コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その夜。
あかりは夢の中、クレオパトラのような扮装で、エジプトのファラオの棺にすがりつき、
「しっかりしてくださいっ。
もう一度、起き上がってくださいっ」
私を見てっ、
と叫んでいた。
だが、いざ、棺の蓋が開きそうになると、恐ろしくて、慌てて蓋の上に乗ってしまう。
ミイラとなって起きあがろうとしているものは、過去の青葉ではなく。
押し殺していた自分の恋心なのかもしれない、とあかりは思った。
――なんでだろうな。
なにが恐ろしいのだろうか。
深く愛していた分、青葉が消えて辛かったから。
またあんな思いはしたくないと思っているからだろうか。
「や、やっぱり死んでてください。
起き上がってこないで」
なんでも叶う魔法の呪文を知っている。
それを唱えれば、もう二度と、この蓋は開かないかも、と思いながらも、それを唱えることはせずに、あかりはただ蓋の上に乗っていた。
棺が激しく揺れ、中から青葉か、青葉を好きだった過去の自分が棺を叩いている。
そのとき、
「よし、これで縛って、釘で打ちつけろ」
ともうひとりの青葉――
いや、大吾が縄と釘とハンマーを手に探検家のような格好をして現れた。
あかりは、それらを手にとることなく、揺れる棺の上にそのまま座っている――。
あの夢を思い出し、
大吾さんが青葉さんと同じ顔で言ってくるのがまたなんとも……、
と思ったとき、あかりはガラス扉に向こうに、とんでもないものを見つけた。
変な仮面をつけた人が外にっ。
大きな木彫りの仮面を顔に当てた大柄な男が探検隊のような格好をして立っている。
予知夢かっ。
そのままガラス扉を開け、入ってきたので、
「……大吾さんですか?」
とあかりが問うと、
「そうだ。
よくわかったな。
愛か」
と大吾は言う。
「いや……他にそんなことしそうな知り合いがいなかったからです」
「知り合いでなくともする奴いるかもしれないだろ。
その場合、そいつは危険人物だから、すぐに逃げろ」
と大吾は言うが、
いえいえ。
知り合いがやっても、かなり危険な人物ですよ。
今すぐ私は逃げるべきでしょうか、とあかりは思っていた。
危険人物大吾は、ズカズカ入ってくると、
「お土産だ」
とゴトリとカウンターにその仮面を置く。
仮面を外したので、青葉そっくりの顔が現れていた。
「……アフリカとか行ってきたんですか?」
アフリカの民芸品のような仮面を見ながら、あかりは訊く。
「いや、日本の奥地だ。
呪いの仮面だそうだ」
「いりません……」
「大丈夫だ。
それを模した民芸品だ」
「いりません」
「この店に似合うんじゃないか?」
「お気持ちだけで結構です」
「じゃあ、これをやろう」
今度は怪しい小瓶を大吾は置いた。
「媚薬だ」
「いりません」
「大丈夫だ。
本物だ。
村の祈祷師にもらった」
「いりません」
「この店に似合うんじゃないか?」
「お気持ちだけで結構です」
「似合うんじゃないか?」
「結構です」
とあかりは繰り返した。