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イカしたクールな蜂の絵
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Buildermanメイン
嫌われ的な 後に鬱展開 NOTセンシティブ
三月の中頃。
まだロビーの外は寒く、所々雪が積もっていた。
僕は暖炉の前に一人、椅子に腰掛けていた。
僕たちがこの場所に転送されてから、二度目の春。
来たばかりの頃、仲間たちの中には僕の見知った顔がいて、特にShedletsky、後にDusekkarを見かけた時はとても安心した。
そして――此処で彼に会った衝撃を、今でも鮮明に覚えている。
キラーとして、凶暴化してしまったJohn Doe。
彼を見る度に、心苦しくなる。
どんな手を尽くそうとしても無駄で、僕には諦めるしかなかった。
最後まで、Janeは諦めなかったのに。
最高責任者である僕が、彼女の僅かな希望すら諦めてしまっていたんだ。
『…誰かと思えば、貴方なのね。』
後ろから声を掛けられる。
冷たくて、突き放すような声。
「……Jane?」
黒の帽子を深く被って、濃いピンク色の髪を結んだ…まさに彼女が、僕の後ろに立っていた。
「君も…ここに?」
『…。』
『忘れていないでしょうね。私の夫の事、あの日の事…』
忘れるわけがない。
謝罪をしようと思った矢先、彼女は踵を返して部屋に戻って行ってしまった。
――今更、もう遅い謝罪。
謝ったところで、彼女の夫が正常に戻るかなんて…そんな事が起こるはずがない。
ふと床に落ちているものを見た。
彼女のファイルから、挟んであった書類が落ちたようだ。
彼女の癖のある文字が、びっしりと紙にインクを落としていた。
その中には、HQにいた彼らの写真と、Johnがおかしくなってしまう数日前から今までの出来事が、事細かく書かれていた。
【Shedletsky】
「彼の温かい笑顔は変わっていないようだけれど、何処か表情が硬くなっているように見える。
(中略)
…彼は1x1x1x1と自身が深く関係していることを、隠そうとしているのだと思う。」
彼はいつも明るくて、まさに社内のムードメイカーだった。
今だってそうだ。
1x1x1x1との事では、強い精神的ストレスを感じていると、僕はあの時から薄々気付いていた。
時にTelamonの名を名乗り、何もかも強引に傲慢に、押し通そうとする事も多々あった。
明らかに様子がおかしかったはずなのに、僕は彼に、まともに寄り添うことすらしなかった。
いつだって僕は、何もできやしない。
ページをめくる。
どうやら三ページあるようだ。
【Dusekkar】
「何故彼のような強い力を持った人間が、ここにいるのか分からない。
(中略)
…彼はこんな運命を辿っていい人じゃなかった。」
そういえば、彼もShedletskyが不在になった頃から、様子がおかしかったように感じる。
彼とShedletskyは、まるで兄弟のように仲が良かったから。
…僕がまだ平気でいられたのは、僕の方こそおかしかったからなのだろうか。
次のページをめくる。
僕の名前が記されていた。
【Builderman】
「怠け者。貴方のせい。」
最初に目に入ったのは、写真だった。
まるでインクを零してしまったかのように、写真に写る僕の顔だけが、真っ黒に塗り潰されていた。
恐る恐る、文を目で追っていく。
(中略)
…貴方が行動を起こしていたら、何か変わっていたかもしれないのに。」
彼女の記した言葉は、僕の心に重くのしかかった。
バッと、手に持っていた紙の束を、乱暴に奪い取られる。
『勝手に読まないで頂戴、貴方には今更関係ないでしょう。』
「…ごめん。」
僕は驚きで目を見開いたまま、呆然と、彼女の後ろ姿が暗闇に消えるまで眺めていた。
全ては僕が無能だったから。
何もできなかったから、彼女は僕を酷く軽蔑している。
当然だ。
…僕はやるべき事から、逃げてしまったのだから。
その日の夕方。
外の寒さは、僕に冷たく現実を突き付けた。
夕御飯の時間、各々がピザやサンドイッチなど、食べたいものを食べていた。
『どうしたんだビルダー、調子でも悪いのか?』
隣に座っていたShedletskyが、夕御飯をあまり食べない僕を見かねて声を掛けた。
「…ううん、大丈夫、いつも通りだよ。」
『…そうか。』
正直喉を通りそうにない固形物を、水で押し流しながら、無理矢理飲み込む。
――僕のせいとは言えど、あそこまでJaneに嫌われているとは思わなかった。
僕のしでかした罪は、それに値するほど重いものだったのかもしれない。
『そう言えばGuest、この前の結果見たか?』
Chanceが大きな声で話し始める。
『なんの結果だ。』
Guest1337、彼はそんなChanceを鬱陶しそうに見るが、短く返事をした。
『人気投票だよ、コミュニティで話題なってただろ?』
コミュニティ…、人気投票…。この世界の管理人が、きっと気まぐれで作ったであろう、馬鹿馬鹿しいシステム。
僕は聞きたくなくて、そっと彼らから目を背けた。
『あぁ、それがどうかした?』
『お前見てねぇの?一位じゃんか!すげぇ事だぞ??』
『…ボク何位かな?』
『Twotimeは〜〜わかんね、自分で見てみろ。ってか最下位って誰だ?』
ふと視線を感じた。
――知ってる。最下位はこの僕だ。
『…あまり騒ぐな、Chance。ほらまだ飯残ってんぞ。』
『お、忘れてた。』
周りが僕を遠巻きに見ているような気がした。
憐れむ言葉もかけず、囃し立てず、ただ僕を一瞥するだけ。
僕は皆のいる方を向けず、頬杖をつきながらドアの方に目をやる。
運悪く、その近くに立っていたJaneと目が合った。
彼女は僕を嘲笑うかのようにして、そっぽを向いた。
部屋に戻ると、静寂が僕を包んだ。
それは、ロビーにいるよりも遥かに心地良いものだった。
力なくベッドに横たわると、自分の意志とは反対に、涙が出てきた。
「最下位」だの、「お前のせい」だの、「怠け者」だの。
全部原因は僕にあるはずなのに、それを否定する僕も僕で、なんだか嫌になってきた。
泣きたくないのに、声を上げて泣き始める。
本当はあの時、Janeが僕を憎んでいることを知った時に……Chanceやロビーの皆が、僕の方を見た気がした時に。
今みたいに、泣きたかった。
でも、大の大人が、人前で泣くなんてみっともない話だ。
余計に、僕がどれだけ駄目な人間かが際立ってしまう。
――実際、どうしようもない駄目な人間だけれど。
その現実を忘れたくて、目を瞑る。寝ようとする。
でも息をするたびに苦しくて、寝付けなくなる。
まるで「逃げるな」とでも言われているかのように、体が休むことを拒んだ。
喉が渇きを覚えて、ロビーに戻って水を飲もうとする。
ロビーはまだ電気が付いていて、誰かがまだ起きているようだった。
『……。』
Janeだった。
彼女は僕を睨みつけたかと思うと、すぐに目線を手元の本に移した。
二階にはさっきまで騒いでいたChanceもいるようだったが、僕が扉を開けた瞬間、空気が凍るように冷たくなったのが分かった。
僕はなるべく、ソファに座っている彼女を見ないように、テーブルのペットボトルを一本取って、すぐ部屋に戻った。
「……ごめん、John、Jane…。」
何もできなかった罪悪感と、自分自身への無能感。
彼女と彼の人生を狂わせておいて、のうのうと生きていていいのか?
もう信頼も人気もない僕に、何か価値があるだろうか?
彼女にそう問いたかった。
問うた所で、返されるのは答えではなく軽蔑の視線だろう。
冷たい水を一口飲んで、ベッドに戻る。
僕は意味も無く目を閉じて、朝を待った。