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成長if
モブから呼び出しのお手紙を貰うアーニャとそれに巻き込まれる(?)ダミアンのお話。成長ifです。モブ(男)が出てきます。
苦手な方はご注意ください。
ーーーーーー
『本日の放課後、中庭の広場でお待ちしています。』
差出人不明の、すこし震えた字で書かれた手紙。
「ベッキー、アーニャなんか貰った」
「え、アーニャちゃんそれって…」
そう、その手紙を持っていたのは名門イーデン校の皇帝の学徒であるアーニャ・フォージャーだった。
その親友であるベッキー・ブラックベルは彼女と手紙を交互に見つめ、すこしの間固まっていたがすぐに瞳をキラキラと輝かせた。
「いや〜ん!アーニャちゃんたら隅に置けないんだから!
ちょっと!もっとよく見せて!」
よく見ると品のいい装飾の描かれたとても綺麗な便箋であった。
しかし無駄なことは一切なく、簡潔な文章のみを震えた字で記しているところに差出人の緊張や心情などが何となく伺える。
「これは間違いなく告白よ、アーニャちゃん」
「こうはく…?」
「告白ね…
まぁいいわ。
あのねアーニャちゃん
今日の放課後に中庭の広場できっとコレを書いた人がアーニャちゃんを待ってるはずよ。
でも…誰が来るかなんて正直行ってみないと分からないから女の子が一人で行くのは危ないと思うの…」
「敵がいる…?!」
「いやそうとも限らないけど…
でも危ないかもしれないのは確かよ。
てことで、これ、ダミアンに見せてあげてきて。
アーニャちゃん。」
「じなんに?」
「あいつに見せたらきっと面白いわよ」
「?
じなん愉快になる?」
「ええ!そりゃあもう!」
「よし、じなんのところ行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い♡」
ぱちり、彼女の、言葉で語ったこと以上にワクワクと何かを楽しみにしているような心情が伝わってきた。
(ベッキー、よくわかんないけどわくわくしてる…)
親友の楽しそうな様子を見て、これは本当に何か面白いことがあるかもしれない…とアーニャ自身もムフフと笑みを浮かべながら、同じく皇帝の学徒であるダミアンの元へ向かった。
「あ、じなん
おはやいます。」
「相変わらず朝からちんちくりんだな」
「むっ」
ほぼ毎日のやり取りであるが、両者は飽きもせず同じやり取りを繰り返す。
そしてお互い軽く言い争いをしてから授業開始のチャイムで朝の喧嘩タイム…もといイチャイチャタイムと密かに他の生徒達から呼ばれている数分間のやり取りは終了するのである。
しかし、今日のアーニャには明確な目的があったため喧嘩などしている場合ではなかった。
「じなん、なんかよくわかんないけど、コレ見ろ。」
ずいっ
アーニャはダミアンの目の前に先程の手紙を突きつけた。
「…は?」
「なんか、貰った」
パチ、少し鋭い音がアーニャに届く。
(お待ちしてます、だあ?
これは…どう見ても…)
瞬間、ダミアンの顔がくしゃりと歪んだ。
「…じなん?」
「お前、俺にこんなの見せて何がしたいんだよ。」
「えっ…うーん…これ、ベッキーが危ないからじなんに見せろって」
「はぁ?」
パチリ、再び音が聞こえた。
(ブラックベルの奴、何が言いたいんだよ…!
くそ!
しかしこいつ、一丁前にこんな手紙受け取りやがって…!
俺にどうしろってんだ)
歪んだ表情のままのダミアンは便箋をパシリと素早くアーニャから奪った。
「あ〜!じなん!何する?!」
「うるせぇ!
大体な、差出人も分かんねぇような手紙軽々しく受け取ってんじゃねぇ!
お前は庶民だからそんな心配無いかもしれないけどな、この学校には名家の人間がごまんと通ってるんだぞ!
もし誘拐犯か何かだったらどうするんだ!」
一息に怒鳴り、ダミアンは少し息を切らしていた。
「ううっ…でも、だって…」
「だってじゃねぇ!
いいか、絶対行くんじゃねぇぞ。
とにかく…これは俺が処分する。」
「な…!せっかく手紙くれたのに!」
「うるせえ」
(くそ、本当に何も分かってなぇなコイツ…!
…とにかく、色々それっぽいことは言って誤魔化したが……
何処の馬の骨とも分からねぇような野郎に先越されてたまるか…!)
ぱちり、聞こえた本心では誘拐犯云々は何かの言い訳で、ダミアンはその”何か”で先を越されるのを不安に思っているようだった。
しかしアーニャはせっかく手紙をくれて、放課後に待っているであろう手紙の主のことを思うと、どうしても手紙を捨てられてしまうことや行くな、と言う言葉には素直に頷くことが出来なかった。
「ダミアン!」
ピタッ、名前を呼ばれたダミアンは面白いほどしっかりとその場に留まった。
「な、なんだよ…」
すると、ダミアンはこちらを振り返らず返事を返し、アーニャは内心『よし』と心の中でガッツポーズをした。
ダミアンは何故か名前を呼ばれることに弱い、ということをここ十数年の付き合いでアーニャは完全に熟知していた。
「えっと…えっと…じゃあ、じなん、一緒に来い!」
「はぁ?」
「中庭の広場、外からは見えない。
だから、この学校の先生と生徒しか知らない場所。
だからたぶん、誘拐犯じゃない!」
「…は?」
「これくれた奴、きっとアーニャに話があるだけ!」
「……いや……てかおまえ…これ…絶対一人で行くの前提の呼び出しだろ…」
「来いとは書いてあるけど
一人で、とはどこにも書いてない!」
「おま……………ぶふっ」
「な?!じなん?!なんで笑う?!」
ダミアンはアーニャの突拍子もない言葉に思わず吹き出してしまった。
こいつ、本当に何も分かってない。
恐らく告白の呼び出しと思われるものに、男に、俺に、一緒に来い、だなんて。
それじゃあまるで……
「あーあ、たく…本当に調子狂うな…」
「じなん?」
「分かった、一緒に行ってやる。」
「!
じゃあ…!」
「だが…どうせ一緒に行くんだ、手紙はそれまで俺が預かる。
問題ないな?」
「…うぃ!了解!」
こうして放課後、アーニャは中庭の広場へと向かった。
約束通りダミアンも一緒に。
すると1人、既にそこに男子生徒が落ち着かない様子で立っていた。
「…あ!アーニャさ…え?」
そわそわと落ち着かない様子の男子生徒はアーニャの後ろにいるダミアンに気が付き、その瞬間ヒクリと短く息を吸った。
「よう」
ダミアンは低く唸るように男子生徒に挨拶をする。
「な、な、な…?!
おまえは…ダミアン・デズモンド?!」
「この手紙、こいつに渡したのはお前か?」
「わ…分かってるなら…なんでついてきてるんだ!」
信じられない、と言いたげに男子生徒はダミアンを睨みつけた。
その光景をみていたアーニャはワタワタと慌てた様子で言葉を発した。
「えっと、じなん、アーニャが連れてきた!」
「え?アーニャさんが?
こいつを?
なんで…」
再び男子生徒はダミアンの顔を恐る恐るチラリと覗く。
「…そういうことだ。」
ニヤリ、意味ありげな笑みをダミアンは男子生徒に向けた。
「…え?そ、そういうことって…」
男子生徒は2人を交互に見て首をブンブンと振った。
「そ、そ、そういうことって…嘘だ!
だって…いつも言い争いしてるようなお前らが……?!なんで…?!」
「なんだお前、今ので分からなかったのか?」
再び低く唸るようにダミアンが呟いた。
「そういうことだって言ってんだろ。
それとも…お前はデズモンド家の人間に楯突くのか?」
デズモンド、という名前を出せば相手はたちまち慌てた様子で「違う!」と両手をブンブンと振り否定した。
「いや!本当にそういうわけじゃないんだ!
ははは…
えっと…アーニャさんすみません、やっぱりなんでもないや!
あははは!い、いやぁ!
へへへ…お、お幸せに!」
そう言い残し、足早に彼はその場を去っていった。
そしてアーニャは何故か蚊帳の外と化してしまったこの状況にポカンと一人口を開けていた。
なんだかよく分からないが、呼び出した張本人は居なくなってしまった。
(ま、これで暫くはこういうことは無くなるだろ)
ふん、勝った。と言わんばかりに先程言い争っていた時とは打って変わって少し得意げにダミアンは笑った。
「じなん、喧嘩、だめ。」
そしてまた、素っ頓狂なことを言ってくる隣の愛しい想い人の言葉が耳に届く。
「はあ?お前この状況で…!
誰のせいだと思ってんだ!」
ダミアンはアーニャの頬っぺたを摘みグイグイと少し強めに引っ張った。
「いひゃい〜!ひひゃん(じなん)、いひゃい〜!
ほひんひゃひゃいー!(ごめんなさいー!)」
アーニャの口から謝罪と思しき言葉が聞こえてきたため、ダミアンは少し名残惜しく感じながらも柔らかいアーニャの頬から手を離した。
「たく、お前もう二度と訳の分からない手紙受け取るんじゃねぇぞ!」
そう言葉を投げると、「ううう」と、引っ張られた頬を抑えながらアーニャはくるりと後ろを向き、黙ったまま俯いた。
その姿に、少しやりすぎたか…?
と不安になりアーニャの背中に手を伸ばすも、背中に触れるよりも先にボソリ、と、か細い声がダミアンの耳に届いた。
「……それは………じなん次第」
「…は?」
いま…なんて…?
聞き返そうとすると、アーニャはこちらを振り返らないまま猛ダッシュでどこかへ向かって行ってしまった。
ダミアンは慌ててアーニャを追いかけるも、普段はお世辞にも脚が早いとは言い難いアーニャの全力疾走が通常の3倍は早く感じて、アーニャを目で追着いて行くことで精一杯だった。
そしてダミアンがアーニャのちらりと覗いた耳や首が真っ赤になっていたことを知るのは、もう少しだけ後のこと。