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転校してきた殺し屋君第7章:古都の影(シノビ)
第33話:継承の儀
「黒咲雅樹。お前が組織の『マザー』を討ち、伝説の暗殺者たちの技術を一人で体現していることは、我ら隠れ里にも響いている」
老人は、枯れ葉一枚動かさぬ静謐な動作で茶を啜りました。
「組織は滅び、お前は帰る場所を失った。だが、その才能を腐らせるには惜しい。どうだ……我が一族の娘、朧を娶り、次期頭領として『霧隠』の名を継がないか?」
背後に控える朧が、わずかに頬を染めてうつむきます。 「お前が継げば、一族の力でお前の過去をすべて洗浄し、この国を影から支配する『真の力』を与えよう。……偽りの学生生活などという砂上の楼閣より、よほど確かな居場所だと思わぬか?」
圧倒的な提案。 それは、殺し屋として生きる者にとって、これ以上のない「栄誉」と「安全」の約束でした。
「……確かに、魅力的な話だ。あんたたちの技術には、俺が持っていない『深み』がある」
黒咲は木刀を地面に突き刺し、老人の眼を真っ直ぐに見据えました。
「でも、断る。俺には、もう帰る場所があるんだ」
「ほう? クラスメイトとの、ごっこ遊びのことか?」
「……ごっこ遊びじゃない。俺がマザーを殺したのは、王になりたかったからじゃない。朝、学校に行って『おはよう』って言い合える、そんな当たり前を、命を懸けて守りたかったからだ」
黒咲の言葉に、老人の目が細められます。 「俺はあんたたちのような影の支配者にはならない。俺は……ただの高校生として、あいつらと一緒に卒業したいんだ」
その瞬間、老人の周囲から殺気が爆発しました。 「ならば死ね! 誘いを断る者は、一族の機密保持のため生かしてはおけぬ!」
老人が袖から放ったのは、目にも止まらぬ速度の糸。黒咲の首を刈り取ろうとしたその時、背後の竹林から二つの影が飛び出しました。
「残念だったな、じいさん! 凪は俺たちのクラスの『出席番号24番』なんだよ!」 黒蜜のスタンガンが糸を焼き切り、 「修学旅行の自由行動、勝手に一人で決めないでくれる?」 藤堂の木刀が、老人の追撃を阻みます。
さらには、遠くから玲亜の声が響きました。 「凪くーん! 集合時間だよー! 早く行かないと新幹線に遅れちゃうよー!」
浩一はフッと笑い、老人に向かって深く一礼しました。 「……悪いな、お頭。俺、今日中に帰って明日の予習しなきゃいけないんだ」
老人は、呆然と立ち去る三人の背中を見送りました。 「……ふん。技術は怪物だが、中身はただのガキか。……疾風、朧。追撃はやめよ。あの『日常』という名の狂気は、我らには斬れぬ」
新幹線のホーム。 お土産の八ツ橋を抱えたクラスメイトたちの中に、浩一は静かに溶け込んでいきました。 殺し屋の頂点よりも、ただの「凪くん」でいることを選んだ修学旅行の終わり。
(つづく)
コメント
1件
はい、読みました…!「継承の儀」、すごくいい場面でしたね。組織の頭領から「次期頭領になって娶れ」という破格の提案。でも黒咲くんが選んだのは“ただの高校生”としての日常。あの「出席番号24番」って言葉に、クラスメイトとの絆がぎゅっと詰まってて、じんわりきました。藤堂くんや黒蜜くんが駆けつける展開も熱いし、何より老人が「日常という名の狂気には斬れぬ」と認めざるを得なかった締めくくりが絶妙でした。修学旅行の終わり方として、とても好きです🌿