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ガラガラと音を立てて街道を走る馬車の一団。
俺はポケットの中のプラチナプレートを取り出すと、幌の取っ掛かり部分にそれをぶら下げた。
「ちょっと狭いか?」
「いや、大丈夫だ。問題ない」
狭い馬車……と言っても、人が乗る分には十分な大きさの荷台ではあるが、そこに3匹の族長が押し込まれているといった状態。
ミアを乗せたカガリは、馬車と並走してくれているが、カガリもここに入れるとなると、足の踏み場もなくなるほどの詰め込み具合だ。
「九条殿、何か話があるのだろう? 私の所へ来い」
呼んだのは白狐。顎で指定されたそこは、どう考えても狭すぎる。
「いや、無理だろ……」
「違う違う。私に寄りかかってもよいという事だ」
なるほど。背中を預けてもいいから、ついでに撫でろ――と言いたいのだろう。
「じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらおう」
横になっていた白狐の腹に背を預けると、白狐はモフモフの尻尾を俺に巻き付ける。
その代償に、俺の両手は白狐を撫でるだけの作業を延々としなければならないのだが、それを補って有り余るほどに寝心地は抜群だ。
「あったけぇ」
左手は尻尾を、右手は白狐の首筋を撫でつつ、極上の毛皮を堪能する。
「で? 九条殿、話と言うのは?」
「ああ、そうだった。従魔登録のことなんだが、お前達は本当にいいのか?」
「構わぬ。むしろ願ったり叶ったりだ」
「そうだな。人に襲われることなく自由に生きられるのだろう?」
「そうだ。従魔登録をしても、俺はお前達を縛りはしない。守ってもらいたいのはただ一つ。人に危害を加えないことだけだ」
「約束しよう。だが我等の命が脅かされる状況なら反撃に出ても構わんのだろ?」
「無論だ。そんな状況なら例え人だろうと容赦はしなくていい。自分の命を優先してくれ」
「しかし九条殿。なぜそのようなことを聞く? こちらにはほぼメリットしかない話だぞ?」
「前に言ってただろ? ウルフ種は誇り高い種族だって。それが形式上の事とはいえ、俺の管理下に置かれるんだ。そう考えると断られる可能性もあるんじゃないかと思ってな」
ワダツミとコクセイはお互い顔を合わせると、俺に向かって頭を下げた。
「九条殿がそこまで考えてくれていたとは感謝の極み。しかし、種の存続が危ぶまれるなら誇りは二の次だ」
コクセイもそれに続く。
「その通りだ。誇りを最優先に考えているなら俺たちは逃げることなく立ち向かう。そうなれば、今頃俺たちは|金の鬣《きんのたてがみ》にやられていただろうさ」
「そうか、それならいいんだ。それだけが心配だったからな」
「……お兄ちゃん。お話終わった?」
馬車の後方の幌を捲り顔を出したミアは、カガリから降りると馬車の方へと飛び移る。
「ああ、今終わった」
「じゃぁ、ウルフさん紹介して?」
「おっと、そうだったな。左の蒼いのがワダツミだ。ミアも会った事あるだろ?」
ワダツミをジッと見つめるミアであったが、首を捻り唸るだけ。
「うーん……ないと思うけど……」
村に攻めて来た盗賊たちを退治した時は、ワダツミはこれほど大きくはなかった。
族長に選ばれたことによる変化とでも言おうか、片耳の傷がなければ、俺でも判別は難しい。
「盗賊達と一緒にいたウルフ達の族長だよ」
「あっ、そっかぁ。よろしくね! ワダツミ!」
ミアはワダツミの前足を持ち上げ上下に振る。
豪快な握手にワダツミはどうしていいかわからず、成すがままといった状態だ。
「こっちはコクセイだ。ベルモントの遥か西から来たようだが、今は一時的にこちらに身を寄せている」
「よろしくね! コクセイ!」
ワダツミと同じく前足の片方を上下に振り、ミアは満足そうに笑みを浮かべる。
「この子はミアだ。俺のギルド担当でもあり同居者でもある。仲良くしてやってくれ」
魔獣を見ても恐れない人間を見たのは初めてだとでも言いたげに、目を丸くするワダツミとコクセイ。
二匹の魔獣は遠慮なく接してくるミアに困惑している様子。
普段からカガリで慣れているミアである。それくらい気にしないのだろう。
ミアから見れば、それは新しいモフモフが二匹も増えた程度にしか感じていないのだ。
目をキラキラと輝かせたミアは、遠慮なしに二匹の間へダイブした。
しばらくワダツミとコクセイの尻尾で遊んでいたミア。……いや、遊ばれていたという方が正しいのだが、連続でモフモフしすぎた疲れからか、二匹の間に挟まりスヤスヤと寝息を立てていた。
そんなミアを見ていると、俺も段々と眠くなってきてしまう。白狐の温かさに負け、ウトウトと船を漕いでいると、魔獣達が何かに反応を示し進行方向へと顔を向けた。
「九条殿。こちらに敵意を向ける者達がおるようだ」
白狐の一言で飛び起き、御者の隣へと移動する。
それはまだ見えないが、感覚の鋭い魔獣達が反応を示したのだ。それを疑うわけがない。
御者は急に出て来た九条に驚きはしたものの、異常は見られなかったのでそのまま馬車を走らせた。
しばらく走っていると見えてきたのは一台の馬車。その周りにはこちらに向かって弓を構えている十数名の冒険者。それは道幅いっぱいに広がり、誰も通さないといった雰囲気。
少しずつ近づくその一団の中に、俺の知った顔があった。その先頭に立っている人物は、シルバープレート冒険者のタイラーで、馬車の御者台に座っていたのは、紛れもないモーガンその人。
アットホームとは名ばかりのキャラバンが、俺達の行く手を阻んでいたのだ。