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下駄箱でお待たせと言って駆け寄ってくるはずの彼女を待ちながら雨の降る外を眺める。
雨の日は少し物事のスピードが遅く見える。
ゆっくりと目の前を落ちて地面に跳ねる無数の雨粒を見ていると「お待たせ〜」と言う声と共に彼女がきた。
肩まである髪がゆっくりと揺れて見える。
それを見ていると彼女は嬉しそうに笑った。
「えへへ髪の毛バッチリ決めてきたんだよ〜」僕は「とてもキレイだね」といった。
彼女は照れているのを誤魔化すように近くではしゃいでいる。
「今日は僕の傘で帰ろう」
雨の日はどちらかが傘をさして帰るのが日常だ。だから、ほとんどの人が帰った静かな下駄箱でいつも待ち合わせる。傘を広げようとすると彼女は腕にしがみついてきた。
一瞬だけゆっくり耳に響いてた雨の音がはやくなる。
「ねぇ今日はゆっくり歩いて帰ろう?いつも歩くの早いんだもん」
答えるかわりに僕は少し身長の低い彼女に視線を落として微笑み頷く。
雨の中を1歩踏み出す。
飛んできたたんぽぽの綿毛を掴むように彼女の手をそっとつかむ。
彼女の耳が少し赤くなる。
傘の上にゆっくりと落ちてはねて滴り落ちる雨の音が今はこの世界の全て。
けれども違った。
僕の足が音を立てる間の一瞬、彼女の足音も聞こえる。
雨と僕と彼女の足音だけが耳に響く中、彼女の歩くスピードに合わせてゆっくりと帰る。
彼女の手が温かい。
照れているのか俯いている。