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ー 全て違うわけじゃない ー
2LKの小さなアパートの一部屋。
そこであやねは母とふたりで暮らしていた。
「ただいま…。」
真っ暗の部屋にカチッと電気をつける。
母の姿はなかった。
カップ麺のゴミと、散らばった派手な洋服が無造作に散らばっていた。
ため息がでる。疲れた身体で散らばった洋服をかき集めていく。
茶色い封筒が落ちた。
「え……。 」
あやねが引き出しの奥に隠していた封筒だった、開かれており、中身は空っぽ。
あやねは、何も言わずに台所にいき、コップに水を注いで飲んだ。それが夕食だった。
ーーシャワーを浴びる。
この瞬間だけが、唯一今いる世界を好きになれる。何も考えずに、ただ気持ちいい。
温かいお湯で身体を洗い流す。今日の出来事も、全部、、全部。
浴室を出て濡れた髪のまま、床に薄い敷布団を敷いて横になった。
ーーいつからだろう。母が夜居ないのが当たり前になったのは、母が私のバイト代を取るようになったのは。
「まま!ぱぱ!」
「あやねちゃ〜ん、ほら!きつねさんのぬいぐるみ!ままとぱぱからのプレゼント。3歳の誕生日、おめでとう! 」
「あやね、おめでとう!おっきくなったな!」
「まま、ぱぱだーいすき!」
「まま…ぱぱ…」
「ほらあやねが起きたじゃない!」
「ガキは寝てろ!」
「や…めて。」
「まま、ぱぱは?」
「ぱぱはもう帰って来ないの。私たちはあの人に捨てられたのよ。」
「ぱぱ…ままが……。 」
「まま…ごはん…くれない……。」
「まま…どこ…?帰ってこない…。」
「ぱぱ…たすけて…。」
目が覚める。パッと時計を見ると深夜2時だった、部屋を見渡しても母の姿はまだ無かった。
「はぁ…。お父さん、何してるんだろ。」
あやねが成長するにつれ、両親の仲に亀裂が入っていき、いつの間にか離婚していた。あやねは母に引き取られたが、母が夜の仕事をはじめてから、男を家に連れ込んではあやねをベランダに出す、あやねを置いて数日家を空ける。という生活が当たり前になっていった。
母子家庭で補助金が入り、父からの養育費のおかげで高校に入学することができたが、あやねがバイトをするようになってからは、養育費を全てギャンブルと男に使いだした。それでも足りなければあやねのバイト代を。
離婚してから落ちぶれた母はドラマや映画に出てくるくらいネグレクトだった。
「早くこんな家出たい…。」
今日も、この前のバイト代を取られたばっか。
この先の生活が思いやられる。
明日は土曜だから朝からフルタイムで働く。
ーー早く寝よう
「ただいま〜。」
「おかえり〜!おにいちゃん!」
「かえで、まだ起きてたのか。」
夜11時前。湊が家に帰ると、6歳の妹が出迎えてくれた。
「ただいま。」
「……。」
黙ってスマホをいじるだけの母が居た。
母も妹も、美の遺伝子が強く、とても美人でスタイルが並外れている。
母は元読者モデル、妹はそろそろ芸能デビューをしようと母が手塩にかけて育てている。
「渡すものは?」
「なに…? 」
「通帳。早くして。」
鞄から通帳を取り出す。今日は湊のギャラが全て振り込まれる日。
「はぁ…先月より少ないじゃない。」
「…。」
母は湊の事を金としか見てなかった。あまり仕事がない時期、冷酷な般若になる。
この先妹が同じようになると考えると、妹の芸能界デビューをなんとしてでも阻止したかった。
「父さんは?」
「出張。」
父は月3回ほど出張にでて、ほとんど家に居ないが、その分稼いでいた。湊の稼ぎを家に入れる必要などなかったのだ。
だがそれがなければ神谷家は生活できない。
母が毎月20万、30万するバッグ、財布、洋服を買い漁る。貯金などほとんどなかった。
もし湊のスキャンダルが出たら、モデルを辞めたら、考えるだけで恐ろしい。
湊は別に仕事が嫌なわけではなかったが、自分を金としか見てくれない母のために働くのが嫌だった。
湊がモデルを始めた時からそうだったのか、あるいは生まれた時からこうするつもりだったのか、分からない。
せめて赤ん坊の時は可愛がられていただろう。
中学に入る頃くらいにはもう、母からの愛は感じられなかったから…。
「ねぇおかあさーん!」
ペシンッ
「あの人に似てて無理。近寄らないで。」
あの時、頬を叩かれた痛み。未だに忘れることができない。
母は、今の父とは再婚だった。
前夫との子の湊は、金にしかならない必要ない息子になってしまっていた。
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