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緑川の死体は、桃瀬たちの死体を処理した人間たちと同じような格好をした奴らが、あっという間に回収していった。
「――青木浩一。手当は必要か」
そう聞いたマスクの下の男の声が、いつも響いてくる謎の人物の声と少し似ていた気もしたが、青木は首を横に振った。
肝心の謎の声は、今日は何も響いてこなかった。
「…………」
「――――」
青木と赤羽は、どちらからともなく街灯の灯りがわずかに入る神社の境内に座った。
「悪かったな。アイツの正体にもっと早く気づいてれば」
赤羽が頭を掻きながら言う。
「いや、お前は何一つ悪くないよ。助けてくれてアリガトな」
青木はフッと笑った。
「今何時」
「7時になったとこ」
赤羽がスマートフォンを確認しながら言う。
「白鳥、今頃ドキドキしながら待ってんだろうな……」
青木は空を見上げた。
「行ってやれよ。お前が」
赤羽は青木を見つめた。
「あいつにはもう、お前しかいないんだからさ。行ってトドメをさしてこい」
「――――」
青木は赤羽を見つめた。
「お前は?」
「ん?」
「お前は今夜、何をして過ごすんだよ」
「――――」
赤羽はふうっと息を吐いた。
「別に、なにも」
「何もって……」
「あー。コンビニでなんかうまいものでも買おうかな。最後の晩餐ってやつで」
赤羽はカラカラと笑った。
「……恋人に連絡は取らないのか」
「――――」
「家族には?」
「いーんだよ」
赤羽は青木を振り返ると、その頭に手を置いた。
「お前は自分のことだけを考えろ。絶対に家に帰って、絶対にお袋さんと妹に会うんだぞ」
「…………」
「それが俺の一番の願いだ」
「……赤羽」
青木はその手をギュッと握ると、赤羽の胸に顔を寄せた。
「………青木?」
そのまま背中に腕を回し、赤羽を抱きしめる。
厚い胸に耳を押し当てる。
トクッ。トクッ。トクッ。
確かな鼓動が聞こえる。
明日には止まってしまう鼓動が――。
「……青木。感傷に浸ってるとこ悪いんだが」
赤羽の声が身体を伝わって響いてくる。
「俺は、その、ほら。マジでそっちの人間だから」
「………?」
青木は赤羽を見上げた。
「男に抱きしめられると、勝手に身体が反応しちゃうんだよ」
赤羽は細く長く息を吐きながら、うんざりするように片手で顔を覆った。
「――――」
青木は赤羽の硬く主張してくる股間を見下ろした。
「……こんなときに悪い」
赤羽が今まで聞いたことのないようなバツの悪そうな声を出す。
「ふっ……」
青木は笑った。
笑いながら、赤羽のベルトに手を掛けた。
「……な……おい……!?」
目を見開く赤羽に微笑みながら、青木は自分のベルトも外した。
「ご馳走とはいかねえけど、最後の晩餐、付き合ってやるよ」