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えーっと私の性癖に見事ぐさっと来ましたよねはい ( は
‐ main character’s name ‐
↻ 海嶌 詩穂( ミシマ シホ
私は何時か、声が出なくなっていた。
原因はきっと自分の意見を言えないこと。
本当は私はこうだ、って言いたいのに言うタイミングを逃して、相手が嫌になるかなとか思って、自分の言いたいことが喉の奥に閊えて出てこない。
そうしたらもう声が出てこなくなった。
親は其の事実に呆れ、もう暫く話していない。
クラスメイトとも話すのは筆談だけ。
其れ以外は話を聞いてにこにこしている良い子を演じている。
ずっと私の気持ちを押し殺して良い子に成っているの。
或日、学校へ登校するためにバスへ乗車した。
朝のバスは通勤ラッシュで人がぎちぎちに詰まっている。
其の中、数カ所空いている席を見つけ座る。
一息吐き、外の景色を眺める。
学校最寄りのバス停にバスが停車する。
降りなきゃ、そう思うのに足が震えて動かない。
足が、身体が学校への登校を拒否している。
なんとなく嫌だった学校が、投稿を拒否するほど嫌になっている。
あぁバス動いちゃった、そう思いたいのに安堵の息が溢れてしまう。
なんか嫌だなぁ。
学校の最寄りのバス停で乗ってきた人が居た。
人は知らなかったけど足音が聞こえたから。
其の人が空いていた私の隣の席に座る。
其時私は目を見開いた。
相手は其時口を開いて言った。
「ねぇ学校は?」
真っ白の色素の薄い髪に、その髪と同じ色をした長くて綺麗な睫毛、目鼻立ちの整った顔がイケメンと言われる男の子。
でも学校にはろくに投稿しないし、煙草を吸ったと容疑をかけられている、所謂問題児。
私はそんな人を苦手としていた。
私の書く手が止まっていたのを察し先に言葉を紡いだ。
「てか制服だったから声掛けたんだけど、名前知らないから教えて」
『クラスメイトのみしまです』
私の丸っこい字が嫌いな名字を描く。
「みしま?三に島?」
『いえ、海に山書いて鳥で海嶌なんです』
空中に見えない文字を書いて教える。
解るかな 笑
なんて上っ面の良い子ちゃんが言う。
「へぇめんどくさそ。俺は … 」
遮るようにして、メモ帳を顔の前に突き出した。
『知ってます、柞眞くんですよね?』
「そ、でも珀でいいや」
『解りました、珀くんですね』
なんて他愛のない、どうでもいい話を繰り広げる。
そしてまた話を戻されてしまう。
「それで、海嶌はなんで学校行かなかったの?」
『なんででしょうか。というか珀くんも其れブーメランじゃないですか』
「うわ確かに」
気になっていた。
不登校ってなんで休むのだろうか、と。
まぁ私が思うのはきっと違う。
「んじゃ俺の行きたいとこについてきてくれたら、其の場所で教えてあげるー」
にや、と口角を吊り上げて私を見る。
其の顔を横目に見ながら、頷いて了承する。
『何処に行くんですか?』
と私は問う。
其れに反応し、答を返す。
「んー、取り敢えず電車乗る」
適当だな、と内心思いつつ言われた事をきちんと遂行する。
『それで何処に行くんですか?』
切符売り場で駅の欄を眺めている君に、紙にぶつけた疑問を見せる。
「海がある駅」
そう答えられて頭が回転を止める。
嫌だ嫌だ、と何処かの私が言ってしまう。
トラウマがある海は目眩がしそうになる。
『そうですか。じゃあ此処の駅ですかね』
切符を買い、少し重い足取りで電車に乗る。
「来ないと思ったわ」
急に口を開かれ、答えに戸惑う。
おろおろしている私に気がついたのか、付け足す。
「遠慮しときます、とか言いそうな雰囲気漂わせてたじゃん」
『そうなんですか』
「でも俺の考えに釣られるとは思わなかったわ」
其の言葉に反論がしたくて、紙とペンが擦れる早さが増す。
『いえ!暇だったし、家帰っても親に嫌な目で見られるので』
「ふーん?親は仕事出てないの?」
『お父さんが会社の社長で収入が安定してて、お母さんは専業主婦なんです。だから殆どずっと家に居ます』
「お父さん」「お母さん」なんて久しぶりに書いたな。
そんな事をぼんやりと思っていた。
「あ、もう着きそ」
珀くんの口から紡がれる言葉は何時も突発的で、私は其れに踊らされているような気分だ。
電車を降り、少し歩く。
潮の香りが鼻をくすぐる。
「おー、めっちゃ海。暑いから足だけでも入る?」
身体が一瞬固まる。
怖いの、海で貴方が私を魅て嫌わないか恐いの。
其れでも頷き、珀くんの後を追う。
「海嶌はなんで声出ないの?」
紙が海で濡れないように、高く掲げながら返事を書く。
『声が出なくなったんです、なんでかは解らないんですけど』
「其れ出ないじゃなくて、出したくないんじゃない?」
そうかもしれない、そう思うのは隠したい。
其れを認めたら駄目な気がするから。
「声出してみ」
本気で出そうかな、なんて思って叫んだが矢っ張り声は出ない。
『無理です、出ません』
「んー、愚痴叫べば」
首を傾げる私ににっ、と笑う。
「ほら愚痴とか不満とか言ったほうがスッキリするじゃん」
言っていいのか解らない。
でもなんとなく声が出そうだったから、大きく息を吸って海へ叫ぶ。
「恐いの!だからそんな目で見ないでよっ、!」
久しぶりに自分の声を聞いた。
思っているよりも透き通っていて嬉しくて、口許が緩む。
其れと同時に、嫌われるんじゃないかという恐怖が襲う。
「はー、まじで不満言うとは思わなかったわ 笑」
珀くんの口がけらけらと笑いながら開かれる。
言葉を想像すると恐かった。
「やっぱ言うのを我慢してただけなのか」
美しい口許から紡がれた言葉は、想像と違った。
もっと非難するような、否定するようなそんな言葉だとばかり勘違いしていた。
「もっと叫べば?不満」
頷いて、貴方なら珀くんなら良いと思って御言葉に甘えて肺いっぱいに酸素を吸う。
「意見言えないのを、良いように使わないでよ ッ !私だって失望されるのが恐いだけなの ッ 」
「めっちゃ出てくんの笑うわ」
言葉通りけらけら笑う。
其れが可笑しくて可笑しくて私も声を上げて笑ってしまう。
「私ずっとこんな事思ってた。失望した、?」
「そんなんで失望するほど期待してないでーす」
「酷っ、いのか、?笑」
其の言い方に嘘なんて感じなくて、なんだか認められた気がした。
只管嬉しかった。
「良かったら珀くんの不満も聞かせて?あ、不登校の理由とか」
珀くんは笑いを沈めて、口を開く。
「俺さ煙草の容疑かけられんの、其れ嘘。全部全部冤罪。本当は其奴が吸ってた煙草の吸殻を押し付けられて、罪を被せられただけ。其奴には海嶌より全然失望した。そっから其奴に顔合わすのもめんどくなって、学校行くのもいいやってなった」
私に聞こえるか聞こえないかくらいの呟きで、今迄殆どの人が知らないであろう真実を耳にした。
其れを今迄言わなかった珀くんの気持ちが、胸を締め付けられる程同感の一言に尽きる。
「そっか、頑張ったんだね」
ふわ、っと口に出してしまう。
それを聞いた珀くんは目を見開き、「おう」と拳を私に向けて笑顔が綻んだ。
「私も行くから学校来てね。放課後とかまた不満言い合って、アオハルしよ!」
「気が向いたらな」
「私が引っ張り出すね」
「絶対引き篭もる」
「そしたら珀くんの家の前で泣くね」
「近所迷惑」
こんな本音を出し合って呆ける会話なんて初めてだ。
楽しかったの、貴方との此の時間。
貴方と改めて出逢った此の海の時間は、全部大好きでした。