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フィクションです。
Another one
今やMrs.GREEN APPLEは誰もが知ると言っても過言ではないくらいの大きなバンドになった。
いつからだろう
俺たちの日常に記者が付きまとうのが当たり前になったのは。
元貴と付き合っているけれど、メンバーだし、親友でもあることは周知の事実だ。どこでどんな行動を共にしていても、仕事かな?とか仲がいいんだね、で終わるだろう。バレることはないよと3人で盛り上がったことを思い出す。
だからこそ、油断していた部分はある。
事務所に呼び出され、見せられた写真をみて言葉を失った。そこに写るのは確かに俺で、確かに俺の家だった。
お相手の入っていった場所もまた然り。
俺の家とは言ったが厳密には少し違う。俺たちは、特に楽曲制作を担う元貴は誰よりも忙しくて、プライベートで会う時間をつくるのは難しい。だからいつでも会えるように、いつでもサポートできるように同棲することを決めた。だから今の俺の家は元貴の家。ただ自分が持っているギターを全て移すと余りにも居住空間が狭くなってしまうので、元の家は契約したまま物置とギターの練習部屋として使っている。
週刊誌の記者さんは、情報通とはいえ俺があの家にもう住んでいないことを把握できていなかったらしい。
元貴もこれで嘘だって分かってくれると安心しつつ、こんな根も葉もない嘘が元貴の目に触れ、耳に入ってしまうことが悔しかった。
ざわつくスタッフさんの中、俺と元貴の関係や、もちろん家のことも知っているマネージャーが察して事情聴取に名乗り出てくれた。場所を移して二人きりで話した。
お互いの心配はやはり元貴のことで、最悪また活動休止するとか言いかねないよね…と言葉を濁した。さすがマネージャー、元貴のことをよく分かっている。
涼ちゃんと共に部屋に入ってきて、仕事として割り切って話している元貴を見たとき、こいつは本当にすごいなと思った。もし俺が逆の立場だとしたら、感情に任せて強い言葉をぶつけてしまうだろう。
でも、やっぱりどこかいつもと様子が違う気がした。無理して強がっているような。
元貴はスタッフと話していて、涼ちゃんが一人でいたので話しかける。
「涼ちゃん、迷惑かけて本当にごめん」
「僕は全然。それより、元貴のことよろしくね。多分だいぶショック受けてたから。」
「え、そうなんだ…さっきは全然普通に見えたけど」
「若井の前だから強がってるに決まってるじゃん。スタッフさんから聞いたとき手が震えてたし、泣きそうな顔してたから。」
ああ…涼ちゃんがいてくれて本当によかった。最大限の感謝を伝えてその場を去る。やっぱりそうか…元貴は人に弱みを見せることはほとんどしない。それは恋人である俺に対しても例外ではなくて、前に比べたら頼ってくれることは多くなったけど今でも元貴は一人で抱え込んでしまう。
帰ったらゆっくり話を聞こう。
眠ってしまった恋人の頬を撫でる。普段からあまり眠れない元貴だが、俺と身体を交えた後はぐっすり寝られるらしい。
今日はきっと精神的にも疲れさせてしまっただろう。こんなことがあろうとも俺たちには仕事が山積みだ。明日からまた収録やら制作やら色々なことが待ち受けている。
せめて今日くらいはゆっくり休んでほしい。
起こさないように諸々の後片付けを済ます。それと、涼ちゃんにお礼の文面を送る。やっぱり俺たちは3人でチームだ。誰が欠けても成り立たない。涼ちゃんの観察力とか察する能力とか…いつも助けられてばかりだ。
俺も二人のために何か役に立ててるのかな。
「愛してるよ、元貴」
返事がない空間に投げかけた。