コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
死のう。
家族構成は三人兄弟と父と母。
智勇兼備の上二人。偏差値の高い高校、大学を卒業し、医療関係の仕事で出会った父と母。
DNAが優秀なのは当然で、それが子供に受け継ぐのは自然の摂理だろう。
それなのに俺のスペックは全て平均以下どころか最下層の存在として生まれてしまった。
三兄弟の一番下。
尚且つ出来損ないであった俺に、両親は関心を示してくれなかった。
殴る蹴るは当たり前。
口を開けば罵詈雑言。
家族団欒の食事会では、いつもいない者として扱われた。
一番上は顔も良く、成績優秀。顔も大優勝で、文武両道。最近、モデルにスカウトされたらしい。今は医師の勉強も続けている。
二番目はスポーツ万能、明るく周りにはいつも沢山の仲間がいる。スポーツ推薦は当たり前。
強豪の大学に進学し、日々野球に入り込んでいる。
未来が確実に保証されている二人と比べて、
俺は顔もそこそこ、成績は最底辺で、スポーツではいつもドベ。
何か運ぼうとしたら盛大にぶち撒け、料理をしようとしたまる焦げにしてしまう。
幼い時から英才教育を受け、その知識と技能をぐんぐん吸収していった上二人と比べ、俺は何をやらせても才能が開花することはなかった。
何とかついて行こうと努力した頃もあったが、最近では期待もしなくなった。
そんな俺に、両親はいつも怒鳴り散らかしていた。
……いや、怒鳴るというよりも、淡々と事実を述べられているだけなのかもしれない。
「どうしてあんたは生きてんの?」
「どうして出来ないんだ。」
「こんなことなら、産まなきゃよかった。」
一番知ってる。一番自覚している事を改めて認識されなれる日々だった。
俺を責める声は、いつしか日常に変わり、遂には親友にさえ拒絶された。
「お前、なんでいっつも付いてくんだよ。
うざすぎるって。一軍の奴らもみんなお前の愚痴言ってんぞ?どんだけ嫌われてんだよw
てか俺もお前の兄貴達に近寄りたかっただけだし、もう役目終わったから もう話しかけてこなくていいぞ。てか話かけんな。せっかく先輩と仲良くなれると思ったのに兄弟仲あんま仲良く無いとかマジつまんねー。
役立たずかよ。この出来損ない。」
あの日、緊張だらけの初登校の時。
一人孤立していた俺に話しかけてくれた友達は、俺を絶縁した。用済みだと。
親友と思っていたのは、俺だけだった。
兄弟を味方につけたら、必然的にスクールカーストは上位になる。
それくらいのスペックが、兄達にはある。
要するに俺は、踏み台にされたのだ。
そりゃそうか。何の取り柄もない俺と仲良くするなんて、それしかないよな。
心の奥底で、きっと気づいていたんだ。
ずっと、違和感があったんだ。
だが、それを見て見ぬふりをしていた。
現実逃避というのは、あまりにも哀しい時、
あまりにも悲痛な時にする行動だ。
自分自身の非を認めたくない時にする、惨めな行動。
わかっていたが、認めたくなかった。
諦めたくなかったんだ。
これを現実逃避と言わずして何というだろう。
だが、俺は一筋の希望に賭けて震える声で彼に尋ねた。
「なぁ、嘘だろ?ドッキリかなんかなんだろ?俺ら、親友じゃん。俺、お前がいたから学校来れたんだぜ?いじめられても、貶されても。
….お前がいたからっ、!」
「あー、そう言うのきもいって。
マジやめて。お前を親友だと思った事一回もないから。てかマジどっかいけ。うざいんだよ」
この時の感情を、なんと表せばいいのだろう。
涙 は出なかった。
ただ、死にたくなった。
唯一の心の支えが、粉々に砕け散った。
悔しいとも思もわなかった。
ただ、悲しかった。
コイツは、表の顔では親友を装い、裏では俺を罵っていた。自分が、一軍に入る為に。
自分がスクールカーストで一番になる為に。
俺は、単なる駒でしかなかった。
簡単に人は裏切るのだと。簡単に人は嘘をつけるのだと。知らなくてもいい事、知りたくなかった事を知ってしまった。
この日から、俺は人を信じることが出来なくなってしまった。
大学受験に失敗した事をきっかけに、両親は俺を勘当した。
必要性を感じなかったらしい。
取捨選択をできる両親にとって、俺は捨てられる方で、兄達はとられる方。
最初から運命は決まっていたのだ。
俺が両親の期待を裏切ってしまったのがいけないのだ。俺が出来損ないなのが悪いのだ。
18まで育ててくれただけ、感謝しなければ。
毎日毎日、自己嫌悪させられる日々。
毎日毎日、死にたいと思う日々。
生きたいと思った日なんて、一度もなかった。
ある時は頬を叩かれた。
ある時は兄達に掴まれ袋叩きにあった。
ある時は、深夜、しかも真冬のマイナス気温の中、家から追い出され放置された。
立派な虐待だ。
しかし、人との交流も得意ではなかった俺にとって、自分の家庭を話す機会などなかった為、この日常が当たり前なのだと思っていた。
自分が、いないのが。いらないのが普通なのだと。自分に価値のないことが普通なのだと。
そう、思っていた。
両親から勘当され、親友からは絶縁され、獣医になるために受けた偏差値の高い大学は落ち、
俺は夢を打ち砕かれた。
人生に意味がないと思うには、必然だったと思う。
最も、「出来損ない」の俺が、生きていて何の意味になるのかわからなかったというのもあった。出来損ないのレッテルを貼られて生きていくというのは、容易なことではない。
人の顔色を常に伺い、元々メンタルが弱かった俺にとって、死ぬということが、自身の救済であるという考えに至ったのは時間がかかった。
何故なら死ぬ事は周りに迷惑がかかるからだ。
周りに迷惑をかけたくない。かけられない。
哀れにも、自身を犠牲にして社会を生き残るしか、俺に道はなかったのだ。
だから、中々死ぬという選択肢を選べなかった
でも、これで終わる。ようやく終わる。
出来損ないの人生が、惨めに泥水を啜って生きてきた人生が、今。
新たに生まれ変わる。
今の俺は、希望に満ちていた。
死こそが、俺にとっての最大の救済であり、希望の光なのだと。
「町を照らす光の様に、そして美しく誇り高い瑠璃の輝きの様に自分の人生を生きて欲しい」
そう願って名付けられた光瑠という名前は、今や霞んでしまった。
真逆の人生。価値のない人生。
….結局、自分が生まれてきた意味を、存在意義を知らないまま、死ぬことになってしまった。自身を名付けてくれた時、親はどんな期待をしていたのだろう。兄二人と同じ様に、優秀な息子を想像していたのだろう。
失望するのなら、いらないと願うのなら、
….初めから産まないで欲しかった。
素直に、死なせて欲しかった。
『親より先に死ぬ奴が、最大の親不孝者』
などというが、実際、子供が死ぬことが、最高の親孝行という家庭もある。
何とも残酷で、惨めな人生だっただろう。
おそらく、俺の死体を、棺桶の中の俺の顔を見たところで、両親や兄弟は何も思わない。
ただ迷惑をかけるなと、一言呟くだけだ。
自身が必要とされていないのだと、自身よりも優秀な存在があるのに、何においても劣っている愚弟を家に置いておく必要などないのだろうと、自分の価値を想像するだけで涙がポロポロと零れ落ちた。
一つ、また一つと。
次第に涙は、線を描く様に繋がり、湿った苔の中に沈んでいった。
フラフラと安定しない足取りで辿り着いたその場所は、真夜中の誰も使っていない古びた公園だった。
錆びていて表面が剥がれ落ちている雲梯の柱や、ギィギィと、風に揺られ不吉な音を奏でているブランコも。
今となっては自由の象徴の様に感じた。
誰も使っていないということは、今ここには俺しかいない。俺だけの世界だ。
誰にも邪魔されることのない、俺だけの。
それだけで、心地よかった。
死にたいと言ったとしても、死ぬ方法がわからないのならば死ねやしない。
人生に幕を閉じてしまいたい。
この無意味な生に、早く終止符を打ってしまいたい。
そんなことを考えていたはずなのに、態々公園という、比較的人が通りやすい場所を死場所に選んだのは、きっと、心の奥底で、誰かに見てもらいたい、見つけてもらいたいという欲望があったからだろう。
何とも強欲で、意地汚い性格だ。
自分自身に呆れながらも、死ぬ方法をスマホで検索しようとした。
一酸化炭素中毒、首吊り自殺、飛び降り自殺、
手首を切るや舌を噛みちぎる等、現実的なものから非現実的なものまで、インターネットの世界では情報が飛び交っていた。
……一番手軽なのは、首吊りかな。
一番印象に残り、一番自殺っぽいやつ。
そんな適当な理由で、俺は首吊り自殺を選んだ
どうせ死ぬのだ。適当な自殺方法でいいだろう
木にもたれながら、スマホで調べていたこともあってか、随分と背中が痛くなってしまった。
ズキズキと、筋肉痛にも似た痛みが背中に襲いかかってくる。
少しの後悔と共に、俺はその場から離れようとした。
刹那
風が、頬を通り過ぎた。
ヒュウッと音を立てて俺の髪を巻き上げ、心にすら、爽やかながらも心地いい風が通り抜けて行く。
絶望と後悔で埋まった心が、次々と浄化されていくのを感じた。
その風に、運命の様なものを感じた。
必然の様な、偶然の様な。
複雑な感情と、好奇心に負け、俺は後ろを振り向く。
風が追い風となり、己の髪が惹きつけられ、網状脈の葉と共に土埃が舞い上がる。
一筋の涙が、頬を濡らした。
あまりに美しくて。
あまりにも、凛々しくて。
あまりにも。
言葉に出来ないほどの美貌が、その他一帯を支配している。
彼女が動くだけで風は色付き、公園を照らす。弱々しい月の光は、天女を照らす光の様に神々しくなる。
存在しているだけで、価値のある人間。
存在しているだけで、周りを癒し、人生に生きる意味を与える、望まれた命。
それが、彼女の第一印象。
彼女の名は「ルーナ」
「ルーナ・マーガレット」と言った。
彼女と出会った事が、俺の人生最大の分岐点だったと言えるだろう。
そして、確信した。確信せざるおえなかった。
俺は、俺という存在は、
今この瞬間に生まれたのだと。
この瞬間のためだけに生まれたのだと。
そう確信するには、十分すぎる存在だった。