「空閑くん。」
「む?」
「はじめまして。わたくしは霧立麗華と申します。」
「どうも、はじめまして。空閑遊真です。」
「早速で悪いのですが、ランク戦をお願いしても?先客がいるのであれば、後回しにしてください。」
「大丈夫だぞ。何本勝負だ?」
「では、5本先取でいきましょう。空閑くんと相手したい方もいますでしょうし、手短に。」
「わかった。」
「ありがとうございます。」
ランク戦終了
「対戦ありがとうございました。」
「いえいえ。けど、一本も取れないなんて…霧立さんはA級なのか?」
「?いいえ。B級ですよ。空閑くんが私を強く感じるのは、長いことボーダーにいるからではないでしょうか?太刀川さんや風間さんは実力のある隊員でしょう?初期からいる人は、B級でも強いと感じるものですよ。」
「ふむ。」
「しかし、」
「?」
「最近入った方でも、入隊後数日でA級にスカウトされた方や、隊を組んで上位にある方もいますし、才能に恵まれた方が多いですよね。」
「そうだな。緑川とか、木虎とか。」
「えぇ、A級にスカウトなんて余程の実力の持ち主なのでしょう。なので、少々羨ましいですね…ああいう方達を見てると努力とは何かわからなくなります…」
「?」
「いいえ、何にも。失礼しました。」
「またやろうな!」
「…ぜひ。」
廊下
残念だが、これを君に託すわけにはいかない。もっと腕を磨いてから立候補しろ。
申し訳ないが、まだ、君にはこれを託すわけにはいかないんだ。
これはA級の適合者に託そうと思う。
それを決めるのは遠征部隊が帰ってくる再来月だ。
「なんで…努力してるのに…私は…”あいつら”に…”あんなこと”言われなくちゃいけないの…頑張っても頑張っても…報われない…ずっと…言われ続けるんだ…____…って…もう嫌だよ…」
「……」
「菊地原?どうしたんだ?」
「別に。歌川には関係ないでしょ。」
「なんでお前はそういう言い方をするんだ。」
ランク戦ブース
「遊真先輩!よねやん先輩!ランク戦しよ!」
「緑川か、いいぞ。」
「先、空閑と俺な。予約してたし。」
「予約なら仕方ないよね、」
「そういえばさっき霧立さんって人と戦ったんだけど、一本も取れなかったんだよな。」
「え、霧立?」
「遊真先輩、霧立先輩に勝てなかったの?」
「うむ。」
「霧立って強いイメージねぇよな。その辺にいるやつに負けてるし…俺らにも勝ってなかったよな。」
「俺が勝てない遊真先輩に勝てるのかなぁ、霧立先輩。」
「何本勝負でやったんだ?」
「五本先取。」
「五本先取か…」
「てか、霧立先輩ってスナイパーだよね?」
「そうだけど、あいつは弧月使いでもあるんだ。腕は…そうだな…」
「俺と戦ってたときはA級かB級上位ぐらいだろうなとは思ったな。」
「そんなにか?」
「俺は普通にB級中位ぐらいだと思ったけど。マスターランクもいってないみたいだし。」
「ふむ、何か事情がありそうですな。」
「まぁまぁ、そんなこと気にしてたって、しょうがないって!ほら、さっさとやろうぜ!」
屋上
「……」
ガチャッ
「あ、いた。霧立ちゃん。」
「迅さん。」
「こんなところで何してたの?」
「…迅さんこそ、なぜこんなところに?」
「質問を質問で返さないでよー。まあ、答えるけど。」
「答えてくれんですね…」
「菊地原が君のこと探してたよ、ってこと言いに来ただけ。」
「菊地原君が…私を…?」
「ラウンジ行ってきなよ。多分まだ居るよ?」
「わかりました。ありがとうございます。」
「……ねえ、霧立ちゃん。」
「?はい、なんでしょうか?」
「辛かったら、いつでも言ってね。約束でしょ?」
「はい、ありがとうございます。ラウンジに行ってきますね。」
「あ、いた。」
「菊地原君、何か用事?」
「……」
「…えーと…?」
「風間隊来る?」
「え!?」
「うるさいんだけど。」
「あ、すみません。えと、わたくしが風間隊に入ることを勧めているという意図でよろしいですか?」
「そう。嫌だったら、別にいいけど。」
「嫌ではないですけど、わたくしみたいな人が入ってもいいのでしょうか?」
「それは知らないよ。」
「えぇー…」
「けど、入らないにしても、遊びには来てもいいんじゃない?三上さんだって霧立さんと話したがってるし。」
「…なら定期的にお邪魔しますね。」
「来るときは言ってよね。」
「わかりました。」
「あと」
「はい?」
「なにかに苦しんでるなら、相談してよ。そういう約束だったじゃん。」
「!」
「それじゃ。」
「あ、あの!菊地原君!」
「何?」
「ありがとう。」
「…別に。」
「あ、霧立さん。」
「空閑くん…と米屋先輩、緑川くん。こんにちは。」
「なあ、霧立さんは強いのか?」
「強い…と聞かれても何も返す言葉がないのですが…強いて言えば弱いと思います。」
「?嘘はついていない…けど俺は強いと思うぞ?」
「人それぞれ価値観が違うので、空閑くんには強く映っているのでしょうね。価値観の相違です。」
「価値観の相違…難しいな。」
「まぁ、感じ方は人それぞれということですよ。」
「ふむ。」
「ねえ、霧立先輩。」
「なんでしょうか。」
「一試合やろうよ。」
「え。」
「だって遊真先輩に勝ったんでしょ?」
「確かに、空閑くんには勝ちましたが。」
「じゃあさ俺にも勝てるはずなんだよ!遊真先輩に勝てない俺に負けるはずなくない?」
「……誘っていただけるのはとても嬉しいのですが、お断りさせていただきます。この後、予定がありまして。」
「えー。ならいつできる?」
「わかりません。あいにく予定が立て込んでおりまして。」
「……」
「なら仕方ないね。」
「すみません。」
「いいよ、別に。じゃあね。」
「はい、失礼します。」
「……もう来月には黒トリガーは私の手元には戻ってこない…そう考えると時間が少ない…ここにいても…一生取り返せるわけないんだし……」
「おいお前。」
「あ、すみません…って影浦先輩…」
「…お前、今なに考えてた。」
「…黒トリガーを奪い返して逃げようかな…と」
「黒トリガーつうのはあれのことか。」
「はい。」
「…もし、お前がその強行手段に手を出すなら手を貸してやるよ。」
「え?」
「いいだろ。手を貸してやるつってんだ。」
「…でも、もし手を貸したことがバレたら影浦先輩は…」
「俺は別にいいんだ。いつやるんだ?”他のやつ”にも言っておくぞ。」
「……今月中に作戦立てて、来月の1日には実行しようかと…」
「なるほどな。明日にでも集まるか。いつものとこでな。」
「!はい。」
次の日
「で?どうしたんだ?」
「みなさん、集まっていただきありがとうございます。えーと、まず簡単に、集めさせていただいた理由をお話ししますね。」
いつものところ。そこは、仮眠室だ。ロックさえかけてしまえば誰にも内緒話は聞こえない。いつものメンバー。影浦先輩、菊地原くん、迅さん、小南先輩、荒船先輩、時枝くん、と巻き添えを食らった北添先輩だ。ここにいる人たちは私の過去を知っていてなにかと手を貸してくれるグループ?みたいなのを組んでいる。普段は全く関わりのないメンバーが私の話で一致団結しているのはなんとも不思議な感じだ。
「私が黒トリガーを持っていた。しかし、それは上層部の城戸司令により強奪された、という話は承知かと思います。」
「そうだね。」
「その奪われた黒トリガーを奪い返して、私はボーダーから出ていく…これの作戦を立てるというのが今回集めさせていただいた理由です。しかし、この行動は上層部に歯向かう…上層部に喧嘩を売るということです。もし、この作戦に参加したら、上層部からのみなさんの評価が落ちてしまいます。特に、風間隊所属の菊地原くんと、ボーダーの顔とも呼ばれている嵐山隊所属の時枝くんはこの作戦についてよく考えて、参加するか、しないかを決めてほしいです。無論、他のみなさんもです。この作戦に参加するのは強制ではありません。なので、何度も言いますが、よく考えて選択してください。」
「…俺は参加するからな。」
「カゲが参加するならぞえさんも参加しようかな。落ちても、また上がればいいしね。」
「私も、参加するわ。麗華が助けを求めるなら、参加しないわけがないでしょ。」
「俺も参加しよう。霧立が助けを求めたら、助けると決めたのは俺だからな。」
「俺も、今回は参加しようかな。その方がいい未来になる。」
「……僕も参加するよ。」
「え?本当にいいんですか?」
「うん。今までちゃんと寄り添えていなかったから。今回だけは参加したいんだ。出ていくってことはもう、ボーダーで会うことはないんだよね?だったら、参加すべきだと僕は思うよ。」「………」
「…菊地原くん、無理しないでくださいね。名誉が大切なら、全然そちらを優先してください。」
「は?僕も参加するけど。」
「え?なんで…?」
「理由なんている?僕が助けを求められたなら助けるべきだと思ったから参加するんだけど。」
「菊地原、それ立派な理由だよ。」
「うるさい。で?全員参加でいいんでしょ?さっさと作戦会議しようよ。」
「そうですね。では、第一回、作戦会議を始めます。」
「今日はとりあえずこんなものでしょうか。」
「そうだね、このぐらいにしておいたほうがいいかも。長く仮眠室に大勢で籠ってたら怪しまれるしね。」
「だったら、このLINEグループつくる?みんな、LINEやってるのよね?」
「おそらく。では、グループ作りましょうか。」
「………よし。」
「全員入りましたか?」
「嗚呼。」
「では、作戦会議以外の会話は主にLINEを通して行いましょう。作戦を実行するに当たってこのメンバーで集まっていると、実行中に先手を読まれてしまうかもしれません。なるべく、リスクは減らしておきたいので。」
「そうだね。でも、逆に今まで仲良くしていた面子とあまり会話しなくなったらそっちも怪しまれるかもしれないから、普段通りに過ごせばいいと思うな。」
「そうですね。では、全員で集まるときは作戦会議のみ、それ以外はLINEグループで行う、普段通りに過ごす、ということでよろしいですか?」
「異論ないな。」
「私も賛成よ。」
「ぞえさんも賛成だよ。」
「俺も賛成だ。」
「俺も賛成だよ。」
「まあ、それでいいんじゃない?」
「では、これで決定で…作戦実行まで慎重にいきましょう。解散。」
と、言うとみんなは次々に仮眠室から出ていく。しかし、菊地原くんだけが残った。
「ねぇ。」
「はい?」
「出ていくといっても、どこに行くの。行く宛なんてあるの?」
「知り合いに昨日、この事を話したらその知り合いの家に居候という形でお世話になるということか決まりました。」
「その知り合いの家ってどこにあるの?」
「隣町です。なので、その気になればいつでも帰ってこれますよ。追っ手がくるか少々不安ですが、それ以外行く宛がないので…名前も変えて知り合いの名字をかりて過ごすかもしれません。」
「別人になるんだ。」
「そういうことですね。しかし、霧立麗華であることは変わりないので。私は私です。」
「ふーん。まぁ、作戦成功しなくちゃ、許さないからね。」
「もちろんです。皆さんのリスクを背負っていますので。失敗は許されない、その覚悟で挑むつもりです。」
「そ。」
素っ気ない返事をして菊地原くんはそのまま仮眠室から出ていった。
「…待っててね…兄さん…絶対に取り戻すから…」
次の日
「菊地原ー、B組の女子がお前のこと呼んでるぞー」
「……」
「あ、菊地原くん。今日の生徒会の雑用終わりに、風間隊にお邪魔してもいいでしょうか?」
「別にいいけど。」
「霧立がくるのか?珍しいな。」
「そうでしょうか?まあ、部隊のお部屋にお邪魔することがあまりないので珍しいかもしれませんが…」
「なんか、霧立は仮眠室にいるイメージがあるな。」
「仮眠室?確かによく利用しますが…いつもいるというわけではありませんよ。」
「寝不足なのか?」
「寝不足…ある意味寝不足なのかもしれませんね。」
「何時頃来るの?」
「どんなに遅くても17:30までには解散という話になっているので、18:00までには伺えるかと。」
「わかった。三上さんにも伝えておくね。」
「お願いします。では、失礼します。」
「……菊地原って、あの子と仲いいの?」
「まあ、それなりに。」
「なあ、よかったらさ、」
「無理」「まだ何も言ってないんだけど…」
「どうせ仲いいから接点作ってくれっていうんでしょ、そんなの嫌だからね。仲良くなりたいなら自分からいけば?」