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VI 再会
knside
______
入学式の日の朝、
信号無視をした軽乗用車に轢かれたという。
______
???「…kn、…お誕生日おめでとう。」
______
あの日死んだ君が、
何故此処にいるのだろう。
_2024年7月9日。
愛おしい彼の笑顔が、半透明の笑顔が、
こちらを見下ろしていた。
kn「nk…お前…ッなんで…」
nk「w、俺もびっくりしてるよ」
「まさかまたこの世界に来れただなんて。」
水色の、澄んだ空みたいな瞳を揺らして
彼は告げる。
この世界、俺がいる世界に
来れたということは、
死んでから、あの日から何処か
別の世界で過ごしていたんだろうか。
でも姿はきっとあの日の儘で。
「まだ成長期だから」と着せられたであろう
彼には少し大きい服、
光沢のあるローファーと、学ランのボタン。
高校1年生を象徴する色をした名札。
俺が見ることのできなかった、
高校生の彼。
彼を失ってまで生きる意味を
見つけられないまま、
俺はもう、高3になっちまったよ、
ずっと狂ったように
毎日を過ごしていた俺には、
進学も就職も、何の未来もない。
ごめんな、nk。
お前に可能性なんていくらでもあった。
その可能性を、
俺の無力さで踏みにじったんだ。
中学受験だって、高校受験だって。
お前は受かって、俺は落ちて。
最終的に
誰でも受かるような所へ進学した。
こんな俺に着いてくるお前も大概だよな、
こんな馬鹿と一緒に過ごしていて
楽しい訳が無いのに。
ごめん、
kn「ごめん…っ」
nk「なんでknがごめんなんて言うんだよw」
「謝りたいのは俺のほう。」
「あの日は死んでごめんな。kn。」
涙が溢れ出した。
2時間目のチャイムが鳴り響いた後だった。
kn「これからは…一緒なのっ…?」
nk「ま〜俺も未練タラタラだしな、
全部晴らすまで帰んねぇよ」
kn「…そっか、」
俺は、
久しぶりに授業に出てやろうと思った。
ほんのちょっとの心変わりだけど。
______
ガラガラと、教室の扉を開ける。
周りからの視線。
いたくて、いたくて仕方がない。
でも今日は、彼も一緒。
nk「こんな感じなんだね〜、教室」
かといって公の場ではあるから、
彼への返事はできない。
声に出せない。
今はただ彼の独り言に、耳をすませるだけ。
ぼーっとただ席に座る。
ロッカーから取ってきたノートを開けば、
過去の自分が書いた文字。
何も分からないけれど、
何も理解できないけれど。
俺も真っ当な人生を歩んでいたら、
こんな問題も解けたんだろうなって
ただ昔の自分に憎しみが募る。
ノートにシャーペンを走らせる。
長い間、書こうともしなかった文字。
この教室で、この席に座って、
頬杖をついて日本語を形にする。
『[nk]、おかえり』
nk「…!!、w…ただいま!w」
それに気づいた彼は、
俺を包み込んでそう告げる。
温かいような、そんな気がした。
______
2時限目が終わった。
俺はもう手遅れなんだと察した。
追いつくことの無い学力
取り返せる筈のない過去
だから、また屋上へ逃げることにした。
屋上へと続く廊下。
窓の外に映る青空。
この光景も、何度見ただろう。
階段、踊り場、扉の前。
よく見る光景だった。
俺の日常を支えた、唯一の居場所だった。
扉を開ける。
どこまでも続く、無垢な空色。
眩しい日差し。
隣の彼の髪が、
そよ風に揺れていた。