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重田💋(omoda)
322
しわす
2,736
ネオンの光が煤煙ににじむ極東の無法都市、『極夜街(キョクヤガイ)』。
その一角にある寂れた個人運送店『クロノス・エクスプレス』の電話が鳴ったのは、午前二時を回った頃だった。
「――はい、こちら黒猫急便。……ほう、依頼主はハミルトン・ファミリーの幹部ですか。お届け先は?……なるほど、敵対組織の包囲網を突破して『朝の五時まで』に。お荷物は『絶対に揺らしてはならない最重要機密』。了解、お引き受けしましょう」
黒電話を置いた店長が、事務所のソファでだらしなく爆睡していた「デリバリー担当」の背中に、容赦なく書類の束を投げつける。
「おい、起きろ。仕事だ」
「ぶふぉっ!?……痛ぇな、あと五分……いや、あと五光年寝かせろ……」
頭を掻きむしりながら起き上がった青年は、不機嫌そうに配送伝票に目を落とした。
「目的地まで車で通常一時間。だが、ルート上は現在マフィアの全面抗争中で実質通行止め。さらに道中、お宝を狙うフリーランスの暗殺者どもが手ぐすね引いて待っている、と。……おい店長、これ配送じゃなくてただの『特攻』じゃねえか」
「我が社の配達率は99.9%だ。時間厳守で届けてこい。……ああ、それから、今回のお荷物だ。デリケートだから丁重に扱えよ」
店長がトランクから取り出し、恭しく机に置いたのは――。
「……は?」
青年は目を疑った。
そこに置かれていたのは、黒いベルベットのクッションに鎮座する、直径30センチほどの『ピンク色の巨大な卵』だった。ピコピコと、不気味に電子音が鳴っている。
「これ、国家機密の生体兵器の卵。温度が1度でも下がると即座に半径5キロを吹き飛ばす自爆装置付きだ。絶対に冷やすなよ」
「温度管理が必要な爆弾を、バイクの荷台に積んで銃撃戦の中を走れってか!? バカ言え、凍える前に俺の心臓が止まるわ!」
その時、青年のインカムから、通信を繋ぎっぱなしにしていたオペレーターの冷ややかな声が響いた。
『――こちらナビゲーター。つべこべ言わずに早く出発してください。あと3時間で届けないと、あなたの今月の給料、マイナス9割ですからね』
「鬼! 悪魔! ナビゲーター!」
『お褒めに預かり光栄です。さあ、デッドライン・デリバリーの始まりですよ。……敵の追跡車両、すでに裏路地の手前に3台。戦闘準備を』
「チッ……!」
青年はピンクの爆弾卵を抱え、愛用のフルカスタムバイクに跨がった。ヘルメットのシールドを下ろすと同時に、その瞳から生ぬるい眠気が消え去り、裏社会を生き抜く「配達員」の鋭い眼光へと変わる。
エンジンの爆音が、極夜街の静寂を切り裂いた。
「黒猫急便だ。どんな地獄の果てだろうが――時間通りに届けてやるよ!」
バイクは夜の闇へと弾け飛んだ。スロットル全開、制限時間は残り180分。
世界一危険で、世界一おかしな配達劇の幕が上がる。
コメント
1件
うわ、めっちゃスピード感あるプロローグですね!「極夜街」の煤けたネオンの描写から一気に世界観に引き込まれました。主人公のダルそうな態度とプロの配達員としてのギアの切り替え方がカッコいいし、何より「ピンクの巨大な卵」が国家機密の生体兵器って…ギャグと緊張感のバランスが絶妙すぎます。続き、気になりすぎます!黒猫急便のデッドライン配達、ぜひ見届けたいです🖤