テラーノベル
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水音が途切れた。
悠真が手にしていた皿を拭き終えると、ふと視線を落としたまま口を開いた。
「……誰にも言ったことなかったけどさ」
唐突な声音に、咲は思わず手を止める。
「俺、親がいないんだ」
低く落ち着いた声が、台所の静けさに溶けていく。
「小さい頃、母親を病気で亡くして。父親も、母さんがいなくなったあと……ひとりで育てる自信がなかったのか、家を出てった」
咲の胸がきゅっと痛む。
いつも穏やかで余裕のある姿しか見せない悠真の、その裏に隠された孤独。
「兄弟もいないからさ。ずっと祖父母と暮らしてた」
食器を拭く手は止まったまま。
悠真の声だけが、静かに流れていた。
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