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サークルの新入生歓迎会の飲み会の会場の居酒屋のトイレでそんなことを思い出していた。
するとトイレの出口の壁から鹿島の顔がひょこっと出てきた。鹿島は僕を見つけるなり
「あれ、怜ちゃん。死んでるかうんこかと思ってた」
と言った。
「親友が死んでるかもって思ったら心配してすぐ来いや」
「死んでるかもって思ったの、席立ってトイレに来るまでの数メートルの間だから」
「親友不孝な子やで」
「親不孝みたいに言わないで」
小便器と洗面台で会話が交わされる。
「なにしてたの?」
「LIME返そうと思って」
「ご両親?」
「いや、匠」
「匠?」
「あぁ、えぇ~と。小野田。小野田匠」
「あぁ〜小野田くんね」
鹿島も一応小野田との面識はある。
しかし匠は早々に大学に来なくなったのであまり交流はなくお互いにあまり知らない。
「小野田くんなにしてんの?」
「あぁ、アニメ見たりマンガ読んでレビューをオレに送ってきてる」
「は?なにそれ」
と少し吹き出す鹿島。
「マンガ家目指してて資料としてアニメ見たり、マンガ読んで
描きたい方向決めたり勉強してるんだって」
「なるほどねぇ〜」
水の流れる音が聞こえ鹿島が洗面台に来る。
2つある洗面台の僕が腰かけてるほうではないほうの洗面器のレバーを上げ
水を出し手を洗う。
「そのレビューに対してどう返信するか悩んでたとこ」
「なるほどねぇ〜?」
手を洗い終え、鹿島もハンカチを持っていなかったのか辺りを見渡す。
「その紙」
そう教えてあげると
「おぉ!サンキュ」
と言い紙を2枚取り手を拭きゴミ箱へ放る。
「ねぇ?鹿島ー?」
「はい、なぁにぃ〜?」
「ギャルって部屋の中で水着になる?」
「は?なん急に」
「いや匠が、仮に水着だとしても部屋の中で水着を着て
恥ずかしがらないのは現実味が無さすぎるって言ってたから」
「あん?いや、1人で水着の試着するとかそういうんじゃなくて?」
「あぁ、違う違う。好きな男とかまぁ別に特段好きでもない男。
まぁあれな付き合ってない男の前でって感じかな?
あぁ、あともう1つ条件というか状況としてはその男の部屋で」
「は?なにその夢のようなエロい世界。オレの知らない世界だわ」
「てことはないってこと?」
「オレの生きてるこの世界ではないな。見たこともないし、聞いたことない」
「やっぱこいつの言う通り非現実的なのか」
「ギャルでしょ?うちの高校、割とギャルいたけどぉ〜…。
んん~…。そうだなぁ〜。あ!そうだ!怜ちゃんさ、ギャルってどーゆーイメージ?」
「どーゆーって難しいな。んん~…。テンション高くて
同じ言語で話してるのかってくらいギャル語で話してて意味通じない感じ」
「あぁ、まぁわかる」
そう言い苦笑いのような、なんとも言えない笑顔になる鹿島。鹿島が続けて
「んん~。たとえばさギャルと付き合うとか
それこそ合コンとかだとギャルってどういう立場というか、どんなイメージ?」
「オレあんまギャルってタイプじゃないからなぁ~…」
「うん。まぁわかってるけど、イメージでいうとどんな?」
「よく話で聞くとかだとワンナイ目当てで口説くとかそういうイメージかな。
まぁオレはやったことないけど」
「そう!世間ではそういうイメージだよね?いわゆる「ビッチ」ってやつ」
「うん。まぁ。申し訳ないけどそういうイメージかな」
「しかも簡単に付き合える」
「まぁ、5人くらいのうちの1人になれるイメージかな?」
「ギャル側に付き合ってる男何人かいてね?」
「そうそう。…あ、でも意外と一途ってイメージもあるかも」
「ほぉ?いいね。でも世間的には尻軽というか「簡単」なイメージじゃない?」
「まぁ言い方悪いけど「簡単にヤレる」みたいなね?」
「それ!それなのよ」
急にテンションが高くなったというか鹿島の声が大きくなった。
「ん?それ?」
「世間的にはそういうイメージじゃん?
「軽そう」とか「簡単にヤレそう」とかそういうね?でもね?
オレたちが生きてるこの世界のギャルは本当はガード、めっっっっっちゃ堅いから」
「めっちゃ」の部分を溜めて溜めて、これでもかというくらい強調して言う鹿島。
「え?そうなの?」
「ね?意外でしょ?」
「へぇ~、たしかにそれは意外だわ」
「実はそうなんだよ。だからさっきの小野田くんの話を聞く限り、まぁあり得ないね。
それこそ非現実的?ってーの?もちろん海とかプールとかでは水着になるだろうし
彼氏の前とか同性の友達同士でなら家の中、部屋で水着になるかもしれないけど
付き合ってもない、しかも男の前でしかもそいつの部屋で水着にはならないだろうね」
「そっか。そうなんだ」
「だって考えてみ?「水着」っつってもさ、言われなきゃ「下着」にしか見えなくない?」
「たしかにな」
「とりあえずオレの知る限りではないな。
小野田くんが言ってたように、それこそマジで非現実的。
彼氏彼女の関係でもないのに部屋で水着…まぁ下着になるってただの「ビッチ」よ。
そこにギャルだとかギャルじゃないとか関係ない。「清楚系ビッチ」ってのもいるし
さっき怜ちゃん言ってたけどギャルは基本的に一途だしね?
「ギャルだからビッチ」「清楚系だから一途」とかないよ?「ビッチ」はただビッチなだけ」
「はぁ~なるほどな?やっぱ鹿島の言葉は説得力あるわ。
うん。ありがと。鹿島の今の話も交えて、匠への返信考えるわ」
「ん。りょーかい。あ、でも、はやめに帰ってきなよ?妃馬さん心配してたぞ?」
「あ、マジ?悪いことしたな。すぐ帰るわ」
「ん」
そう言い鹿島はトイレを後にした。
さっきまで匠への返信のことで頭がいっぱいになっていたが
鹿島の言葉で妃馬さんの顔が思い浮かんだ。
さっきまで匠との思い出やらを思い出したりしてのんびりしていたが
頭を回転させ返事を考え、その文を即座に匠に送った。
スマホをポケットに入れ、楕円形の鏡で自分を見て確認する。
髪は崩れてないか?とか。特にセットしてないけど。
とぼけた顔になってないか?とか。元々とぼけた顔だけど。
そして軽く服を整えてトイレを出る。
自分の席を目指して歩いていると前から俊くんが歩いてきた。
「あ、暑ノ井先輩。大丈夫でした?」
「あぁ、ちょっとスマホいじってたら遅くなっただけだから。心配ありがとね」
「いえいえ。平気なら良かったです。じゃ、いってきます」
と俊くんは敬礼をした。
お酒は飲んでないはずなのに酔っ払ったように楽しそうな表情だった。
「いってらっしゃい」
僕も敬礼をしそう返すとまた自分の席を目指して歩く。座敷の前で靴を脱ぐと背中から
「大丈夫でした?」
と妃馬さんの声がした。座敷に上がりながら
「あ、ご心配おかけしまして。全然大丈夫です。
いや大丈夫っていうかトイレでスマホいじってたら
いつの間にかすごい時間経ってたってだけなので」
座敷に胡座をかく。
「そうなんですね。安心しました」
妃馬さんは少し安堵したように微笑む。その表情にドキッっとした。しかしそれと同時に
きっと妃馬さんは本当に気を遣える人で
人の気持ちにもなるべく寄り添おうとする優しい人で
ドキッっとしたけどきっとどんな人にもそうしてるんだ。僕だけ特別なわけじゃないんだ。
そう思った。よく考えたら当たり前のことだった。
そのとき僕が鹿島に言ったセリフを思い出した。
「「好き」ってそんな簡単じゃないから」
自分で言ってた。そう。そんな訳ないのだ。
出会って2時間くらいの男を恋愛的に好きになる訳ない。
逆もそうだ。出会って2時間くらいの女性を恋愛的に好きになるはずない。
そう冷静に現実的なことを考えたら、妃馬さんのことを見ても
妃馬さんと目が合っても鼓動は高まらないと思った。
今高鳴ってる鼓動も収まると思った。
でも現実は違った。胸が少し苦しくなるくらい鼓動は高鳴ったままだった。
自分の気持ちも自分の体のこともわからなくなり、視線が定まらなかった。
鼻で深呼吸をする。少し落ち着いた気がした。
「怜ちゃん怜ちゃん」
と右隣からテンションの上がった声を鹿島がかけてくる。
「なに?どうかした?」
すると鹿島は姫冬ちゃんを指指し
「姫冬ちゃんRPG興味出たって!」
姫冬ちゃんを見ると僕に向かって満面の笑みでコクリと頷いた。
「へぇ〜」
となんと言っていいかわからず、ただ納得していると
「え。リアクション薄ない?」
と鹿島に言われた。
「え、ごめん。なに?」
「いや、一緒にできるねって話よ」
「あぁあぁ!なるほどね!ごめんごめん。全然その考えしてなかった」
本当にハッっと気づいて割と大きめの声が漏れた。
「え、でもそうなると姫冬ちゃんゲーム買うことになるけど?」
と鹿島を見たあと姫冬ちゃんを見て、また鹿島を見る。
「さっき鹿島先輩の話聞いてたら
おもしろそうだなぁ〜って思ったんで、もしかしたら買ってみるかもです!」
と鹿島と僕を見ながら姫冬ちゃんが元気良く言う。
「あ、なに?鹿島とずっとゲームの話してたの?」
「はい!」
「鹿島とずっとゲームの話かぁ~…。ウザくなかった?」
そう言うと鹿島が空かさず
「誰がウザいねん!」
と入ってきた。
「いや、鹿島ゲームの話となるとゲーマーからの視点やらなんやらで
いろいろ周り見えなくなるから」
すると姫冬ちゃんが困ったような疑問を浮かべるような笑顔で
「いや全然ウザくなかったですよ!ゲーム愛がすごく伝わってきて」
僕は紅茶ハイを1口飲んで
「うん。ウザかったらしいです」
と鹿島の左肩に右手を置く。その手を振り解いて
「うるせぇよ!姫冬ちゃんはウザくないって言ってたじゃん」
「いや「ゲーム愛が」っていうのは遠回しなウザかったです宣言よ」
「え、マジで?」
と鹿島が姫冬ちゃんを見る。すると姫冬ちゃんは両手を胸の前に出し
「いやいやほんとに違くて!ゲーム愛がすごくて
私にもそのゲーム愛が伝わってゲームしたくなったんです!」
鹿島はこんな褒められてなに言うんだろうと鹿島のほうを見たら
余程嬉しいのか我慢はしているが我慢しきれず
口角がニヤつこうニヤつこうとピクピクしていた。
「なんでそんな喜んでんの?」
と60%の呆れと40%の純粋な疑問をぶつけた。
「え?だってオレきっかけでゲームしてくれる人が生まれたんだよ?
めっちゃ嬉しくない!?」
目をキラキラ輝かせる鹿島。酔っているのかそれとも嬉しさで酔いが覚めたのかわからないが
いつもよりテンション高く誰がどう見ても、繁華街でアンケートとっても
195対5くらいの差で「喜んで見える」と答えた人が圧勝するくらい喜んでいた。
「え?ゲームの概念作った人?」
と少し笑いながら言った。
「え?」
「いやその喜び様はゲームという概念を生み出した人か
自分の作ったゲームを目の前で買ってくれた人を見かけたときな感じだったよ?」
「あぁ〜たしかに嬉しいだろうなぁ〜。「自分がこのゲームに携われたんだ」とか
初めて自分の企画したゲームが通って実際に発売された喜びとか
まぁそれまでの努力ももちろんだけど喜びも計り知れないよなぁ〜」
本当にゲーム好きだなというのが改めて伝わる。
たまにこんなに好きなものがある鹿島を羨ましく思う。