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〈今川澪 視点〉
_私は何度も五十嵐さんにキスをして柔らかな下唇を噛んだ
暗く冷たい場所での激しく熱いキスは、時間だけでなく思考さえも停止させ、一方的な傲慢な愛は静かに私の記憶をフェードアウトさせていった。
窓から真っ直ぐ指す陽射しに目を覚ますと、ベッドで1人私は横たわっていた
静かに天井を見つめながら、薄ら記憶を呼び起こす限り、五十嵐さんは私を咄嗟に突き放し、お姫様抱っこをしてここまで運んで来てくれたらしい
昨晩の出来事が頭の中でグルグルと回り、私は徐々に顔が熱くなるのを感じ取った。
いつもの風景に、いつも顔を合わせる俳優達、何も変わらないはずなのに心は緊張で蝕んでいく
嗅ぎなれた甘い香水の匂いに振り向くと、五十嵐さんがスタジオへ足早に入ってきた
私は恐る恐る五十嵐さんの顔を見上げると、いつもの美しく、どこか切なげで落ち着いた表情の五十嵐さんの顔がそこにあった
酒が回ると誰とでもキスをする性欲の強い女とでも思われてるのだろうか
あのキスで関係が崩れてしまうくらいなら、永遠に叶わない方がいい恋なのかもしれない、そう思われていた方が寧ろ好都合だった。
「澪ちゃんお酒弱かったのね。昨日の飲み会の後のことは覚えてるの?」
私に気づいた五十嵐さんはこちらに視線を落とし、そう聞いた。
「いえ、全く」
本当は鮮明に覚えている
細長い首に、少し顔にかかった五十嵐さんの髪、柔らかい唇の感触、全て覚えている
五十嵐さんは何かを言いかけたが、脚本家から呼ばれると直ぐに背中を向けて歩いていった
「今日の撮影は以上です!ありがとうございました!」
監督がその場でパチパチと2回手を鳴らすと撮影はようやく終了し、疲労しきった私はスタジオ横の自販機で飲み物を買い、控え室へと戻った
財布とコーヒーで塞がった手で強引に扉を開けると、五十嵐さんがスラリとそこに立っていた
「今から帰るの?」
無愛想な美しい顔は、ただ私を真っ直ぐに見つめる
あんなことがあったのに五十嵐さん自身は何も気まずくないのだろうか、あの時口を噤んだのはどうして?
そんな疑問が頭に過ぎりながらも、無頓着な表情を浮かべる五十嵐さんはやっぱり綺麗だった
大きく切れ長な目に美しいカーブを描くまつ毛、小さくツンと高い鼻、薄くプルンと潤う唇、シャープな輪郭に艷めく毛穴1つない肌、細長い手足に女性にしては高い背丈
何処に目をやればいいのか分からない、ただただ五十嵐さんの美しさに見惚れて口をあんぐりとさせていた
週刊誌に晒された路上キス、貴方はどんな人と唇を重ね合ったの?他人に興味の無さそうな貴方は誰を愛したの?
もう何もかもどうでも良くなった
芸能界?事務所?同性?
そんなの知らない、私が好きなのは五十嵐彩瑛、貴方なの
「私、思い出しました。はっきり」
五十嵐さんの細く今にも折れそうな手首を強引に掴み、壁に押しやってキスをした
酒の入った私の無謀な判断は正しかった
_「私やっぱり五十嵐さんのことが好きです」