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部屋にあるのは電動ベッド。
脇にある小さな本棚には、「文語訳旧約聖書全集」。
部屋の中央には食事を摂るためにある小型のダイニングテーブル。
セットのチェアは2つある。
それでも食事を摂るのはいつも一人だ。
他には衣服が掛かっているドレッサーが一つ。
そこには白と紺色が鮮やかなツートンのTシャツも、肌触りの良いニットパーカーも、七分丈でカットされた薄茶色のチノパンも掛かっているのだが、俺は水色とピンク色のチェック柄のシャツとジーンズを好んで着ていた。
風呂に入った後、それが洗濯物として回収されていると、他の服を着ずにボクサーパンツ一枚で過ごす俺に呆れたのか、《《彼女》》はよく似たチェックのシャツと少し色褪せたジーンズを買ってきてくれた。
窓はない。
ドアが一つあるだけだ。
この部屋に出入りするのは3人。
彼女と、彼と、少女だ。
彼女は、俺を日に一度、風呂に入れてくれる。
年は見たところ20代後半から30代前半。
白い肌は異国の血が入っているのかもしれない。
髪の毛の一本一本から、足の爪に至るまで、少しの隙も油断もなく、完璧な美しい女性だ。
身体は細身ながら胸部と臀部にボリュームがあり、しなやかに歩く姿は、洋画の貴婦人を連想させる。
声は少し鼻にかかり官能的で、鼓膜と脳髄をくすぐったく震わせる。
彼は、俺の部屋の掃除と、洗濯をしてくれる。
年の功はおそらく30代半ば。
浅黒い肌で長身。
蝶ネクタイ、白シャツに黒いスラックスという硬い服装の上からでも、その身体のたくましさが十分に想像できた。
いつも腰からシェフさながらのロングエプロンをしているくせに、彼は掃除係だった。
俺が彼女に風呂に入れてもらっている間、部屋の掃除を済ませ、洗濯ものを回収していってくれる。
寡黙で言葉を発しないため、声質は不明。
最後に少女。
少女は給仕係だ。
日に2度の食事を丸盆にのせてやってくる。
年は中学生か高校生。
なぜ言い切れるかというと、まず容姿が幼い。
肌は健康的に日焼けをしている。
少しだけ中央に寄った目は丸く大きくて、子猫を連想させる。
黒髪は左右に縛られ、赤いゴムで結わえられていて、制服が似合いそうだと思っていたら、一度本当にセーラー服で現れた。
彼女も声を発したり話しかけたりはしないため、声質は不明。
3人の関係性も不明。
そして3人がなぜ俺の世話をしてくれるかも、それをいつまでしてくれるのかもまた、不明だ。
彼女は、蛇口のハンドルをめいっぱい捻ってぬるめの湯を出した。
そして狭いバスタブがものの数分で一杯になると、俺の手を引き、バスルームまで連れていく。
シャツのボタンを外し、インナーを頭から抜き取って、ズボンのボタンを外しチャックを下ろす。
片脚ずつつま先からズボンを抜きとり、ボクサーパンツに手をかけると、それを足首まで引き下ろしたところで一度止まる。
「……………」
こちらを見つめる瞳に、意味を感じ始めたのはつい最近のことだ。
しかしどんな意味があるのかまではわからなかった。
ある日、彼女はこちらを見上げると、そっと俺のソレに触った。
「――――」
嫌悪感はなかった。
ただ彼女の細く小さな手が、自分のどす黒いそれを包む情景に確かな違和感があって、僅かな罪悪感が湧いて、俺は眉間に皺を寄せた。
「こういうことするの、嫌?」
彼女はソレを手に包み、軽く上下させながら、俺の瞳を見つめて問う。
「―――こういうことって?」
軽く首を捻る俺にふっと笑うと、彼女は膝をつき、ソレを両手で包むと、その先端に口づけをした。
それから彼女は風呂の前に決まって、俺のソレを口に含み、手で優しく擦って、白い液体を搾り取っていった。
その快感に思わず声を漏らすと微笑み、無意識に尻を震わせると愛おしそうに抱きしめた。
嫌じゃなかった。
それどころか心地よくて気持ちよくて、その行為に夢中になった。
ある日、彼女は一緒に連れてきた彼に、掃除と洗濯は後でいいからと告げた。
彼は一瞬怪訝な顔をしたものの、彼女に向かって深々と頭を下げ、この部屋の唯一外部とつながっているドアから退出していった。
「服を脱いで……」
彼女は俺に言った。
いつもならバスルームで脱ぐのに。
僅かな違和感を覚えた。
しかし俺が彼女に逆らう理由もない。
ベッドに座ったまま、俺はシャツのボタンを外した。
下まで全部外し終えると、彼女は俺の手を優しく制して、そのシャツを脱がせた。
インナーも頭から抜き取ると、彼女は自分が来ていたワンピースの胸元のボタンを上から外し始めた。
谷間が見える。
白くはち切れそうな左右の乳房が我先にと競うように前にせり出してくる。
紫のレースの下着が露になる。
その官能的な光景に思わず息を飲むと、彼女は笑いながらその谷間に、赤いネイルを施した細い指を挿しこんだ。
「――――!?」
出てきたのはチェーンがついた黒い皮のリストバンドだった。
甘く官能的な下着にそぐわないそれを見て、眉間に皺を寄せた俺に彼女は囁いた。
「この間、聞いたでしょう。この先を知りたい?って」
言いながら俺の手首にそのリストバンドを巻いていく。
「どう?先を知りたくなった?」
もう一つの手にもバンドを巻くと、彼女は俺の腰の脇に両手をついて、こちらを至近距離で覗き込んできた。
前かがみになった女の開いた胸元。
紫色の下着のその奥まで見える。
盛り上がった白い乳房の、薄桃色の先端が少しだけ見えていた。
ゴクンと唾を飲み込む音が、静かな部屋に響き渡った。
めくるめく展開に、何が起こったのか思い出そうとしてもうまくいかない。
自分のむき出しになったソレは、彼女のワンピースでよく見えない股間に吸い込まれていった。
スカートの襞越しにはよく見えないが、熱くぬめったそこに吸い込まれるとき、確かに視界に煌めく星が飛んだ。
「……う…ぁあッ!」
自分のものとは思えないほどの官能的な声が出て、俺は思わず唇を前歯で噛み締めた。
彼女がワンピースの残りのボタンを外し、白く浮かび上がる鎖骨まで紫色の下着を引き上げると、溢れんばかりの乳房が露になった。
―――なんだ、これは。
まるで石膏彫刻のヴィーナスのような美しい乳房がそこにあった。
白くて、大きくてーーー。
そして真ん中にツンと勃ちあがる先端の、大きさも色もいい。
形は整い、ちゃんと上を向いているのに、彼女の動きに合わせて上下するソレは、重く硬そうに見えた。
ーーー触りたい。
おそらく触ったらその柔らかさに驚くはずなのだ。
指が吸い込まれる感覚に、夢中になってさらに強く揉みしだく。
そうしているうちに先端は硬くなって、赤く染まる。
それを口に含むと、まるでソレはソフトキャンディーのように、いじらしく掴みどころがなくて、自分の舌をもどかしくさせるのだ。
そう―――なるはずだ。
それが本能的にわかる。
だって―――。
だって、俺は―――。
女を、抱いたことがある……?
それからの記憶はあいまいだった。
唯一覚えているのは、自分の手首を拘束していた黒皮のリストバンドが、右側だけブチンと切れてしまったこと。
そして彼女が、なぜか異様なおびえ方をしていたことだけだ。
「―――平気か」
彼女はその問いには答えずに、青ざめた顔で俺から下りると、切れたリストバンドを持ち、そのまま黙っていってしまった。
「――――」
意味も分からず俺はおざなりに左手にだけ残ったリストバンドを睨んだ。
グイと引いてみる。
ビクともしない。
なんでこんなものが引きちぎれたのか、自分でもわからない。
ギイ。
遠慮がちに、彼が入ってくる。
ダイニングテーブルから、彼女が情事の前に脱いでおいたカーディガンをむんずと掴み、床に投げ捨てる。
「――――!」
信じられない思いでそれを見ていると、彼は無言で左手首の拘束を解いた。
「ど、どうも」
確かに声を発したはずなのだが、彼はそれには反応せず、ふんと面倒くさそうに鼻を鳴らすと、クロス引きさながらの動作で、俺の尻の下からシーツを抜き取った。
新しいシーツを俺の枕元に置き、他の洗濯物を籠にまとめ上げると、彼はこちらに軽く一礼をして、部屋を出て行った。
「―――――」
ため息をつきながら、シーツも敷かずにマットレスの上に寝転がる。
「―――女か」
自分が過去にどんな女を抱き、その女とはどんな関係だったのか、必死で思い出そうとしたが、浮かぶのは彼女の白い乳房のみで、記憶の断片すら捕まえることはできないまま、俺は眠りについた。
―――やけに、眠い。
このところ、ずっと。