テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あさのくうきが、すこしだけつめたくなっていました。
小屋のまえの草は、先のほうだけ白くうるんでいて、まだひかりのうすい庭で、しずくが小さな石みたいに丸くのっています。森のほうからくる風も、きのうより細くて、戸のすきまをそっとなでていきました。
グルゥは、まだ部屋のなかが青いころに起きて、井戸のほうへ出ていきます。桶の木が、手のなかでかすかに鳴っていました。つめたい水をくみあげる音は、朝のしずけさをこわさないまま、まるい輪をつくるようにひびきます。もどってきたグルゥの肩には、外の冷えた気配がすこしだけ乗っていて、戸が開くと、それもいっしょに部屋へ入ってきました。
寝台の上では、リルがまだ布にもぐっています。目は開いているのに、起きあがる気配はゆっくりで、鼻先だけが布の外に出ていました。火の気のない朝の部屋は、木の机も、棚の皿も、みんな静かにつめたそうに見えます。
グルゥは竈のまえにしゃがみ、細い枝をえらんで、火を起こしました。ぱち、と小さな音がして、そのあとに赤いものが息をしはじめます。まだちいさな火でしたけれど、見ているうちに、こおりそうだった空気の角が、すこしずつまるくなっていくようでした。
リルは布のなかでその音を聞いて、ようやく起きあがります。髪の先が少しだけはねていて、頬には寝具のあとがうすくついていました。寝台からおりると、床の冷たさに足を止めて、しばらくじっとしています。
グルゥは何も言わず、火のそばへ置いてあった厚い布を持ちあげて、リルの肩にかけました。
リルはその布の端を両手でつまんで、目を細めます。
「……あったかい」
それだけ言って、火のそばへ小さく座りました。
やかんに水が入り、ほどなくして、白い湯気が口からのぼりはじめます。湯気はまっすぐのぼらず、朝のひかりのない部屋で、やわらかな糸みたいにゆれていました。グルゥは棚から木の皿を取り、黒パンをのせて、火の近くで少しだけあぶります。かたい表面が、すこしやわらいで、香りが部屋に広がっていきました。
リルはそのにおいに気づいて、布にくるまったまま、そろそろと竈のほうへ近づきます。火に手をかざしてから、こんどはパンを見ました。まだ眠たげな目なのに、そこだけ小さく明るくなっています。
グルゥは、よくあたたまった湯のみをひとつ、リルの前へ置きました。なかには湯だけでしたけれど、湯のみの木肌までほんのりぬくもっていて、持つ手にやさしくなじみます。
リルは両手でそれを包みました。指先がじんわりほどけていくのをたしかめるように、しばらく黙って湯気を見ています。外ではまた風がひとすじ通って、軒下の枝をかすかに鳴らしました。けれど部屋のなかには、火のちいさな音と、パンの香りと、湯気の白さがあって、朝のつめたさはもう、戸の向こうに置いてきたものみたいでした。
グルゥがちぎったパンの半分を差し出すと、リルはそれを受け取り、少しだけ笑います。ひとくちかじると、かたいところとやわらかいところがあって、口のなかでゆっくりほどけました。
窓辺には、やっと朝のひかりがたまりはじめています。白かったしずくも、ひとつずつ色をもらって、草の先で小さく光っていました。
リルは湯のみを持ったまま、その光を見ていました。
グルゥも、火に枝を足したあと、同じほうを見ます。
ことばはなくても、朝がすこし寒いことも、そのぶん火がうれしいことも、ふたりのあいだではもう、ちゃんと置かれているようでした。小屋のなかには、急がないぬくもりが、ゆっくりひろがっていきます。
柘榴とAI
