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「菜々子の話も聞かずに大きな声で怒鳴ってごめんなさい。なによりも手を上げて本当にごめんなさい!」


頭を下げて謝る雪恵に菜々子は首を振りながら答える。


「ううん、私がちゃんと雪恵の話を聞いて本当は困ってるんだって相談すればよかった。私の方こそごめんなさい」


「菜々子は悪くないよ。菜々子の為とか言いながら手を上げたし最低だって自分で思うもの」


「手を上げたのはビックリしたけど、でも雪恵が必死に話そうとしたのを遮って逃げようとしたのは私だから。そんな私にイラっとしたのは分かるからもういいよ」


顔を上げた雪恵の目には涙が浮かんでいる。そんな雪恵を見る菜々子も目に涙を浮かべつつ手を伸ばすと、雪恵の手を取り2人は見つめ合う。


そこからせきを切ったように互いの想いを話し出す。話し出せば先ほどまでの沈黙が嘘のように言葉が繋がる。


そんな様子を麻琴は優しい表情で静かに見つめ続ける。



* * *



「あの、せっかく呼んでもらったのに麻琴さんそっちのけで雪恵と話しててごめんなさい」


喫茶店から出て頭を下げて謝る雪恵と菜々子を見て麻琴は笑う。


「今日2人を呼んだのは、仲直りしてもらう為なんだから麻琴は今日の結果に満足してるよ。お互い本音を言い合えば仲が深まるってわけじゃないけど、ときには言い合うことも必要だと思うの。心だけで通じ合うって難しいし、やっぱり言葉を直接伝えるって大事だと思うの。色々あったけどそれだけ仲が良くなれば、今回の出来事は悪いことばかりじゃなかったってことだねっ」


麻琴の視線の先にあるのは2人の繋がれた手。2人が手を見て、互いに目を合わせると笑ういあう。そして雪恵と菜々子は、もう一度麻琴に頭を下げる。


「麻琴はこれで帰るから。じゃあねっ!」


雪恵と菜々子が引き留める間もなく、麻琴は手を振って颯爽と帰って行く。その背中を見送った後、視線はそのまま繋いだ手をきゅっと優しく握る。


「不思議な人だけど、とても優しい人だね」


「だよね! 突然現れるって噂もあったんだけど、本当に現れるなんて思わなかったなぁ~。あぁ~私ますますファンになっちゃったかも!」


雪恵の言葉に興奮ぎみに答える菜々子を見て、雪恵はクスクスと笑う。


「菜々子本当に好きなんだ。でも分かる気がする」


「ようやく雪恵にも麻琴さんの魅力が伝わった。そうだ、気になるサンダルがあるんだけどちょっと寄っていい?」


「それって麻琴さん関係?」


「もちろん!」


「付き合うけど、ほどほどにしてよ」


「はいはい、分かってるって」


2人は笑い合いながら並んで歩く。



* * *


2人と分かれた私は一人繁華街を歩く。


「あ~あ~っ、食べたかったなぁ~。特に雪恵ちゃんは好みかも」


私は舌なめずりをする。


だがすぐに首を横に振って、今考えたことを振り払う。


「だめだめ、仲のいい2人の邪魔をしちゃ。こうして知り合えたわけだし、チャンスはいつでもあるってこと。それに落ち込んでいる2人より、仲良く輝いてる2人の方が魅力的だもの」


まだ経験はないけど2人同時に食べるのもありかもしれない。そんな妄想をしながら仲良さそうに手を繋ぐ2人の姿を思い出してしまう。


愛し合う者同士ではなく、お互いを信頼し合っているからこそ出せる雰囲気。私が出せないもの。


「いいなぁ、友達かぁ~」


声に出して呟けば友達というやつがますます欲しくなる。


単純に一緒にいて楽しいだけでなく、お互いを知った上で気兼ねなく話せる仲って素敵だと思う。


気兼ねなく話せる……?


心に何かが引っ掛かるのを感じる。


何かを探ろうとしたちょうどそのとき、視線の中に見知った顔が入った気がしたので足を止めてしまう。


ショーウィンドウに飾られている服を眺める少女は、学校でいつも見る制服ではなく七分のブラウスにデニムのパンツを履いていた。服が変わっただけなのにいつも見る墨刺すみさしではない、別の人に見えてしまう。


墨刺がじっと見つめる先にあるのはショーウインドウに飾られたマネキン。そのマネキンが着る服を見つめた後、深いため息をつく。


その服は私が今着ている服と同じノースリーブをインナーにして、肌が透けるほど薄い生地で作られたシアーのカーディガンを羽織っている。

違いがあるとすればマネキンはスカートを穿いているが、私はサスペンダー付きのワイドパンツにスポーツサンダルを履いているくらいだ。なぜ服を見てため息をつくのか考える間もなく私の視線を感じたのか、後ろを振り返った墨刺と私は目があってしまう。


学校であれば気さくに話し掛ける仲だが、今の私と墨刺は他人。


短い時間だが、お互い見つめ合った後すぐに視線を逸らした私と墨刺はすれ違う。


それはそう他人だから当たり前。


他人……。


振り向かなくても墨刺が遠ざかっていく気配を感じた私は、心の中にある虚しさと寂しさを感じてしまう。

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