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※カップリング要素(赤水)、病み要素
※カップリング要素は少し薄めです。
当小説はnmmnです。公共の場での閲覧はお控えください。
閲覧は自己責任でお願いします。
疲れた、辛いことから逃げたい
なんて弱虫の言葉だと思っていた。
常に人から好かれるには絶対に吐いてはならない弱音だと思っていた。
水side
「……はぁ…」
最近ずっと上手くいっていない。
何をするにも失敗ばかりだ。
迷惑をかけないようにしなきゃ、
完璧にしなきゃ。
そう思うほどにミスは増えていった。
「なんでこんな事もできないの……。」
失敗ばかりする自分に心底呆れる。
毎日こんなに頑張っているのに。
努力は裏切らないなんて、結局綺麗事だった。
メンバーには言えない。
みんな自分のことで忙しいから。
僕のことで仕事を増やしたくないし、なにより僕が何も出来ない人間だと思われたくなかった。
だけど、誰かに打ち明けたかった。
僕はいったい何を求めているのだろう。
(明日は…、資料提出して…残りの編集と歌と…えっと…)
作業効率や要領の悪い僕は、何をするのも遅かった。
自分には越えられない壁が多すぎて、また落ち込む。
僕は何もかも下手くそだ。
ああ嫌だ。
(あれ…、前のデータどこ保存したっけ…。)
だけどそんなことを言ったって、時間は決して待ってくれないから。
今日も僕は、デスクに向かって一日作業をする。
そんなある日のことだった。
「ねぇいむ、ちょっと話があってさ。今いい?」
会議のあと、メンバーに呼び止められる。
その相手はりうちゃんだった。
「どうしたの?今暇だし全然大丈夫!」
「本当?よかった、ありがとう!」
満面の笑みでありがとうと感謝を述べる。
その笑顔はなぜか、僕をよりいっそう惨めにさせた気がした。
「あのね、本当に余計なお世話かもしれないんだけど」
「うん、どうしたの?」
「…最近いむ、すごく悩んでる気がして」
僕をまっすぐ見て言った。
いきなりのことで心底驚く。
なにより、気づかれていたことが無性に悔しかった。
あんなに隠していたつもりだったのに。
りうちゃんは、一秒たりとも僕から目を逸らさない。
その視線が、なんだか怖かった。
「……」
「あー……、まぁ人間だし…!多少悩みはあるよねーあはは…、ほら僕ってイケメンだし困っちゃうなあ…みたいな…?w」
「………。」
「………ごめん」
どうやら折れる気はさらさらない様子だ。
自分にもよく分からない。
何に悩んでいて、それを誰にどうしてほしいのか。
どんな言葉をかけてほしいのか。
「……」
「…あのね、僕もよく分かんないの…!」
できる限り明るい顔で。
できる限り明るい声で。
僕は喋り続ける。
「ひたすら頑張っても意味ないしさ、でも頑張らなきゃもっとダメになるんだ」
「よく分かんないけど、まだまだ努力が足りてないんだと思う…っ!」
だから頑張らなきゃいけないの。
そう吐き捨て僕はりうちゃんに背を向ける。
なんだか視線に耐えられなくて、
今すぐこの場を去りたくてどうしようもなかった。
「じゃあ頑張らなければいいよ」
逃げようとする僕の手首を優しく掴み、真剣な眼差しで言った。
「辛いと思ったら逃げなきゃ。そこから策を考えて再挑戦すればいいんだよ。」
逃げる。
僕が一番避けてきたこと。
ひたむきに頑張らなきゃと、そう思っていた。
「でも、でもさ…頑張ることをやめたら…努力することをやめたら…、僕は本当にいる意味がなくなっちゃうよ…。」
やめろ、泣くな。
当たり前だ。
努力することをやめたら価値がなくなるなんて。
分かっていたことなのに、
いざ言葉にするとなんだか悲しくてたまらなかった。
「逃げることも努力だよ。」
「それにいむは、ちょっと逃げたくらいで価値がなくなるような人間じゃないことはよく知ってる。」
りうちゃんはそう言った。
逃げることも努力だと。
最初は意味が分からなかった。
だって、逃げるなんて無責任なことが努力だなんて思ったことがないから。
「自分を楽にしてあげるために頑張るの。」
「なにも人のために頑張ることだけがいいことじゃないって、りうらは思うよ」
自分を楽にするなんて、
ひたすら自分を追い込んできた僕では一生思いつかないことだった。
優しいりうちゃんの視線はずっと僕の方を向いている。
ああ、きっと心から僕を心配している。
そう思った瞬間、こらえていた涙が溢れ出す。
「……っ、りうちゃん…」
「僕…、逃げてもいいのかなぁ…っ?」
「いいの。いむは頑張りすぎだから、たまには楽しなきゃ。」
りうちゃんの暖かい腕が優しく僕を包み込む。
年下の前でこんなに泣いちゃうなんて、みっともないな。
みっともない。
だけど、なぜか今はそれを嫌だとは思わなかった。
「辛いと思ったら逃げればいいし、楽をすればいいんだよ。」
「結局、最後まで諦めなければ、道中の寄り道なんて誰も気にしないって思って。りうらはそう思ってる。」
僕はずっと、ゴールに辿り着くことだけを目標にしてきた。
寄り道なんてしてこなかった。真っ直ぐゴールに向かっていたんだ。
進むだけでは見えないゴール。
転んだり、寄り道したり、そんなくだらない背景がなければきっと、正しいゴールになんて着けやしないのに。
「ありがとう、りうちゃん。」
「僕、どうしても辛いと思ったら逃げてみるよ。」
「今度は逃げてばっかりにならないでよ?w」
「あったりまえじゃんっ!!」
イタズラっぽく笑うりうちゃん。
その瞳は変わらず僕を見つめていて、一秒たりとも逸らさない。
今度は僕も見つめ返す。
その視線を、もう怖いとは思わなかった。
沈黙が流れる空間。
不思議とそこは、居心地がよかった。
「それじゃあ、今月やることなんだけど~…」
それから数週間後の会議。
メンバーたちの真面目な声が飛び交う。
「ここちょっと人数足りてなくてさ、今のところ早く作業終わってるのがいむなんだけど…」
「できそう?これ。無理だったら全然あの…断ってもらって大丈夫!」
「あ…えっと…」
早くやらなきゃ。一番に終わらせなきゃ。
そんな思いでひたすら体に鞭を打って頑張っていた。
寝ない日だってあったし、まともなご飯を食べないこともあった。
その時は意識しないようにしていたけど
本音を言えば休みたかったし、辛かった。
断りきれなくて。
劣等感を抱いて。
ずっとお願い事に頷いていた。
「…そ、の…僕は……」
“辛いと思ったら逃げなきゃ。”
勇気を出して、言葉にするんだ。
きっとこの程度で関係が崩れるわけない。
逃げたって、きっと誰も笑わない。
震えた手に力を込め、大きく息を吸ってから口を開く。
「……、僕、あの…最近忙しくて、あんまり寝れてなくて…。それでその…少し休む時間がほしいというか…っ」
「ぁ、ぁ…いやあの全然、期限近いとかだったらやるけど…っ!」
休む時間がほしい。
今まで口に出さなかった本音。
大丈夫。
たくさん走った後は、たくさん休憩をして、たくさん寄り道をすることだってきっと正解だ。
「え!?ごめん俺がめっちゃ仕事任せちゃったからだよね!?え、ほんとごめん!!めっちゃ休んで!こんくらい俺やるし…!」
「え、あ…、いいの…?」
リーダーは、ないちゃんは、笑わなかった。
もちろん他の皆だって。
「休んでリスナーに元気な姿見せるのだって俺らの仕事だしさ、w」
安堵で強張っていた表情が一気に崩れる。
少し離れた席に座っているりうちゃんの方を見ると、優しい顔で僕を見ていた。
今日は、頑張ることしか知らなかった僕が
逃げることを覚えた日。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
ただがむしゃらに頑張りすぎちゃうと、どうしても辛いですよね。
まぁ私はむしろ楽をしすぎなので
もう少し頑張ったほうがいい人間なのですが…
無責任なことを言ってしまいますが、
皆さん気楽に生きていきましょ。
(表紙)