_染色体について、先生から教えてもらった。
女の人が持っている卵子にくっつく男の人の精子が持っている染色体がXかYかどうかで、女の子なのか男の子なのか決まるらしい。
別に、教科書を何回読んでも理解出来なかったわけじゃない。その話の間にしれっと言おうとしたことは染色体なんかよりもっと単純なことで、僕だって考えればすぐ無理だとわかる。
わざわざ昔習ったことを言うのは恥ずかしい、とかそんなことは思わない。でも、言えなかった。
「同性どうしでも、そんなふうに子供ができたらいいのに」
なんて。そんなこと言ったらばれちゃう。
僕が同じ男の子を好きになっちゃう同性愛者だって、ばれちゃうから。
ばれちゃったら、ばれてしまったら。
またあの時みたいに、いじめられちゃうから。
✣
_ごめんね
その言葉が、俺から離れてくれない。あの日の風景が、あの日の翠姉のやつれた表情が、あの日初めて見た悪夢が。全てが俺の足枷となり、身体を鉛のように重くしていく。
悪夢を見て、翠姉への罪悪感を感じながら一日を過ごし、やっと寝られたと思えばまた悪夢。寝不足の身体に追い討ちをかけるように、夢は襲いかかってくる。
踏切や救急車のサイレンの音を聞く度に。
紙切れの翠姉が笑う小さな遺影を見る度に。
あの悪夢が、繰り返される度に。
吐き気と頭痛がして、何もかもを投げ出したくなる。
「…俺が、翠姉のことを救えていれば…」
嗚咽と共に漏れ出す、小さな声。
翠姉。もしも今、これが聞こえているのならば。どうかどうか、
少しだけでいい。俺の事を、許してください。
✣
いつかあなたが、僕にどんな人でも愛せる勇気をくれたように。
いつかあなたが、俺に鮮やかな世界を見せてくれたように。
どうか、あなたがあなた自身の色に、
そして私が、その色に、染まれますように。
あわよくば君色に染めて。
連載開始