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ボスキ 懐かれる
ロボがハウレスに連れられて庭に出ると、トリコはロボのぬいぐるみを抱き上げて遊び始めた。
ベリアンはルカスの作った経口補水液を取りに行くついでに、軽い食事も持ってこようとトリコに声を掛けてから部屋を出ていった。
厨房に行くと、ロノとバスティンが夕飯の仕込みをしているところだった。
「こんにちは、ロノ君、バスティン君」
「こんにちは!ベリアンさん」
「こんにちは」
元気な挨拶を返したロノは、すぐに大きめのボトルを持ってきてベリアンに渡す。
「これ、ルカスさんが作った経口補水液です。
主様に飲ませるんですよね?
主様って、どんな方なんですか?」
「…熱中症、ですか?」
ロノは新しい主に興味津々なようだが、バスティンは新しい主への興味というよりは経口補水液の用途が気になっているらしい。
「主様は小さい女の子で、トリコ様といいます。
かなり特殊で過酷な環境で生活していらっしゃったので、水や食べ物が不足しがちだったようで…」
「そ、そうなんですか…。
じゃあ、ガッツリ食ってもらって、元気になってもらわないとですね!
…あ、でもまだガッツリ食べられない感じですかね?
今晩はお粥とかのほうが良いですか?」
「いや、ロノ…元気になるなら肉だ」
「それはお前だからだよ!」
2人のやり取りにクスクスと笑っていたベリアンだったが、とりあえず軽めの食事を持っていこうと思っていることを伝えた。
「分かりました!じゃあ、そこのパンと…こっちのスープ仕上げちゃうんで、持ってってください!」
「…パンは、20個くらいでいいか…?」
「そんなに食べられませんよ…。3つもあれば十分でしょう…」
「…足りるのか?」
「足りるだろ…。
ベリアンさん、これ、スープです」
「ありがとうございます」
お盆に軽食とボトルとグラスを載せて主の部屋に向かっていると、執事部屋から下りてきたボスキと鉢合わせた。
「ん?ベリアンさんか。
それは、主様に持って行く食事ですか?」
「はい、そうですよ」
「両手が塞がってたら不便だろ?俺が運びますよ」
「?そうですね?ありがとうございます」
珍しく積極的に仕事をするボスキを不思議に思いながらボスキを先導し、2人で主の部屋に入った。
主は暖炉の前の敷物に座って、ぬいぐるみで遊んでいるところだった。
「主様…トリコ様、少しでもいいので水分を摂りましょうね。食べられそうならお食事もありますよ」
ベリアンがトリコの前に膝をつき声を掛けるが、トリコは不思議そうにベリアンを見上げるだけだ。
ボスキはトリコの近くにお盆を置くとグラスに経口補水液を注ぎ、トリコの目の前に差し出した。
トリコは恐る恐るグラスに顔を近づけ、液体を舐め取ろうとする。
もしや、と思いグラスを傾けてやると素直にゴクゴクと飲み込んでいく。
「…なぁ、ベリアンさん…、主様は赤ん坊なのか?」
眉を寄せながらボスキはベリアンに問いかける。
普通の子どもなら、グラスを自分で持って水を飲むことくらい分かるはずだ。
「…もしかして、ロボットさんたちは食器が必要だということを知らなかったのでしょうか…」
「そんな事あるか?それなら、今までどうやって水飲んでたんだよ…」
そんな話をしている間に経口補水液を飲みきったトリコはニコッと微笑み、ボスキの右腕に向かって頭を押し付け始める。
「うわ、何だよ…冷たいだろ?やめろって…」
ボスキが困惑して右腕を引くと、トリコはショックを受けたらしく、暫くぽかんとした顔でボスキを見て、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「は!?な、何で泣くんだ!?
ちょっ、ベリアンさん、助けてください…」
一部始終を見て吹き出し、ボスキの背後で口を抑えて笑っているベリアンを恨めしそうに睨むと、ベリアンは笑いを堪えながらボスキの義手を指して言った。
「主様は、機械のロボットさんがずっとお世話をしていたそうなので、人間の手よりボスキ君の義手のほうが安心するのかもしれませんね。
ボスキ君、主様の頭を撫でてあげてください。右手でですよ?」
「は、はぁ…」
ボスキは泣き続けているトリコの頭にそーっと冷たい右手を乗せた。
力を入れすぎないように気をつけながら、小さな頭を撫でてやる。
ぎこちないものの、優しく頭を撫でるボスキの様子を温かく見守っていた。
暫く頭を撫でていると、トリコは落ち着いたようでボスキにニコリと笑顔を向けた。
「・・・主様、落ち着いたか?
あ~、えっと・・・腹、減ってねぇか?」
今まで主と、まして幼い女の子などと積極的に関わってこなかったボスキは、何故か純粋な好意を向けてくるトリコにどう接したら良いのか分からず、ありきたりな質問を口にした。
しかし、ベリアンの時と同様、不思議そうに見上げてくるだけのトリコに何と言ったら伝わるのかと考える。
「あ~っと・・・メシ、いや、ごはん?食べるか?」
トリコは「ごはん」に反応したので、多分お腹が空いていると判断し、試しにパンを渡してみる。
「ほら、ごはんだぞ」
しかし、トリコは受け取ろうとせず、口を開けている。
ボスキはまさか食べさせなくてはいけないのか、と振り返ってベリアンに目線で助けを求めるが、ベリアンは温かい目で見守る姿勢を崩そうとせず、笑顔で圧をかけてきた。
絶対に面白がっているベリアンに思いつく限りの暴言を心の中でぶつけ、いつか絶対に仕返ししてやろうと決意し、パンを小さく千切ってトリコの口に入れてやった。
初めてパンを口にしたトリコは、目を輝かせてその美味しさに感動しているようだった。
幸せそうにパンを噛み締め、ゆっくりと飲み込むと、ボスキの持っているパンに熱い視線を注ぐ。
ボスキがまた一口分千切ってやると、待てなかったらしく身を乗り出して、ボスキの指からパンを奪うように食べてしまった。
その後、親鳥が雛に餌をやるようにパンを食べさせ、スープもスプーンで一口ずつ飲ませた。
最後の1つになったパンを見せるとそっぽを向いたので、満足したのだろう。
腹が膨れて眠くなったらしく、大きなあくびをするトリコをベッドに運んでやり、遊んでいたぬいぐるみを枕元に置いた。
これからどうするべきか指示を仰ぐべくベリアンを振り返ると、ベリアンは手帳に何かを書き込んでいた。
「・・・ベリアンさん、今大丈夫ですか?」
ボスキが声を掛けると、ベリアンはすぐに顔を上げ、ボスキを手招きした。
「主様のことですよね?」
「はい」
「恐らく、今一番主様が心を開いているのはボスキ君です。なので、とりあえず担当執事になってもらえないでしょうか?」
「担当執事、ですか・・・」
「勿論、主様のお世話全部を任せるわけではありませんよ。
それに、主様には自分で食事をする方法をお教えする必要がありますから・・・」
遠い目をしながらベリアンが呟く。
ボスキも同意を示し、2人でため息を吐いていると、控えめなノックの音がした。
ドアを開けると、疲れた顔のハウレスと四角い何かが部屋に入ってきた。
「!?何だコレ・・・」
ロボに驚くボスキにハウレスが力なく説明する。
「主様のお世話をしている「ロボットさん」だ・・・。
こんなだが、ずっと探索と戦闘をしていただけあってかなり強いぞ・・・」
いたた・・・、と脛を擦っているハウレスに憐れみの目を向けつつ、ボスキは先程までの主の様子を聞かせた。
「・・・主様は、今までどうやって食事をしていたんだ?」
「そりゃ、ソイツが毎回口まで運んでやってたんだろ」
ベッドに乗り上げて、眠っているトリコの頭を撫でているロボを顎で指したボスキはそう吐き捨てる。
念の為ロボをこちらに呼び、ファクトリーAIを交えてトリコの今までの生活について聞き出すことにした。
結果、食事はもちろん、トイレやお風呂についても一から教える必要があるという事実に全員が頭を抱えることとなった。
「やっぱり主様、赤ん坊じゃねぇか!!」
「まさか、こんなことになるとは・・・」
「・・・頑張りましょう」
〈ピョン〉
[頑張りましょう!!]
「いや、お前らが甘やかしすぎたからこうなってんだよ!!」
はーっと大きなため息を吐いたボスキに同情の眼差しを向けるハウレスは、ふと小さな疑問を口に出した。
「そう言えば、どうして主様はボスキに懐いていたのでしょうか・・・」
[ボスキさんが優しい方だからでしょうか?]
「え、いや・・・、否定はしませんが、見た目からしたら怖いと思われがちなので」
[え?そうなんですか?
・・・ロボットさん、画像データをもらえますか?私の方でちょっと考えてみます]
〈ピピッ〉
[・・・ふむふむ、なるほど・・・
・・・ボスキさんはアンドロイドなんですね。ロボットさんしか近くに居なかったので、トリコちゃんは機械的な方が親しみやすかったのでしょうね。
あ、ボスキさん!良かったら顔と右腕の塗装直しませんか?
ちゃんとメンテナンスすれば怖くない見た目にできるかもしれませんよ]
「あんどろいど・・・塗装?」
「俺は人間だっつーの!
なんだよ、塗装って・・・」
[・・・え?ニンゲンなんですか?
私、てっきり皮膚パーツが剥がれちゃったアンドロイドだと・・・]
「違ぇよ!!腕は義手、顔のは仮面だ。
ほら、外れるだろ」
ボスキは仮面を外して見せ、何とか人間だと信じてもらった。
その後、扉の外から盗み聞きしていたアモンとフェネスは「アンドロイドとはどんなものだろう?」とロボとファクトリーAIに聞きに行ったらしい。