パチ…
いつもよりほんの少し肌寒い。それに、外もまだ薄暗く微かな雨音が耳に入る。激しめの雨が小窓を強く弾いているようだ。
─5:05─
やはり、いつもより1時間程早く起きてしまったようだ。
二度寝をするにも曖昧な時間なので、働かない脳と身体を無理矢理起こし、そそくさと洗面室へ向かう。
冷たいレンガが敷き詰められた壁を、ランタンで照らすと、壁の細かな傷が目立つ。
様々な形の傷を目で追っていたら、洗面室の扉が目の前に現れた。低血糖だからか、ボーっとしていた事もあり、ぶつかりそうになる。こんなところで頭を打って怪我なんてしたくないので、そそくさと洗面室に入る。しかし、この後が大変だ。
洗顔に、化粧水に、乳液に、美容液に、考えるだけで気が重い。まぁ、スキンケアは嫌いじゃないが。この肌を保つにはこれくらい当たり前だろう。
────────よし、
やはり新作の乳液は違うな。肌全体によく馴染む。と言っても誤差なんだが、僕は割と気に入っている。
はぁ…着替えるか。自前の籠から肌がほとんど隠れるような深紫の薄生地の服を取り出し、着用する。腰には白く細長い紐を巻き、軽く結ぶ。着替えは、これでほぼ完成なのだが、最後に茨の冠と、長いタッセルピアスを装着し、紫色の口紅を塗って完成だ。
(はぁ…やっと身支度が済んだ、)
(暇だな、少し城を徘徊するか)
早く起きるというのは、余裕ができる反面、暇だ。仕事はまだ支給される時間では無いし…折角なら1mmの休日だと思って城でも徘徊することにした。まぁ、サボっているゴブリンや下っ端がいないかの見回りにもなるし、暇潰しには丁度いいな。
ザーーーーーーーーー⛈
(にしても、ひどい雨だな…)
窓から覗く雨模様は迫力を増すばかり。城は曇った雰囲気に包まれる。そういや、低気圧のせいだろうか?気のせいかもしれないが、頭痛が酷くなっている気がする。…ザァー……ザァー…
──────いや、気のせいじゃない。
明らかに何者かの気配と頭痛がセル・ウォーを襲う。ふと気になって後ろを振り向く。すると…!
「あ、バレたわ」
「へ…え、あっデリザスタ?」
その正体は、悪魔の五つ子である四男のデリザスタであった。
朝だからか、いつもはド派手な髪型にキメているはずの髪は、ストレートに腰まで下ろしており、長く艷やかな髪は黄金の光を放っていた。服もいつもより緩く生地の柔らかい服で、立派な腹筋がチラりと見えるような丈の短いのもを着用していた。セル・ウォーは普段あまり見ないその新鮮な光景に、息を飲んでまじまじと見入ってしまう。
すると、笑い声と共におでこを指で軽く弾かれてしまった。
ベシッ
「痛っ!?」
「お前さ〜マジオレっちの事見すぎな?オレのオフの見た目そんな好きなん?ウケ〜〜!!」
「あ、いや…髪を下ろしている姿はあまりお目にかかる事が無いので…綺麗だなと、つい見惚れてしまいました」
「え〜めちゃ褒めるやん笑」
ほんとに。
ほんとに綺麗だった。ずっと見ていたいくらいには、美しくて、目が惹きつけられてしまう。
まだ見ていたいが、ずっと直視し続けるのも失礼だと思い、
「すみません」と一言放つと、視線を下に落とした。
すると、背中にくすぐったい違和感を覚え、反射的に天井を見上げる。一発で目に入ったものは、髪の毛をカーテンの様にして見下ろすデリザスタ様の姿であった。自分の肩に髪がはらりと垂れる。その光景に驚いて尻餅をつくと、馬鹿にしたように笑われてしまった。笑われることはなんとも思わないが、あんな事されたら女なら誰でも簡単に惚れてしまうだろう。男の僕でさえ、心臓がバクバクして、破裂しそうなのだから。
そして、恥ずかしそうに慌てる僕を横目に、
「でもな〜今日はパーリーだから髪下ろせないんだわ笑
ま、パーリーが終わった後でオレっちの部屋来るんなら
サービスとして特別に下ろしてやってもいいけどな〜?」
なんて喋っている。
相変わらずの饒舌に脳が停止しかけたが、ここは乗るべきだろうと、「では、向かいます」と伝える。
すると、意外!といった表情で難なく了承された。
「え、マジで来んの?ウケ〜〜!!まぁいいけど、2時な?」遅れたら殺すからな〜」
遅れたら殺すと殺害予告までされたからには、遅れる訳にはいかない。それに、正直少し楽しみな自分がいる。
今夜の深夜2時は特別だ。
コメント
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oh … 書き方 からストーリー まで 全て 好きで す …… 🫠🫶🏻🫶🏻
あぁもう好き♡