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恋というのは
曖昧で、巡る季節のように、あっという間に過ぎて消えていくものだと思っていた。
△BL
ざわざわと、食堂というのは色んな人の、色んな会話が聞こえてくる。
校外が一望できる、大きな窓の付いた大学の食堂は、時間帯問わずたくさんの人で溢れかえっていた。
でっで?例の人とはどうなったの?
ふと聞こえてきた会話。
隣に座って居た、女子学生2人の会話だった。弾む会話。女子特有の高い声が、耳を突く。
その後も話は進んでいき、最後には。
やっぱり、勇気をだして伝えてみようかな。
聞き手の女子とは裏腹に、小さなくぐもった声で、話し手の女子がなにか吹っ切れたかのようにそう言っていた。
顔を赤く染めあげていた話し手の女子は、次の日に彼氏と思われる男子と、仲良さげに歩いていた。
おー待たせたか?
女子たちが去り、しばらくたった頃。
大きい手が、しっかりと椅子の背もたれを掴んだ。
ただ、椅子に座るという動作。ただ、それだけなのに、何故か目が離せない。体が少し熱くなるのがわかる。
待った。大分。
自分の気持ちを押し殺せ。そう言われているように、いつも通り。ただの友達を演じる。
だよなー
ほんっとあの教授、話を区切ることを知らない。講義の内容は、好きだからいいけど。
昼は?もう食ったか?
あははと苦笑いを浮かべながら、上着を脱ぎ、こちらに質問を投げてくる。
まだ
また、素っ気なく返してしまう。
本当は、待ってたんだよって、言いたい。
一緒に食べたかったんだって言いたい。
そっか、何食う?
そんな俺に飽きずに接してくれるから、
勘違いしてしまう。
そば
りょーかい
そんじゃ買ってくるわ!
待ってて。
券売機に着くまで、目で追ってしまう。
振り向いたらどうしようとか、そんなのはどうでもよく思えてしまう。
あーかっこよ
広い食堂で、何もテーブルの上に乗せずただスマホを弄っているだけ。
目にかかるくらいに伸びた前髪と、ハーフアップにできるほど伸ばした後髪。その間からチラリの覗く、無数のピアスがより色気を増幅させている気がする。
その姿を暫く眺めてから、少し大きな声で、
待った?と声をかける。
少し体を跳ねさせて、いつも通りのトーンで
待った。
と反応してくれる。男子の割に華奢な体格で
しょっちゅう顔の周りに手を置いている。
今だって、頬ずえをつきながらこっちを見ていて。
じっと見られているのだってわかってる。
だからわざと、見せるように気持ちゆっくり動く。
好きな人に向ける、じっと熱い視線。
何を食べる?
と聞くと、素っ気ない声で
そば
と答えてくれる。
りょーかい
かわい
声に出してしまいそうになるのを 抑えながら、彼に背中を向けて券売機へ向かう。
彼からだと思われる視線を感じながら。
はいどーぞー
これ鳴ったら取りに行ってなーなんて陽気に言いながら番号の書かれた機械をくれて、そのまま席に戻った。
ありがと
はい500円
はーい
本当は450円。でもわざわざ買いに行ってくれてるから、気持ちの50円。最初はいいよって言ってくれてたけど、キリが悪いからとか適当な理由をつけてたら、快諾してくれるようになった。
この後講義ある?
カバンからパソコンを出しながら聞いてきた。
ないけど、図書館で課題終わらせようかなって思ってた。
俺6限まであって、何時までいる?
いいよ
待ってる
彼はいくつかプラスで講義をとっていて、必修しかとっていない俺とは生活リズムが違う。俺が飛び飛びの講義でも、彼はまるで高校生のような一日を過ごしている。
昼だって、なんだかんだ言って1時過ぎになってるし。
今だって、パソコンとにらめっこしながら話を続けている。
やった
終わったらそっち向かうな!
でも、自分の気持ちや表情を伺うような会話をする時は誰でも相手の方を向いて目を合わせる。癖なんだろうけど、むず痒い気持ちになる。
ピピピピ
ピピピピ
出来上がりを知らせる規則的な音が、会話を遮る。先にできたのは俺の方で、強制的に話を終わらせなければならないもどかしさに少し腹が立つ。
貰ってくる
席を立ち、昼時なんてとっくに過ぎたのに人が多い。その中を進んでいく。
機械を渡し、食品と交換する。
何事もなく席に戻ると、取りに行っている途中で彼のも鳴ったのか席がもぬけの殻だった。不用心だななんて思いつつも、腹のすきが限界を超えていたため、彼を待たずに割り箸を割った。
昼食を食べたあとは、予定していた通り、図書館の自習室で課題を終わらせていた。定期試験が終わり、後はレポートの提出だけなのだが合わせて8000字弱の字数指定がされているため、とてもじゃないが終わりそうにない。
はぁと深く溜息をつき、少しづつオレンジ色に染っていく空を見つめた。ブルーライトで刺激された目には丁度いい光力で、暫くそのままでいた。
ここの自習室は、図書館と併設しているためとても広く、至る所に勉強することができる空間が用意されている。中でも人気なのが完全個室の空間で自習することが出来るスペースである。鍵が付いていて、広さはネカフェ2部屋分くらい。
場所によっては、今みたいに時間によって表情を変える風景が見られる。
暖かい日差しの当たる静かな空間。
気づいたら、瞼が重くなり視界が暗くなったり、明るくなったり。眠気に抗う気力が湧かなくなった。
そのまま目を閉じていた。
6限が終わり、足早に講堂を出て図書館へ向かう。昼間に行っていたことが本当なら、きっと彼は自習室にいるはず。
彼のことを考えるだけで足取りが軽くなる。それは、言葉にして彼に伝えてもいいのだろうか。まだ先の方が敵策なのだろうか。
コンコンコン
と彼がいるであろう自習室の扉を叩いた。
コンコンコン
軽い音が聞こえ目が覚める。
近くにあったスマホを見ると、時刻は6限が終わって少し経った頃だった。
そんなに眠っていたのかと、まだ重い瞼を擦りながら考える。
はい。
扉を開けると、少し体が火照った彼が立っていた。
迎えに来たよ。
……ありがと?
まるで王子様みたいなことを言うから、困惑する。そういうのをサラッと言えてしまう彼は、ほんとに、かっこいい。
待ってて、今片ずけるから。
机の上の惨状を見て焦った俺は、そう言って片付け始める。
いつもはそんなことないのに、何故か手元がおぼつかない。
ごめん、待たせた。
そう言って振り返った瞬間。
トン
何も乗っていない、机へ押し倒される。
そのまま彼は、自習室の扉を閉めてフレンチキスした。訳が分からず、ただ身を任せることしか出来ない。
んな!ちょ、っと!
顔が、いや全身が暑くっているのが自分でも分かる。心臓の音がうるさい。彼に、聞こえてしまうじゃないか。
好きだ。
へ?
ずっと好きだった。
時間が止まった気がした。俺は、目を見開いたまま固まっていた。
寝ていたのか、少し体が重そうな彼の背中を眺めていた。
心の奥からフツフツと湧き出てくる止まらない感情。
可愛い。
長い髪の隙間から赤く染った頬が見えた瞬間、身体の制御が効かなくなった。気がついたら彼を押し倒していて、気がついたらずっと堪えていた感情を露わにしていた。
ちょっとと言いながらも、押しのける気などさらさらない彼の行動に、追い打ちをかけられる。
好きだ。
ずっと好きだった。
ついに言ってしまった。
彼の顔など怖くて見れない。
引かれているかもしれない。
怯えさせてしまったかもしれない。
明日から、いつもの関係になんて戻れない。
しばらく続いた沈黙の後、俺は口を開いた。
本当に俺でいいの?
思っていた言葉とは違った。
もっと、言わなければいけないことがあったはず。でも嬉しくて、彼がこんなに好きな彼が同じことを思っていたなんて気持ちを抑える方が難しい。
君じゃなきゃだめなんだ。
やっとこちらを見た彼は、嬉しそうで、でもどこか不安気。そんな彼にかける言葉はいとつしかないだろう。
……嬉しい。
俺も、……好きだ。
貴方のことがずっと!好きだったんだ!
溢れて止まない想い。
今更、顔の火照りなどどうでも良かった。
この想いを、あなたに伝えたい。
堪えてきた想いを
大好きなんだ、
顔を真っ赤にして好きだと伝えてくれる君がとても、とても可愛くて愛おしいんだ。
ぎゅっと君を抱きしめる。
消して離さないと誓う。
そして今度は、
深い深い、お互いの愛を確かめ合うキスをした。
愛してる。
っていうのが3年前の俺たち。
今はジュエリーショップにお揃いのリングを買いに来ている。
おぉ〜これも良くね?
と見える指輪全てに目を輝かせている彼は、控えめに言って世界一可愛いと思う。
でもな、やっぱ控えめなデザインがいいよな
ゴテゴテしてると普段つけられない。
それじゃあその指につけてるのは、不服だったってこと?
そう言って俺が指した彼の薬指にはめられているのは、付き合ってすぐに渡したリング。
細身で、小さな石が埋め込まれている。内側にはイニシャルが掘られている。一方的に渡したもので、ペアリングではなかった。それでも、一般企業に就職した後も常に身に付けてくれている。
は?ちがうし、これはまた別。
もごもごと口をとんがらせて言う彼。
ははっ
じょーだん
あ、ねぇこれは?
なになに?とショーケースをのぞき込む。
指したのは黒色のラインが掘られたシンプルなデザインの指輪。
…かっこいい
これかっこいいな!
これにする?
うん!
あんなに悩んで唸っていなのが嘘のように、トントン拍子で購入することが決まった。
すみません、このリング12号と16号で1つずつ下さい。
プレゼント用でしたか?
えっと、結婚指輪です。
そうなんですね!おめでとうございます!
でしたら、この中から包装のデザインをお選びください。
どれがいい?
そう隣にいた彼に聞いた。
対応してくれていた店員さんは、一瞬驚いた表情を浮かべたが、直ぐに外向きの顔に戻っていた。熱心にラッピングを選んでいた彼は気がついていなそうだったけど。
これがいい。
黒の箱、指輪と同じデザインだから統一感でてて良くない?
かっこいいね、これにしよっか。
では5番で包装いたします。
出来次第お持ちするので、そちらの椅子にお座りになってお待ちください。
お待たせいたしました。
こちらお品物になります。ご確認ください。
間違えありません。
最後にこちらにサインして頂き、ご購入完了になります。
はい。
本日はご来店誠にありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。
頭を下げ店を後にした。
家に帰り、買ったリングを開けお互いの指にはめた。結婚式も、婚姻届も今は出来ない。
でも、この指輪が2人を繋いでくれる。
形に残る繋がりが、こんなにも嬉しいなんて思っていなかった。
これからも
あぁ、ずっと一緒だ。
そして、甘いキスをした。