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二人は一階へ階段で行き、外の空気を吸った。エレベーターにしようと誘ったのだが、彼曰く途中で止まる可能性が高いからとのこと。囚人が式を取れば、当然看守に逃げられないようにエレベーターを使えなくするに違いない。
空は真っ暗で、星空が輝きを増していて綺麗だ。満月は遠くの方で煌々と輝いている。
ここへ来る前に看守しか入ることができない保管場所へ行き、履歴書を手に入れていた。そして、囚人が比較的少ない場所へ行きカードと履歴書を海へ捨てる。これで僕は囚人になった。もう戻ることはできない。
「なあ、腹減らないか?食堂に行こうぜ」
アルマはそう言って、一人でにゆっくり足を進める。
このまま一緒に行っても良いのだろうか。彼を信用していいのだろうか。甚だ疑問だ。とはいえ、僕も実はお腹がグルグルと鳴っていた。食べなければ、力が出ないし頭の回転も鈍くなるだろう。
渋々ついて行くことにした。
食堂は地下一階にある。階段を使って降り、廊下を進むと大きな二つの扉が壁についている。ここが食堂だ。彼が扉を開けると、何やら囚人たちの歓声と応援の声が響き渡っていた。何事だろうか?
「いけ! やっちまえ!」
「ガルド、そいつを殺せ!」
ガルドというのは誰だか分からない。が、抗争が繰り広げられているのは言葉に耳を傾ければ理解できる。
集まっている中心まで囚人の人混みを掻き分けて前へ進むと、そこには見覚えのある男が座らされていた。ジョナサンだ。彼は脚と腕を紐で縛られている。
今現在赤毛の大男に顔と全身を殴られ、蹴られている。赤毛の男こそ、ガルドだろう。
ジョナサンの顔には青痣、おでこには赤いたんこぶが出来ている。鼻から血が垂れていて、凛々しいゴリラ顔から醜いおじさん顔に早変わりしていた。これは止めなければ、ジョナサンが死んでしまう。
「これ以上、争いはやめろ!」
拳を振り下ろそうとした瞬間。僕は何も考えないで咄嗟に手を広げた状態で前へ出てしまい、殴っていたガルドに威圧のある眼差しで睨まれてしまう。まずいことをしたと気づいた時、既に遅かった。顔が真っ青になっていく。
周りも空気を読んで、シーンと静まり返っていた。
「お前は囚人だろ? なぜ看守を助ける? お前もしかして看守なのか?」
威張った口調でそう言われて、首を横に振る。
「ち、違います! 争いを見たくないだけです……」
そんな言い訳など通るわけもなく、ますます怪しまれてしまう。
「そんなことを言っても顔に出ているぞ。お前は囚人じゃないな」
「……」
何も言い返さず無言のまま。脚が恐怖で震えており、ちびりそうなほど緊張している。手が汗で湿っているほどだ。
ガルドの隣にいたアジア系の囚人が、ひそひそと話しかけていた。それを聞いた彼はナイフを受け取り、眺めてから床にナイフを投げる。ちょうど自分の足の近くに落ちた。彼は得意げな笑みを浮かべた。
「囚人ならば、そこに座っている看守をこのナイフで殺せ。殺人を一度犯したことのある囚人ならできるはずだ」
「え?」
突然の提案に困惑して、口が開いたまま呆然としてしまう。
「それともできないと言いたいのか? できないなら……」
胸元からコインを取り出し、それを片手で捻り潰して投げつける。コインは四つに折り畳まれていた。男は怒鳴り声を上げた。
「お前をコッパミジンにしてやる」
そう言われて、背中に冷や汗をかいてしまう。顔は真っ青になり、殺されたくないと瞬時に思った。とはいえ彼らが殺人を犯した悪であるのには違いない。悪を潰す正義感溢れる人格が現れるはずだが、今回は現れなかった。恐らく駆け引きに近いからだろう。
こうなったらジョナサンを殺すしかないのか?それともガルドを説得するべきか。
僕は床に落ちているナイフの柄を握りしめた。
僕は看守を殺せない。とはいえ、ガルドに逆らったら確実に殺される。死にたくない。
彼は他の奴よりかなりの筋肉質。がっしりとした体型で異常にデカい。赤い髪は短くてボサボサしており、顔にもそばかすがある。
こいつと悪を潰す正義感だけで勝負したら、負けるのは確実だ。僕は悪いことをしている人間を何人も潰してきたが、窃盗犯やら未成年喫煙・飲酒をしている奴ばかりを相手にしていた。シリアルキラーを相手にしたことはない。
僕は指に力を込めて決意した。
ジョナサンにナイフの先を向ける。腹に向けてナイフで突き刺そうとしたら、その手を掴まれた。彼はこちらを鋭く睨み、嫌悪感を露わにする。
「俺のこと殺すつもりか? 自分の保身のために赤の他人を殺そうなんてお前らしくないな。俺のことは構うなよ。今すぐここから逃げろ。でないと、お前をずっと恨む」
そう言われて目が覚めた。僕は何をしているんだ。囚人の提案を何故こうも易々と聞いているんだ。
ナイフを落として、その場から逃げることにした。しかし逃げる直前にアジア系の囚人が僕の方を指さす。
「こいつ、囚人じゃなくて看守だってさ」
訛りの強い英語でそう言うと、ガルドはニヤリと微笑み僕の頭にパンチを喰らわせようとした時だ。扉が開き、青のウルフヘアの眼鏡男子がそこにいた。切羽詰まった大きな声で、呼びかける。
「ガルドさん、貴方の弟が倒れていました。早く看病してください」
「なんだと!? 本当か?」
「はい、本当です」
ガルドがいきなり扉へ向かうと、青い髪の男と共にどこかへ行ってしまった。これで一安心だ。