テラーノベル
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これは私の気持ち
雨の音が、少し苦手だった。
静かな教室に響く雨は、周りの笑い声を遠くにしてしまうから。
その子は、窓際で頬杖をつきながら、ぼんやり外を見ていた。
周りに馴染めないわけじゃない。
話しかけられれば笑うし、必要ならちゃんと返す。
でも、自分から輪の中心に入っていくのは、どうしても苦手だった。
誰かみたいに明るくなれたら。
誰かみたいに優しくできたら。
そう思う日が、何度もあった。
けれど、その子は知っていた。
「簡単に誰かを越えちゃいけない」
そんな変な感覚を、ずっと持っていた。
努力している人を見ると、胸が痛くなる。
誰かの積み重ねを、自分の才能で踏み越えるのが怖かった。
だから、無意識にブレーキを踏む。
本当はできるのに。
本当はもっと前に行けるのに。
どこかで、自分を止めてしまう。
バレー部でもそうだった。
ネット際のボールを、誰よりも先に反応して拾える。
ギリギリの球に手を伸ばす執念がある。
けれど、時々ブレる。
「高さを高めに」
「もっとネット近く」
そんな言葉を受けながら、
その子は何度も、自分の感覚と戦っていた。
友達との関係も、不器用だった。
静かな自分。
元気な誰か。
真面目な誰か。
三人で並ぶと、時々、自分だけ透明になった気がした。
空気を壊したくなくて、
でも苦しくて、
つい強い言葉を返してしまって、
後から一人で後悔する。
「なんでうまくできないんだろう」
夜になると、そんなことばかり考えた。
でも――
その子には、誰にも真似できないものがあった。
痛みに気づけること。
笑っている人の奥にある寂しさを、
少しだけ察してしまうこと。
だから、人に優しくしたいと思った。
できない自分に苦しむくらいには、本気で。
誰かに認められたいわけじゃない。
ただ、
「ちゃんと大切にしたかった」。
それだけだった。
ある日、その子は気づく。
人は、完成した人間に救われるんじゃない。
迷いながら、
傷つきながら、
それでも誰かを理解しようとする人に、
救われるのだと。
だから、その子の人生は、
派手な英雄譚にはならない。
世界を変えるわけでも、
誰より強くなるわけでもない。
でも。
雨の日に隣へ座ってくれる人とか、
空気が悪くなったあと、ちゃんと戻そうとするところとか、
猫の柔らかい表情を何度も気にするところとか、
好きな人を好きなまま、大事に抱えてしまうところとか。
そういう小さな優しさで、
確かに誰かを救っていく。
まだ途中の人生。
名前のついていない感情ばかりで、
自分でも自分がよくわからない日もある。
それでも、その子は今日も前を向く。
少し不器用に。
少し静かに。
でも確かに、
誰かより深く、人を想いながら。
チャッピーに書いてもらいました。
コメント
1件
温かいお話をありがとうございます。主人公の「簡単に誰かを越えちゃいけない」という感覚、すごくわかりました。努力している人の積み重ねを踏み越える怖さ——自分もどこかで同じようにブレーキをかけたことがあるので胸が詰まりました。それでも「ちゃんと大切にしたかった」と思えるその優しさが、とても尊いと思います。雨の日に隣に座ってくれる人、猫の柔らかい表情を気にする人……こういう小さな優しさで確かに誰かを救っている描写が沁みました。「まだ途中の人生」という言葉も、とても好きです🤍
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