コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの大会の後、ガ―レットはその身を田舎に隠していた。
なにしろ人に化けた魔獣を王都に招き入れてしまったのだ。
彼の屋敷には連日抗議の民衆が押し掛けていた。
おちおち外も出ることができないのだ。
そのせいで彼は王都を後にしていた。
「はぁ…どうしてこうなった」
田舎の宿に泊まるガ―レット。
屋敷に会った金を持てるだけ持って、田舎へと隠れることになった。
共についてきたのは魔術師の少女メリーラン。
そして愛人の少女ルイサだ。
「ほら! ガ―レット!元気出して!」
そう言ってルイサはガ―レットの腕をとる。
豊満な胸を押し付けるようにして腕を組む。
普段なら喜ぶであろうガ―レット。
だが、今日は違った。
「ああ…そうだな」
しかし、そんな彼女の行動にも気づかないほど彼は落ち込んでいた。
試合は負け、恥を晒された。
気にいった女は魔獣だったし、その他二名もいつの間にかいなくなっていた。
おまけに大会運営からは無期限の出場禁止を言い渡される始末である。
高官の父親からも、それとなく釘を刺された。
もう何もかも嫌になっていた。
「(俺の人生はどうなるんだ?)」
ガ―レットは自分の未来を考えると暗くなるばかりであった。
そんな彼にメリーランが言う。
しかし…
「あの、元気を出して…」
「うるせぇよ!」
「はひぃ!?」
メリーランに怒鳴り散らすガ―レット。
あの決勝戦のどさくさの中で、彼女に突き飛ばされたことを根に持っているらしい。
逃げ惑う人々に向けて、勢いよく火炎を吐く魔獣バッシュ。
その場に対応できる人間は誰もいなかった。
…メリーラン以外は。
『あ、あ…ッ!?ああああーーー!』
『おいっ!?メリー!?』
メリーランが叫び声と共にガ―レットを突き飛ばした。
咄嗟の判断だった。
魔獣バッシュの吐いた火炎の前に立ち、全力の障壁を展開した。
炎はメリーランの障壁に弾かれた。
観客は無傷だ。
『私は…私は…うぅ…』
咄嗟に放った全力の障壁だった。
魔力をすべて使い果たしてしまい、メリーランはその場に倒れてしまった。
それを見たガ―レットは…
『ああ…うわあああああああ!』
叫び声を上げて逃げて行ってしまった。
観客を押しのけ、我先にと。
メリーランをその場に置いて。
あの時のことを思いだし、苦虫を噛み潰したような顔になるガ―レット。
メリーランは怯えて縮こまってしまう。
その姿を見て、ガ―レットも少し冷静になったようだ。
「ちッ…」
「いえ、私が悪いんです。本当にごめんなさい」
彼女は泣きそうな顔で頭を下げた。
その表情を見て、ガ―レットはますます機嫌が悪くなる。
嫌悪感なのか自責の念なのか、それらが身体の中からこみあげてくる。
「くそ! なんなんだお前らは!!」
ガ―レットは怒りをぶつけるようにメリーランとルイサに叫ぶ。
うなだれるメリーラン。
しかしルイサは違った。
「ね、ねえいつものようにやらない?」
そう言いながら服を脱ぐ仕草をとるルイサ。
しかし今の彼はとてもそんな気ではなかった。
ついに我慢の限界が来たのか、ガ―レットはルイサを怒鳴りつけた。
「いい加減にしてくれ!」
「きゃあ!?」
それを聞いて一瞬怯むルイサ。
悲鳴を上げる彼女を無視して、彼は部屋の外へ出て行く。
扉を強く閉める音が部屋に響いた。
「あーあ、行っちゃった」
部屋に残されたのは二人だけ。
するとルイサはため息をつく。
そしてメリーランの方を振り向いた。
「あんたがグズだからいけないんでしょ? せっかく彼を慰めようとしてあげたのに」
「えっと…ごめんなさい」
「ふん!」
謝るメリーランにルイサは再び冷たい視線を向けた。
まるで邪魔者を見るような目つきである。
「ねぇ、これからどうするの?」
「それは…」
ルイサの言葉にメリーランは何も答えられなかった。
しばらく沈黙が続く。
元々あまり仲の良くない二人。
以前まではキョウナが緩衝材となっていたが、その彼女はもういない。
二人は自然と口数が少なくなる。
ギスギスとした空気が部屋に広がっていく。
一方、自室に戻ったガ―レット。
ベッドに転がりながら
考え事をしていた。
「(チクショウ…)」
あれから数日経ったというのに、まだ彼の心は晴れなかった。
それもこれも全て自分のせいだと分かっている。
「親父め…余計なことを言いやがって」
父親に言われた言葉を思い出す。
『お前には失望した』
『しばらく田舎で頭を冷やせ』
『お前のせいで我が家の名に傷がついた』
などと言われたガ―レット。
思い出すと腹が立ってくる。
「(俺は悪くない! 悪いのは全てリオンたちじゃないか!!)」
そもそもリオンがあの時死んでおけば…
試合で自分に勝たなければ…
あの決勝戦でロゼッタとかいう女が乱入してこなければ…
そうすればバッシュだって正体を現さなかった…
身勝手な責任転換をしつつ、彼は自分を正当化しようとする。
そして…
「(ルイサのヤツ…)」
ルイサはリオンの妹。
ガ―レットは彼女を妾にするつもりだった。
しかし…
「(あいつさえいなければ…)」
リオンへの恨みが、彼の妹でもあるルイサにも向けられるようになっていた。
ルイサの顔を見るだけでリオンを思い出す。
兄妹なのだ、似ないわけがない。
ガ―レットは自分の中に黒い感情があることに気づいていなかった。
復讐を決めたガ―レットの顔はとても醜かった。
数日後…
ガ―レットはルイサとメリーランを連れて田舎の街を歩いていた。
目的はルイサを娼館に連れて行って、そこで働かせるためである。
娼婦になれば金が入るし、男たちにちやほやされるだろうと考えたのだ。
ガ―レットは暗い笑みを浮かべていた。
「ねえ、どこに行くの?」
ルイサが話しかけてくるが無視をするガ―レット。
無言のまま歩き続ける。
向かうのは当然、街の娼館だ。
しかし、彼は改めて考えた。
仮にもルイサはリオンの『妹』なのだ。
娼館に売ったとしたら面倒なことになるかもしれない。
最悪の場合、ルイサがリオンに連絡を取り、むこう側に寝返る可能性も無くは無い。
そこまで考えてガ―レットはルイサを売るのを諦めることにした。
その代わり、ガ―レットはある事を考え付いた。
「ねえ、どこに行くの?教えてよ」
「あのさ、ルイサ…」
改まった表情で、ルイサに話しかけるガ―レット。
その顔は、どこかいつもの彼とは違う気がした。
そんな彼に思わず、ドキッとするルイサ。
「な、何?」
「お前に会って欲しい人がいるんだ」
「誰?」
「田舎に住んでいる俺の母親、母さんにだよ」