「僕は、自由になりたい」
そう強く懇願してからどれくらいの月日が経つだろうか。
何かしらの宗教の願掛けとして伸ばされたのと床屋なんか連れて行って貰えなかった為女のように長くなった髪を母は愛でていた。人形にするみたいに櫛で解かして、いつも三つ編みにしていた
僕はこの髪が嫌いだった
幼少の頃は寧ろ華奢で小柄だった身体は、成長期に入るにつれ両親にも手に負えない様な芽体になった。
女性とは見違える事の無い、骨と筋肉を主体とした腕、巨人と蔑まれる事も少なくない程の長身
その全てが、私の両親にとって畏怖の対象だったのだろう
彼等を殺す事に躊躇いも、迷いも無かった。ただ、殺すだけ。
あまり外に出してもらえず閉ざされた鳥の羽の純白
は血液の真紅に染まっていた。夜明けの薄ら灯りが私の瞳を、体を青白く照らそうとも其れは赤かった
「…本当に無垢で愛らしい人ですね」
出血多量で混濁する意識の中、彼の弦を弾いたかのような低音が私を優しく包む。窓から垂れる逆光を纏った彼は神々しく、天使のようにも見える
一方、私は脆弱に地面に横たわり血反吐を吐いている。強く引っ張られた毛根は針を刺したかのように痛む
まるで現実なんて知らない様に、僕は昔の事を懐古していた
「ねぇ、ドス君。僕達の生まれ故郷では女性は結婚する時に友人に歌を歌って貰いながら髪を解く風習があるじゃない?」
「ええ」
数年前、彼と出会いたての頃。彼の隠れ家の中で最も生活感のある家に遊びに行った時、揺り籠に身を預け眠らない癖に瞼だけを閉じる彼に夢を語った
「もし、僕が君を殺した暁には君の歌聲(悲鳴)を聞きながら私はこの忌々しい髪を切るよ」
「……へぇ。」
暖炉から火の粉が産声を上げては弾けて死に行く悲鳴が聞こえてくる。炎に染められた彼の頰は何時もよりかは幾分か血色が良く見えた
「貴方は忌々しい髪と仰っていましたが…僕は好きですよ。蚕が吐き出した生糸のように脆く美しく…貴方の隷従の証ですからね」
彼は私の編まれた髪をそっと撫でる、しかし髪は解けない
「貴方は永遠に過去から抜け出せないんですよ」
鼓動が段々と早まる。刺された箇所に命が宿ったかのように脈を打ち、じんわりと熱くなる
彼は赤く染まっていた。私が見た蒼いフィルターの中で業々しく煌めく赤色と同じ
「貴方はあれ程嫌悪していた両親と所詮、同じモノで出来ているんですよ」
彼は初めて、満足そうに嘲笑った
コメント
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あぁぁぁぁぁ死ネタ!大好き!めっちゃ好物なんですよ毎回素晴らしい作品書いてくれてありがてぇ(o(。>ω<。)o)