「パイモン、そろそろモンドへ出発しよう」
儚げながらも幼さを感じる声で、自身の最高の仲間の名前を呼ぶ。まだ日は登りきっておらず、あたりは薄暗かった。重い瞼を少しの時間をかけてあげきった相棒はまだ眠いのか、目を擦りながら空に返事をする
「もうなのかぁ…?まだゆっくりしてもいいだろぉ…」
いつもよりもゆったりとした口調に、思わずくすりと笑ってしまう。だが、今パイモンと空が居るのはフォンテーヌ。モンドまで果てしない距離である。いつもなら空もパイモンの意思を尊重するところだが、彼にも何かしら事情があるのだろう。微笑みながらも相棒を必死に起こす
「もう…モンドまでは遠いからゆったりしてちゃダメなんだよ…」
そこでパイモンは思い出す。何十日後だったか、空の想い人の誕生日であることを。思わずパイモンの口元がニヤリと意地悪な弧を描く。そんなパイモンの様子に空は何かを悟ったのか、急に顔が真っ赤に染まる。りんご、と例えるには少し足りないほど頬や耳が紅色に染まりだす。
「そうかそうか…ふーん」
「ちょっ…パイモン!?」
「分かった分かった、行くぞ」
空の必死の弁護は虚しくも逆効果、なんなら火に油を注ぐ結果となってしまった。ニヤニヤとする相棒のご飯は今日採ったスライムの粘液だけにしようと心の奥で決意し、2人は自由の都へと歩き出した。
〜スメールにて〜
「久しぶりね」
ゆったりとした様子で空とパイモンに話しかける、儚げな雰囲気を纏った1人の幼子。もとい、草神ブエルは久しぶりにあった自分の賢者に喜びつつ、歓迎しようとおもむろにポケットからナツメヤシキャンディを取り出した。
「あなた達が来ると分かっていたわ。せっかくだから、ナツメヤシキャンディでもあげようと思ったの」
慈愛に満ちた瞳で2人を見つめ、少し名残惜しそうにナツメヤシキャンディを渡した。旅では腐ってしまうかもしれない、という理由であまり甘味を食すことのないパイモンにとって、これは神の恵みだ。ナツメヤシキャンディを認めた瞬間、パイモンの瞳が一気に光を取り戻した
「いいいいいいいのか!?!?オイラ何日も甘いものを食べてなかったんだ!!ありがとな!!」
「パイモン…ナヒーダ、ありがとう。大切に食べるよ」
怒涛の勢いで感謝を述べたあと、目に留めることが不可能な速さでナツメヤシキャンディを口に入れるパイモン。そうなることを予想してなのか、通常よりも小さめに切り分けられたナツメヤシキャンディには、ナヒーダの気配りが見て取れる。ナヒーダの優しさを感じながら、空は感謝を述べる。
「あなた達はこれからモンドへ行くのでしょう?」
「え?うん…」
さすが知恵の神と言ったところか、全部丸見えなのだろう。特に空には隠す必要もなかったため素直にこたえたが、その瞬間、ナヒーダがいつもよりも慈愛に満ちた瞳でこちらをじっと見つめる。
「ふふ…全ての種子が樹になって、実を実らせるとは限らない。けれど私は、あなたが実を実らせることができるよう願っているわ」
やはり全部丸見えなのだ。一瞬どういうことか理解出来なかった空ではあるが、知恵の神からあなたは頭がいい、と言われてるためそれなりに回転は速いのだ。意味を理解した瞬間、空の頬や耳は真っ赤に染まった。それほどまでにバレバレなのか、と考えつつも、隣でニヤニヤとするパイモンやナヒーダをどうしようかと少しだけ悩んだ。
〜璃月にて〜
スメールから璃月へと移動してしばらくたち、空やパイモンは璃月で1番賑わっていると言っても過言では無い、璃月港に着いた。やはり璃月は契約の国であるからか、貿易などは七国で1番盛んなのだろう。そのため、璃月には多くのものが置いてある。
「なぁ、久しぶりに万民堂に行かないか?」
ぐうぅぅぅぅ、と大きなお腹の音を鳴らしたがらそう主張した相棒のために万民堂へと歩き出した。しばらくすると、スパイスや唐辛子などの懐かしさすら感じる匂いが空とパイモンの鼻腔をくすぐる。今まで疲れで忘れていた空腹が一気に空とパイモンを襲う。いや、パイモンは忘れてなどいなかったかもしれない。万民堂に着くと、懐かしい元気な声が空達に話しかける。
「あれ?2人とも久しぶり!」
「おぉ!香菱!」
「久しぶりだね」
最初にあったのは…そうそう、モンドの清水町だったか。元気いっぱいな新人料理人は、両手いっぱいに何かを持っているようだ。それに対して、不思議に思った空は香菱に尋ねた
「あれ?それは一体」
「あぁ、これ?…美味しいよ!」
なんとも怪しい返事が返ってきて、空とパイモンな怪訝な顔をする。何せ初めて出会った時彼女はスライムを調理しようとし、共に旅をした時には、敵に攻撃をされると食材が襲ってくる〜と言ってくるのだ。彼女はきっと、友人が死んだら調理してそなえてくるだろう。そんなことを考えていると、重厚感のある綺麗な声を響かせるものがいた
「おや、お前たちも来ていたのか」
「鍾離!こっちのセリフだ!」
「俺は少しマルコシアスに…」
どうやら旧友に会いに来た鍾離だったが、空の姿を目を捉え、少しだけ目元が緩んだ。彼にとって、空はかけがえのない存在なのだ。そんなことも気づかず、のほほんと想い人のことを考える空を見て、パイモンは大きな溜息をはく
「空、オイラ3Pも良いと思うぞ」
「二股じゃない、3Pだぞ」
「パイモン…?何言ってるんだ」
「ふむ、その手があったか」
空には分からない話題で盛り上がる2人をしり目に、香菱やグゥオパァーとぽやぽやしていると、後ろからパイモンのお腹の音が聞こえだした
「あぁ、そうだった…」
「じゃあ…香菱、水晶蝦ください」
「うん!ちょっとまってて!」
お腹を空かせた相棒のために料理を注文し、鍾離に大切なことの確認をする。
「鍾離先生、モラは…?」
「ふむ…モラが無い」
安定の6000歳おじいちゃんを決め込む鍾離に何処かほっとし、手持ちのモラを確認する。それから、どれほどならば注文しても良いか頭の中で計算し、パイモンと鍾離に事細かに伝える。
食事も済み、会計後、空は鍾離から声をかけられた。なんだろうと怪しく思いながら、まさか公子関係なのかと思いつつ、公子なら逃げようと思っていた。そして、鍾離に告げられた
「お前のことを好ましく思っている。付き合おう」
「え?」
空の顔が真っ赤に染まる。何度目なのかパイモンは数えるのを諦めた。だが、他に想い人の居る空には誘いを受け取ることが出来ない
「で、でも…俺好きな人が…」
「安心しろ、ゴニョゴニョ…」
ボンっと音を立てて、空はさらに赤くなる。リンゴよりも赤くなっているだろうとパイモンはぼんやりと考えながら、2人の話をニヤニヤと聞いている。
「…だったら良い…けど」
「モンドに行ってから…また3人で話そ?」
空からの提案に、鍾離は首を縦に振り、3人は万民道を後にした。そしてまた、モンドへと空とパイモン、そして鍾離は歩き出した
〜モンドにて〜
ようやっと空が目的とした地に着くことが出来た。懐かしさと嬉しさを全身で受け止めるかのごとく、大きく背伸びをする。そして、モンド城周辺へとまた足を進めるのだった。
「そういえば鍾離はウェンティと仲がいいのか?」
「……」
「しょ、鍾離先生…」
どうやら仲がいい、というより腐れ縁ならしく、渋い顔をしていた。そんな他愛もない話をしながら歩いて居ると、後ろからすごく、すごく嬉しい声が聞こえた。
「空」
「…!レザー!」
そう、この旅の目的は空の想い人…もとい、レザーに会うことだったのだ。最高の仲間であるパイモンにすら好きな理由は教えてくれないが、とにかく夢中らしい。
「…空、それ誰?」
「え?あぁ…鍾離先生っていって、璃月の人だよ」
「ふん…( ¯−¯ )」
空の視線が鍾離へと向き、そのとき頬が紅潮していたのを誰よりも早く気づいた。その事に気付いてから、レザーの心にズキズキとした痛みとモヤモヤとしたひっかかりが後を絶えなかった。
そしてレザーの誕生日である今日に至る。レザーの心に縛りつける痛みとモヤモヤは日を増す事に大きくなっていった。
「空、教えて欲しいことある」
「んぇ?なに?」
「…俺、お前見てるとドキドキ。でも、しょうりと居るお前見てるとズキズキする。」
「俺…病気か?」
「いやいや、それはないだろ!?」
久々のモンドではしゃいだのか、着いた時よりも少しモチっとしているパイモンが片手にモンド風焼き魚を持ちながら、そう大声を出した。レザーと空は突然のパイモンの大声に驚き目を一瞬見開くも、すぐにパイモンを問いただす
「え?じゃあどういうこと?」
「俺、知りたい」
「お前ら鈍感すぎじゃないか…?感情察知能力どこで落としてきたんだよ、」
「ズバリ、レザー!お前空が好きなんだよ!」
ビシッと得意げにそう言い放った相棒とは裏腹に、空の顔はタコよりもリンゴよりも真っ赤に染まった。今までで一番赤いだろう。そして時々え?…と聞こえてくる。一方レザーは、言われてようやっと気づいたのか、少し頬を赤く染めて空の手を固く握り締めた
「俺、おまえが好きだ」
「えぇ!?お、俺もだよ…」
予想外でしかない展開で空の頭はショート寸前であった。そして、このことが鍾離にも無事伝わり、なんやかんやで話し合いとなった。が、双方3人で付き合う()というのに別に嫌とは思っていないようで、めでたく2つのCPが成立したのであった。鍾空とレザ空で異論は認めない。第一、空が攻めはない。顔を真っ赤にしすぎなのだ。
この話はまだ続いているが、今読んでいる君たちにはこれを伝えれば充分であろう。最後に一言添えるのであれば、空はしばらく腹と首辺りに絆創膏が絶えなかったそうだ。
コメント
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すっっごい良かったです!!!!レザーも3Pで納得しちゃう鍾離先生も照れて顔真っ赤にしちゃう空くんも皆メッッッチャ可愛かったです!!!!パイモンもいい仕事してて面白かったです!