テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
グリムナ
216
再開
104
御伽話の主人公に『恋』をしたわけじゃない
ただ、彼を忘れたくなかった。いつか会えると信じているだけだ。
秋。
自分たちの住む街が脅威に晒され、異なる世界線へ転移することになった。まるでSF映画のようだが事実だ。
侵略者(ピエロ)の猛攻に耐え、市長や科学者たちの尽力で自分たちは転移をした。
冬。
転移後、目が覚めた場所は新しい街だった。似ているようで建物などの様子が異なる。
幸い警察官として再雇用された。
ここでも犯罪は起きる。新しい街の新しい仕組み、今までと異なる車両で対応を進める。法も不完全なところがある。特殊車両に関する裁判もあった。
この街からの市民もいるが、未だ、消息のわからない市民も多い。
「警察官は皆、転送されましたか?」
「まだ転送されていない同僚もいるんですよね」
思い出す顔はあの街で家族となった同僚。
春。
受け入れ体制が整い、ようやく体験が開始した。数人の体験を受け入れ、数人採用した。
自分も古参と呼ばれるようになった。SWATの隊長であることに変わりはないが、中堅に当たる後輩たちが育ってきて業務をだいぶ任せられるようになり、少し仕事に余裕が出てきた。
まずは前の街でも開いていた明味房を再開するべく準備を始める。資金集めのためにバイトをした。
前の街では積極的に参加しなかったイベントにも参加した。
後は救急隊の体験に応募した。義理ではあるが娘のさぶ郎を悲しませることが多いイロハを監視するためという志望理由で冗談半分で応募したが、通ってしまった。
体験期間中はたくさんの人に驚かれた。警察を辞めるのかと言われたが、受かったらさぶ郎と同じようにダブルワークになるだろう。
期間の終わりぎわ、救急隊は実務の体験だけではなく簡単な面接もあるらしく、よつは先生に聞かれた。
「親密な関係の方に犯罪者の方とかはいらっしゃらない?例えば想いを寄せている人だとか」
「思いを寄せている人はぺいん君ぐらいなので。さぶ郎とか」
反射でこの街での家族の名前が出た。
意図としては公務員の採用に当たるので近しい関係者に黒側の人間がいるか聞きたかったのだろう。この辺りは救急隊は警察より厳しいと聞く。
体験が終わり、署に戻るといつもの出勤メンバーが迎え入れてくれた。流石に慣れない仕事で疲れたがあったので警察の業務はせず、そのまま就寝した。
眠るまでの束の間、まだ会えていない家族を思い出す。
もうすぐこの街に来て半年が経とうとしている。
夏。
雑談から家族のことを聞かれた。この街の家族ではなく実の家族のことだ。
そういえば前の街に弟が来ていたはずだ。メッセージを送っても既読無視されたが。この街に転送されているかどうかは分からない。
仕事でいえば以前からあった怪我やダウンをした犯罪者が、救急隊以外で治療されている件が表面化してきた。加えて白市民が黒の領域を覗いたため問題・事件になるケースが増えてきた。
闇医者の事件は後手に回り、市民に被害が出た。しかしながら闇医者の拠点への強制捜査を行い、証拠品から法整備が行われ、闇医者を明確に逮捕できるようになった。
他に一般市民の通報に関するトラブルがあった。
警察としては市民の通報はありがたい。だが、それで市民が犯罪者に目をつけられ事件になっては本末転倒だ。
なかなか署長と出勤が噛み合わない中、市民が被害を被らないよう当事者から話を聞く。警察としてはありえないが市民の安全重視で通報を控えてもらうよう説得する。
一つ解決すればまた別の事件が顕在化する。
闇医者や武器商人、クスリといったギャングではない黒側の組織が動き始めている中、今度はかの「無馬かな」がこの街にない植物の種を市民にばら撒いたらしい。
事件は一応収束したようだが、花に関する調査はこの先も続くようだった。
自分はこの期間、出張が多く、事件に深く関わったり署員の話をなかなか聞くことができなかった。市民からの警察の見え方、ぱちお君の退職。警察としての考え方の相違。表面化している事実以外に感情面で色々あった。
思い出すのは前の街での市民とギャングのトラブル、プロジェクトシリーズから始まった新薬事件と警察内の一部署員の不安、無馬かなのALLIN脱退と個人情報保護プログラム。同期と一緒にこれらの対応をしてきた。
─── こんな時、君ならどうしたのだろう。
空を見上げるが、風ひとつない空に、雲だけが重く淀んでいた。
そして、秋を経てもうすぐ冬を迎える。
冬が来るということはこの街に来て1年になる。
いつもの仕事と新しい体験の受け入れ、出張、明味房の準備をくりかえす。
空を見上げるが、今年は秋晴れが少なく、冬が近いせいか空は薄暗くどんよりとしている。
今日も風は吹いていない。
忘却は死を表す。
いつ家族が転送されてきても良いように受け入れられる準備だけはしよう。
いつでも起きたい時に起きられるように。彼にとって温かく、居心地の良い場所であり続けられるように。
コメント
1件
ふわ〜…読み終わったあと、なんか胸の奥がぎゅってなったよ…🥺💦 季節が巡って移り変わっていくのに、ぺいん君の「まだ会えてない家族への想い」だけは変わらずにそこにあって、それがもう切なすぎるんだよね…「忘却は死を表す」っていうフレーズとか、ずっと心に刺さったまま取れないよ…😭 新しい街で仕事を続けて、明味房の準備もして、それでも「いつか会える」って信じている強さが本当に尊い…! 空を見上げて「君ならどうしたのだろう」って考えるシーン、グッときたな…私も推しに会えなくなったらこんな気持ちになるんだろうなって共感しちゃった…次の話も絶対読みたい!!🌸✨