コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ファーストキスはレモンの味って話絶対アホが考えたよな。
終電電車に体を揺らされ、真っ暗な外を窓越しに見つめる。薄らと窓に映る顔は隈が濃くて不健康を擬人化したかのようだ。
きっと、n連勤目の体はきっと誤作動を起こして、一昔前の雑誌に書かれていたような言葉を思い浮かべたんだ。 こんなどうでもいいことしか考えられないなんて俺は俺は俺は……..
はぁ….辞めよう、もうこんな救いようのない脳みそなんだ。救いようがないなら、そのままドブみたいで救いようのないことを考えてもいいはずだ。そっちの方がお似合いだ。
そもそもだ。キスなんて口と口が触れるだけの行為であって、そこに味を感じる余地は無いだろ。
俺は今まで生きた中で女子と性交したことどころかキスも、告白だってされてない俺には分からない領域なのか?
それなら分からなくて当然か….こんな新規臭くてつまらないやつに思いを寄せるやつ居ないからな。はは…
そうこう考えていると電車は目的の駅に着いていて改札を通りトボトボとギラギラとネオンの光るシンジュクの街並みを歩いていく。
ふと、公園の方に目をやると。
「シブヤのクソジャリ…..?」
そう呟くと、ダンボールに包まりベンチに横になっているクソジャリ、もとい有栖川帝統と目が合った。
「あっ、麻天狼のリーマン!!」
目を逸らしその場を去る隙を与える暇もなくヤツは大声で俺を呼び止めた。大声を出すな、他に人が居たらどうすんだ。
クソジャリはその大声を止めようと駆け寄った俺を大口を開けて笑い、隣に座るようジェスチャーをした。
「大声出すなよ馬鹿!ハァ…なんでシンジュクにいるんだよ」
「シンジュクのパチ屋に行きてぇイベントがあったんだよ。イイトコまで行ったんだけどよォ〜、結局大負けして金がなくなっちまった。」
「えぇ…泊まるところは?」
「無ぇ!今日は野宿だな!」
当然の様に言うなよ….。雪降ってないとは言え、今日は相当寒いぞ。正気かこいつ。 敵チームとはいえまだ若いこいつをそのまま放っておくのは哀れになってきたな…。
「流石に今日は寒いだろ、これ…使えってくれ。」
財布から1000円札を五枚抜き取る。それをクソジャリに差し出すと一瞬呆けた顔をされたが、すぐに目を輝かせて5000円を受け取った。
「うお〜!!助かるぜ!ありがとな、ドッポサン!」
「都合のいい時だけ敬語使いやがって。一応言っとくけど、賭け金にはすんなよ。」
「….しねーよ。そんなにアホじゃねー」
「間は何だ、間は。」
「んなこたいいんだよ。つか、お前マジで草臥れてんのな。クマもすげーし俺なら死んでもそんな生き方しねーのに!意味わかんねー」
まるで苦い粉薬を飲んだ子供のように舌を出して顔を顰めるクソジャリ。
なんで俺は罵倒されてんだ。意味がわからない、金をあげて感謝はされど罵倒される筋合い無いだろ。
クソ、そもそも俺が悪いのか?こんな常識知らずの馬鹿餓鬼に声を掛けられたからと言って足を止めたのが悪いんだ。俺がファーストキスはレモンの味とかいう意味不明な言葉に苦言を呈していたからクソジャリに気づけなかったんだ。俺が俺が…..
「おい!口に出てんぞリーマン!」
思考に気を取られていた間に姿勢は猫背になって頭を抱えている体勢になっていた。…そのせいか少し腰が痛い。歳のせいだろうか、歳と日頃の業務のせいだろうな。
その上考えていたことが口にポツポツと漏れ出ていたようで、哀れみからか頬に汗を滲ませたクソジャリに首根っこを掴まれ、強制的に顔を上げさせられることになった。
よりによって聞かれたのがこいつなのが無理、死にてぇ。
「つーか、リーマンファーストキスはレモンの味ってーヤツだっけ?それ気になってんのか?」
「うぅ”‘….笑えよ。クソが….」
出来ることならば今この場で消え去りたい….蟻を踏まれて息絶えるように、今凄いデカい巨人が現れて俺の事を潰して欲しい。このクソジャリも巻き込んで。
「試してみるか?」
「は?」
「試してみるか、て言ってんだよ。 」
至極当然のようにこちらを見るな。俺の独り言聞いてそんな発想になるか?
「なんでだよ、そもそもお前にメリットがない!」
「金恵んでくれただろ?あ〜もうめんどくせぇなぁ…」
クソジャリはため息を吐いたかと思うと、足を上げて体をこちら側に向き直した。
何するんだよ、と言おうと口を開いた瞬間。クソジャリの手が俺の顎に触れると同時に唇に何か柔らかい物が触れた。
「んぐッ、」
それから二秒後、俺の思考の硬直は溶けるとその唇に触れた物がクソジャリの唇だと察した。
これは….キス、されたのか?
「どうだったよ?」
「は?」
「だから、レモンの味?したかって言ってんだよ。…もしかして初めてじゃねーのか?」
マジでこいつ頭イカレてんのか!?
頭のつむじから、足先までが動かないそれでも焦りからかバクった頭は何か返答をしなければと口をハクハクと小さく開閉している。
「…………….クソジャリのジャリジャリしたクソマズイ味…..。」
「はぁ?!」
チュンチュンと窓の隙間からは小鳥のさえずりが聞こえている。その鳴き声は目を完璧に覚まさせるのには小さすぎる癖に、二度寝をさせるにはやけに耳に残る。
そんなことはどうでもいいんだ。胸の何処かをザワザワと騒がせる問題が….そう、 クソジャリからキスされた以降の記憶が無い。
あれからどんな会話をしたんだったっけ、何か会話をしてなぁなぁに別れた気がする。けど、肝心な内容が思い出せない。
それに、突然されたあれは…あのクソジャリからのキスは
「全然嫌じゃなかった…。」
終わり___