤花音は、マイクの前に立った。
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《加藤花音の暴露》
「……私は、嘘をついていました。
“パパ活をしていた”というのも、半分は嘘です。
正確に言うなら――“していたフリ”をしていました」
会場がざわめく。
「会う男たちは、港区の社長、医者、芸能人。
けど私は、一度も身体を売っていません。
欲しかったのは金じゃない。“繋がり”だった」
「私を“欲しがる”大人に囲まれていれば、
いつか本当に、選ばれる気がしたんです。
自分の価値が、誰かの手のひらで測れる気がしたから……」
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《翔との真実》
「翔先輩は、そんな私の嘘をすべて知っていました。
でも、怒らなかった。
“お前は賢いな”って、笑ってた。
……でも、きっとそれが、彼を壊したんです」
「翔先輩が“ある録音”をネットに流そうとしたのは、
私を守るためじゃない。
――“私を突き放すため”でした」
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《花音の告白》
「あの夜、翔先輩を呼び出したのは、私です。
『最後にちゃんとお別れしよう』って」
「でも……現れたのは彼じゃなかった。
“港区女子を演じた私を恨む、もう一人の女”だった――
山本結衣さん、あなたです」
会場に再び衝撃が走る。
「彼女が翔先輩を突き飛ばすところを、私は見ていました。
でも、止められなかった。
だって……私、あのとき、ほっとしてしまったんです。
“彼が死ねば、全部終わる”って」
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《投げ銭ラッシュ》
コメント欄が沸騰する。
【これはヤバい】
【花音って悪女かと思ってたけど……】
【泣ける】
【まさか見てただけって……罪深い】
【翔……つらすぎだろ】
投げ銭が数百万単位で流れ込む。
それでも花音の目には、涙一粒もなかった。
「私の罪は“沈黙”です。
それをようやく、語れた気がします」
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《控室・翔と花音》
配信終了後。
翔が花音に近づく。
翔「……あの時、お前のこと、恨んでた。
でも今は、そうでもない。
“本当の自分”で話したお前の方が、
港区で繕ってたどの女よりも、よっぽど綺麗だった」
花音は、初めて泣いた。
翔の胸に顔を埋め、誰にも見せなかった涙を流した。