TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
シェアするシェアする
報告する

「アリエッタおいで、朝ごはんよ」

そう言われて、意味は分かっていないが名前に反応し、少しだけ歩きにくい足で近寄ると、少女はひょいっと持ち上げられた。


『アリエッタ』

ミューゼが少女に与えた名である。

寝る前にどうしてもと、お風呂から上がってから考えていた名前をつけてあげたのだ。

パフィはそれで良いと了承し、クリムからも悪くないという評価を得ている。


(抱っこされるのにも慣れてきたなぁ。それにしても『アリエッタ』か。可愛い名前を貰っちゃったかも)


名前を付けてもらったアリエッタは、ミューゼの腕の中でニマニマと笑っている。眠たい状態でその名前を教えてもらったものの、起きて冷静になって再認識したら、勝手に笑顔になってしまう。どうやら顔に出る程嬉しいようだ。

リビングにやってくると、何故か朝食の準備をしているクリムが出迎えた。


「おはよーだし。すぐに出すから座って待ってほしいし」

「あ、うん、おはよ」


普段ならパフィがいる筈が、クリムになっている事に驚くミューゼ。

とりあえず言われたままテーブルにつくと、すぐに朝食が運ばれて来た。


(わぁ、これってパンとベーコンとスープかな? 前と同じような食べ物があるなんて嬉しいかも)


前世でも見たブレックファーストに、思わず嬉しさが顔にでるアリエッタ。

さっそくパンにかじりつく。


「おや、もう食べ物だって分かってるみたいだし。なんとなく分かるし?」

「どうかなぁ……それよりもなんでクリムがいるの? パフィは?」


ミューゼはとりあえず、先程から疑問に思っている事を聴いてみた。


「実は森での事とアリエッタの事を話してたら、すっかり遅くなっちゃったし。だから一旦泊めてもらって、代わりに朝ごはんを用意したんだし。特に予定が無いならパフィはゆっくり寝かせてあげるといいし」

「ふーん、そういう事なら分かったよ。起きてから報告に行こうかな。クリムはこの後帰るの?」

「そうだし。お店あるし」

「そっか、とりあえず朝ごはんありがと。アリエッタも喜んで……ん? アリエッタどうしたの?」


アリエッタは一度食べるのを中断し、服をチョイチョイっと引っ張ってミューゼをじーっと見た。

ミューゼが反応すると、クリムを指差す。


「うん?…………あっ!」

「この子の言いたい事分かったし?」

「たぶん名前知りたいんじゃない? クリムの紹介してなかったから」

「忘れてたし……」


昨日の話が衝撃だった為、自己紹介をすっかり忘れていたクリム。

改めて自分の名前を教えようとする。


「ボクの名前はクリム。よろしくだし」


そんなクリムの自己紹介に、アリエッタはいきなり難しい顔になった。


(名前長っ! えっと……)「ボクノナマ…エハ──」

「待って待って! アリエッタ!」


名前を復唱しようとしたアリエッタだったが、ミューゼによって止められた。


「ちょっとクリム、名前以外の言葉を言っちゃだめよ。このままだと『ボクノナマエハクリム・ヨロシクダシ』っていう長い名前になっちゃうよ」

「えぇっ!? 言葉が分からないって難しいし……」


狼狽えるクリムだったが、ミューゼに教えてもらって、改めて名前を教える事にした。


「ク・リ・ム」


自分を指差して、名前だけを言う。すると……


「くーりー…む……くりむ」

「よかったし……」


長い名前になるのは阻止出来た。

それに安心したクリムは、洗った弁当箱を持って、外へと向かう。


「さて、それじゃあボクは帰ってお店の準備するし。また来るし」

「うん、ごはんありがとね」


クリムが去ると、入れ替わる様にパフィがリビングにやってきた。


「おはよーなのよ~。もしかしてさっきの音はクリムが帰ったのよ?」

「うんおはよう、朝ごはん作ってもらったから食べちゃって」


パフィが食べている間、ミューゼは出かける準備を始めた。

子供用の服が無い為、アリエッタには外用の大きなシャツを着せ、紐で縛ってワンピースのように仕上げておく。

自身の服は、町から出る予定が無い為、外行き用の普通の服にした。


「用事を済ませたら、怪我をしっかり治してあげるからね。もうちょっとだけ待っててね」




やがて朝食を食べ終えたパフィも準備を終え、荷物とアリエッタを抱えて外に出た。

昨日は凹んでいて周囲をよく見ていなかったアリエッタだったが、改めて町を見て軽く興奮し始めた。


(うわー! 人がいっぱいいる! やっと人の住む場所に来れたんだ!)


パフィの腕の中で、嬉しそうにキョロキョロと辺りを見渡している。


「沢山の人を見て怯えないかと心配だったけど、杞憂だったのよ」

「喜んでるみたいね。良かった~」


和みながらしばらく歩くと、大きな建物にたどり着いた。

中に入ると、カウンターの向こうから声がかかる。


「あ、ミューゼさん、パフィさん。おかえりなさい。って、その子は?」


黒髪の女性が挨拶してから、アリエッタについて聞いてくる。

しかし2人が大勢が行き来するこんな場所で、今回の仕事について話す気にはなれなかった。


「全部含めて報告したいのよ。組合長の所にいくのよ」

「あ、はい。私も行きますね」

「いやリリさんは受付の仕事があるんでしょ?」


カウンターから出てきた黒髪の女性はリリ。『リージョンシーカー』という組合の、ニーニル支部の受付嬢である。

この組合は、町の外でのトラブルや探し物などを請け負う、いわゆる何でも屋である。

そしてミューゼとパフィは、ここで働く組合員。アリエッタと出会った森に行ったのも、ここでの仕事の一環であった。


「受付なら大丈夫です、代理のマンドレイクちゃんがいます」

「あの巨大ニンジン、仕事出来るの!?」


リリが指差した先の受付では、巨大な顔つきのニンジンが、来客に対応している姿があった。

どういう訳か、女性に人気があるらしい。


「近々マスコットとして売り出す計画もあるんですよ」

「どうしてそうなるのよ!?」

(なんだあれ!? 野菜に顔がついて動いてる!)


森に出ている間に何かが進行していたという事実に、2人は呆れるしかなかった。

アリエッタは初めて見る巨大マンドレイクに、口を開けて驚いている。


「それでは組合長室に行きましょう」


受付嬢らしく笑顔でパフィ達を案内し、奥の少し大きな扉にやってきた。ノックをしてから、中に向かって声をかける。


「バルドル組合長。パフィさんとミューゼさんが報告したい事があるそうです」

「んあ? 分かった、入ってくれ」

「では、私は飲み物を入れてきますね。希望はありますか?」

「ジュースでお願いするのよ、この子に合わせるのよ」

「分かりました、中へどうぞ」


リリに促され、扉を開けると、突然鬼のような顔が迫ってきた。

これには3人とも驚き、パフィがアリエッタの前に出る。


「ちょっと! 今は駄目なのよ!」

「ハッ! 書類仕事ばかりで体がナマってんだ。ちょっとくらい付き合えよ」


そう言いながら、嬉しそうに木剣を振り下ろす。

しかしパフィはその場から動かずに、剣を腕でガードした。


「あぐっ!?」


斬れる事は無いが、かなり痛い。

それでもパフィは、一瞬後ろのアリエッタの無事を確認して、笑みを浮かべた。


「あん? 今のを避けねぇとは、たるんでんじゃねえか? いつもの速さはどうしたんだよっ!」

「……このアホ組合長っ」


この後も、剣が降られてくる方向に移動して、その身で受けるパフィ。


「自分から当たりに来るとかお前バカなのか?」

「バカは……お前なのよーっ!」


気合一発、叫び声と共に、思いっきり


「ほづっ!? おがああああぁぁぁ!?」


悲痛な叫びをあげて、体を折り曲げる組合長。

さらに──


「アリエッタが泣いちゃったじゃないの! このチンピラ!」

ドッパァァァァ!!


後ろのミューゼが杖から水を撃ち出して、組合長をぶっとばした。


「相変わらず面倒くさい組合長なのよ……」

「ぶえぇぇ……えぐっ…えぐっ……」

「アリエッタ大丈夫? 怖かったよねー。もうやっつけたからねー」


突然大人でも怖がる形相で襲い掛かってくれば、子供の幼い本能はそんな恐怖に耐えられるわけがない。アリエッタは勝手に泣いてしまう小さな体をミューゼに押し付けて我慢しようとするが、涙も震えも止まらなかった。

ミューゼはそんな小さな背中をポンポンと叩き、なんとか落ち着かせようとしている。

そうこうしていると、リリがジュースを持って戻ってきた。


「あれ? 何してるんですか? 部屋に入ってなかったんですか」


キョトンとした顔で聞いてくるリリに、パフィが簡単に説明した。


「チンピラに襲われたから、ぶっ飛ばしたのよ。お陰でこの子が泣いてしまったのよ」

「あー、組合長やっちゃったんですか。って、部屋の中がビチャビチャですね。組合長! 何丸まってるんですか! この部屋は使えないので、隣に行きますよ!」

「お゛お゛お゛お゛ぉぉぉ……」


部屋の中を確認したリリは、下半身を抑えて転がっている組合長に雑に言い放つと、隣の接客用の部屋へとパフィ達を案内した。


「なんだかすみません。一応事情を説明してもらえますか?」


パフィが詳細を説明すると、リリはため息をついた。

説明している間に、アリエッタはジュースを飲んで少し落ち着いている。


「本当にすみません。パフィさんの手当ては組合長持ちにしておきますね。あと部屋を見た感じ、書類も水浸しになっていましたけど、あれは組合長の自業自得ですから、心配しないで良いですよ」

「ありがたいのよ。まぁ子守りがあるから、あまり手伝えなかったりするのよ」

「それについても早く詳しく聴きたいところですね」


そこまで話したところで、丁度ドアが開いて、組合長が入って来た。

まだ少し顔色が悪く、ずぶ濡れである。


「ちくしょう、いきなり何てことしやがんだ……部屋滅茶苦茶じゃねーか」

「いきなり襲い掛かるからですよ、クソムシ組合長」

「お前もひでーな!? いつもやってる事だろーが!」


組合長は、実力のある組合員を見ると、いつも木剣を持って襲い掛かっていた。

パフィにとっても慣れていた事だった……が、


「今回はいつもと違ったんですよ。組合長はこの小さな女の子に斬りかかって、パフィさんは守っていただけなんです。パフィさんの治療費と部屋の片づけは、全部組合長1人でお願いします」

「は? 聞いてねえぞ? なんでガキがいる事を言わなかった?」

「言いに来たら襲ってきたのよっ! もう一回蹴るのよっ!」


チンピラなバルドル組合長は、勢いだけの脳筋だった。

この後リリとパフィとミューゼによってボロクソに言われ、一旦大きな体を縮こませてから、報告を受ける事になったのだった。

からふるシーカーズ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚