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ポツダム宣言が受諾される14時間前。
8月14日午後10時半頃。
グアム島を出発したアメリカ軍B29爆撃機約132機が日本上空に飛来していた。
ほとんどの民家はあかりを消し地上は闇に包まれていた。
そんな家々の上空をとある一機の爆撃機が飛行した。
「目標を確認!石油秋田製油所です! 」
その爆撃機の搭乗員が無線に向かって呼びかけかける。
この時の空襲で狙われたのは秋田の有する石油秋田製油所。
そこは当時、日本最大の石油量を誇っていた。
『OK』
『目標に差し掛かり次第投下せよ。』
「了解。」
その搭乗員は操縦桿を力強く握った。
元々彼は軍隊志望ではなかった。
他人の命を奪うもの且つ自分の命の保証もない。
それは誰しも嫌がるものであった。
しかし時は戦時中。
やりたくなくとも、やらなくてはならぬのだ。
(俺の任務は製油所の爆撃……。)
(それほど命を奪わずに済むんだ……)
不幸中の幸いとでも言うべきか、彼の爆撃目標は夜の製油所。
昼間よりも人員は少なく、民家もない。
それは彼にとって救いだった。
製油所に接近すると、搭乗員は一気に機体の高度を下げ、焼夷弾弾を投下した。
バラバラと無造作に落ちていく焼夷弾は次々と爆発する。
そして一瞬のうちに燃え広がり建物はガラガラと崩れていく。
「ッ………」
思わず息を飲んだ。
今見える光景は間違いなく自分達がやったもの。
例え自分一人だけでなく多数の人がやった事だとしても、製油所に炎をあげさせた事に変わりは無いのだ。
そしてその他の爆撃機により都市への爆撃が始まった。
闇に包まれていたはずの地上は一瞬にして火を灯し、凄まじい音と共に炎があがる。
夜のくらい真っ黒な空と、燃え上がる真っ赤な炎は残酷な光景を生み出した。
まさに地獄絵図だった。
秋田への2時間に及ぶ空襲が終わりを迎えたのとほぼ同時刻。
8月15日未明。
こちらでは埼玉県の上空に爆撃機約80機が飛来していた。
次々と容赦なく焼夷弾が降り注ぎ、家や人を吹き飛ばしていく。
街は火の津波に飲み込まれるかのように崩壊していく。
秋田よりも爆撃機の数は少なかったものの、都市の三分の二以上が焼け野原となる大きな被害となった。
『今上から命令が入った!撤収だ!』
『日本の降伏が確定!』
『明日にも国民に知らせるとの情報だ!』
あと少し、あともう少しこの情報が入って命令が下っていれば……。
秋田も埼玉も被害をうけなかったのに。
この二つの空襲は日本での最後の空襲となった。
1945年8月15日
正午。
とある文書がラジオ放送を通して全国へと報道された。
「耐エガタキヲ耐エ、忍ビガタキヲ忍ビ……」
祖国様の声で玉音放送が始まった。
五分弱のその放送を聞くために長崎、熊本、大分、沖縄以外の九州地方が集結していた。
そしてその放送が終わった数分後、大分がとある電文を運んできた。
「ふーん、神奈川がねぇ……」
福岡は神奈川が反乱を起こしたという情報を耳にし、「うーん」と腕を組んだ。
玉音放送で終戦を告げられ、少し安心していたがどうやらまだ安心は出来ないらしい。
「どうする?福岡」
「私達は何をするべきなのでしょうか、」
眉を少しさげた大分と両手を握りしめた佐賀が心配そうな表情で聞いてきた。
そしてその後ろ には宮崎と鹿児島の姿がある。
宮崎はこちらを見ているが、鹿児島は少し体と視線を逸らして腕を組んでいる。
「どうするって神奈川のこと?」
「そう」
「このままただ見ているのもどうなんだろうって思って……。」
「まあ俺は東京とか千葉とか……関東のその辺が何とかしてくれると思うからこのままでもいいと思うけど。」
宮崎が答えた。
その後に「こっちは沖縄や長崎のこともあるしな……」とぼそりと呟く。
長崎に原爆が投下されて六日。
今だに長崎の目が覚めることはなかった。
それは広島も同様らしく、原爆の威力が計り知れる。
そして沖縄。
沖縄は完全にアメリカにより占領され、手に負えない状況となってしまっていた。
これら二県を抱える九州にとって、はっきり言ってこの事態に手を回す余裕はあまりないのも事実だった 。
「その関東だって今日未明、埼玉が空襲受けてて手がまわってるのかも分からないんだよ……!?」
大分が心配そうな声をあげた。
「もし神奈川……いや厚木の反乱が米国に知られたら……」
「間違いなく、徹底的に叩き潰されるだろうな。」
それまで一切口を開いていなかった鹿児島が静かに、尚且つよく通る声で言った。
まるで一切動かない水面に一滴の雫を落としたかのように、波紋として部屋に溶け込む。
そしてずっしりと重たい空気が伸し掛かった。
─間違いなく叩き潰される。
これには福岡も同意だった。
相手はあの米国。
一時は米国に対し優勢をとっていたが、戦いがじりじりと長引くにつれ徐々に劣勢に陥っていった。
資源不足。
やはり長期戦になれば勝ち筋などなかったのだ 。
時が経てば経つほど見えて来るのは敗戦の道。
そろそろ限界が近づいて来た頃、とどめを刺すかのように二発の原爆が落とされ、ほぼ同時にソ連の対日参戦。
今の日本はもう戦える状況ではなかった。
だからこの件が米国に伝われば反撃も虚しく、再起不能に落とし込まれるだけだった。
「ねぇ、鹿児島はどう思う?」
沈黙を切り裂くように福岡は尋ねた。
鹿児島は親である薩摩の血を引いていて非常に頭が切れ、戦闘にも詳しかった。
だからこそ鹿児島なら何か意見をくれるかもしれないという期待を持ったのだ。
鹿児島はしばらく黙っていたが考えがまとまったのか、ゆっくりと話始めた。
「俺は…この事に関しては、俺達が関わるべきものでは無いと思う。」
全員の視線が彼に集まった。
しばらくしてもう一度彼は口を開いた。
「それってどういう……」
「話せば少々長くなるが……」
「聞いてくれるか?」
鹿児島は目を伏せ、顔を若干顰めて言った。
先述した通り、鹿児島は薩摩の血を継いでいる。
幼い頃から薩摩の教育を受けて育ってきた鹿児島。
その教育の影響で鹿児島は普段感情を表に出すことはしなかった。
私情を話す事も無かった。
だからこそ今の鹿児島の言動は滅多に見せることないものだった。
意識が自然と鹿児島に向く。
「……分かるんだ」
「……神奈川が何故このような事をしたのか」
全員が鹿児島の言葉を聞き逃さぬように耳を傾けた。
─息をするのも忘れて。
「怖いんだよ……神奈川は。」
「祖国様の扱いだけでなく、」
「兵士達の想いまで犠牲にするのが。」
「……神奈川は厚木を含め、複数の航空基地を持っている。」
「そこから空へ飛び立ち、散っていった兵士達は数しれない。」
「ここで降伏し米国に占領されることは」
「国を守るためや、大切な人を守るために逝った兵士だけでなく」
「死にたくない、まだ生きたいと思っていた兵士達まで無駄死だったと言うことと同じだ。」
鹿 児島はここまで言って深く深呼吸をした。
その吐息は微かに震えていた。そしてもう一度大きく息を吸い込む。
「俺も神奈川と同じく海軍で、航空隊を持っている。」
「知覧という多くの兵士が飛び立った基地を。」
「俺はそこでいくつもの遺書を目にしたんだ。」
「涙で皺をつくった茶封筒を見る度に胸が苦しくて、痛くて、、」
「これが夢ならどれほど幸せか。」
「夜な夜な毎日考えていた。」
「……そして英霊達の想いは決して無駄にしない……」
「……そう思ったんだ。」
鹿児島はその場にいる福岡、佐賀、大分、宮崎を順々に見つめた。
そして深く深呼吸し、目を伏せた。
目元には影が落ち、顔は十分に見ることはできない。
「……俺も……」
「……神奈川と同じ気持ちなんだよ」
「正直に言うと、俺も降伏はしたくなかった……」
「何故なら兵士達の想いを無駄にしてしまうかもしれないから。」
「それに祖国様だって……」
「でも、このままいけばさらに犠牲者は増え続け、英霊たちが守りたかったものまで犠牲になるって気づいたんだ。」
「でも神奈川はそれに気づいていない。」
「……それほど追い込まれてるんだと思う。」
「だから神奈川の視野を広げさせて、この事に気づかせなければならないと思うんだ。」
「底のない泥沼に陥っている神奈川を、引き出す必要がある。」
「これは俺の勝手な推測に過ぎないが……」
「この役ができるのは……」
「関東しかいない。」
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補足&豆知識コーナー!
最初の秋田と埼玉への空襲はそれぞれ土崎空襲(秋田県)、熊谷空襲(埼玉県)と呼ばれています。
これが今のところ日本最後の本土への
空襲です。
この日本最後の空襲という肩書きが永遠に記録される事を願います(。>人<)
それから補足……
まぁんな事気にしねぇよ!って方が大半かと思いますが、鹿児島が「同じく海軍」って言ったあとの「知覧……という基地を。」と言っていますが、正確には知覧は海軍ではなく陸軍の基地っぽいです。
知覧が1番有名かなと思ったので、知覧にしちゃいました。
何言ってたんだ?って思った方はスルーしてください😭
すみません語彙力なくて😭😭